鼓の塔

「今年は大斗屋おおとやせがれが挑戦するらしいぜ」

 そんな噂話をしながら、町の住人は港の突堤の近くでその巨大な塔を仰ぎ見た。

 まるで鼓を縦に引き伸ばしたような姿をしたその赤くて巨大な塔は、横に細長い港の中央埠頭に堂々と鎮座している。

その塔には不思議な魔力があった。その塔を見ているとなぜか鼓を叩きたくなる衝動に駆られ、町の鼓楽者達はこぞって鼓を打ち鳴らすようになり、いつからか、その巨大な塔によじ登りそのテッペンで巨大な音を打ち鳴らした者は、どんな願いも叶える事ができる。なんて話が囁かれるようになった。

鼓作りの大斗屋三代目の息子は決意し、今年、塔に挑む。全長一〇八メートルの足場のない外壁を己の身だけを頼りに登りきるのだ。

 一方、塔の最上階展望室にいた男は後ろに控える秘書に困惑の表情で訊ねた。

「ねえ、何で皆エレベーター使わないの? 全員馬鹿なの? ねえ」

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