400文字神話#1 ~動始山のバジ~

 宇宙の端にある動始山どうしざんの麓に、恒河沙猫ごうがしゃびょうという巨大な黒い猫が住んでいた。無為な時間に飽きた恒河沙猫は暗黒に聳え立つ大樹の虚の中で、子を産んだ。その子は毛が頭にしか無く馬のように面長で、二本の足で立ち、小さな耳が横に付いていた。奇怪な子が生まれたものだ、と恒河沙猫は訝しんだが、その子にバジという名を付け、とにかくも育てる事にした。

 バジはチョコマカと山裾に広がる森の中を駆け回った。小さな耳がピクピクと動いて、木や草や動物や風の声を拾う。ウワンウワンと滝のように響いていたそれを、いつからかバジは器用に聞き分けられるようになった。

 ある時、バジが動始山の頂きで昼寝をしていると、麓の大樹の方角から恒河沙猫の心の声が聞こえてきた。

「バジは逞しく育ったが、我の退屈は一向に治まらぬ。ただ寝そべって時を過ごすのならば、いっその事精神を封じ、退屈から逃げ出してくれよう」

 バジは慌てて恒河沙猫の元へ駆け戻ったが既に遅く、巨大な猫は黒い湖へと変貌していた。

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