文学樹 ~綿毛の手記~

 私は樹になりたい。

 大地にしっかりと根を張った、腕をまわしても決して届かない太さの、しかしシッカリとその樹皮の奥から息吹が感じ取れるような、けして倒れる事のない、そればかりか幾万もの細木を支えられるような力強さをもって、若くて瑞々しい葉をコンモリと付けた、そんな樹になりたい。

 しかし今の私は、吹けばどこまでも漂ってしまう綿毛でしかなく、このまま芽すら出すことのないまま腐ってしまうかもしれなく、そもそも私が根付こうとしている土地には、既に多年草がビッシリと生えて降り立つその隙間すらなく、ケバケバしい色をした小さい花たちは、嘲笑を浮かべ蔦を周囲に張り巡らせ、お呼びじゃないよとフウフウ息を吹きかけてくる。

 けれど私は思うのだ。今嘲笑を浮かべ隣同士で笑い合っている花たちは、たちまち枯れて、消えて、忘れられてしまう。あなたたちはそれでいいのか、と。

 だからこそ、私は分不相応と言われようが、恥知らずと言われようが、胸を張って叫ぶのだ。

 私は樹になりたいと――。

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