味噌汁のキュウリ

 味噌汁にキュウリが浮いている。二ミリ程の薄さにスライスされて、斜めな断面をさも当然の如く汁の間から覗かせている。真ん中の種の部分がなんだか顰め面をした老人のように見えた。

「ようよう、母ちゃん。味噌汁にキュウリって普通、入るもんかねえ。キュウリってのはもっとこう……、シャキシャキポリポリと、瑞々しさを感じられるような場所に入るもんじゃないかねえ。こりゃどうみてもクタクタのヨレヨレだよお」

「おや、あまり知られていないだけで美味しいかもしれないでしょ。クタクタのヨレヨレになったって、キュウリの魅力は損なわれないわよ。瑞々しさだけが武器じゃないんだから」

「そんなもんかねえ」

 汁に浮いたキュウリを箸でつまみ出し、口に入れた。普段はポリポリシャキシャキでごまかされがちの本来の味が直接喉を通った。

 案外、悪くなかった。

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