食卓

 子供も居らず、妻と二人で五十と数年を生きてきた。荒波をなんとかくぐりぬけ、現在は凪のような時間を過ごしている。

 最近になって、妻の行動に異変が生まれた。

 飯の時間になると、なぜか椀を三人分用意する。米もおかずも三人分準備する。

 これまで二人で食卓を囲むのが常であったのに、まるで三人目の誰かがそこに存在するかのように、当たり前の顔でご飯をよそっている。

「おい、一人分多いぞ」

 そう言ってしまえば簡単なのだろうが、私にはそれが出来なかった。それを口に出した瞬間に、また大きな波が襲ってきそうで恐ろしくなった。

 今日も一人分多い食卓に座り、私は妻と晩飯を食べた。

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