雨が降っている。

 すこし気取った感じのする、読み方の難しい店の軒先でワタシは雨宿りをしている。なぜaやuやeの上に記号を付けるのかな。もしかして英語じゃないのかな。ワタシにはわからない。

 雨の所為か、涙の所為か。化粧が流れ落ちて、ワタシは一気に老けてしまった。十万歳くらい。フハハハ、お前を蝋人形にしてやろうか。そんな強がり、彼の前で言えたら良かったのに。

 カランカランと店の中から男の人が出て来る。奥からは「メニュー書き換えて!」と叫ぶ声がした。ランチからディナーへと変わる為に、イーゼルに載った黒板の文字を書き換えるのだろう。

 出てきた男の人は、「わかりにくいメニュー名書いたって誰も読まねえだろうがよ」と一人で悪態をつき、黒板にテルテル坊主とカエルの絵と吹き出しマークを描き、「アラヤダ、ヌレチャウ。ワタシ、カエル」とセリフを入れた。フフッ。ワタシは笑ってしまった。

「あ、傘貸しましょうか?」ついでといった具合に、振り向きざまで男の人はワタシに言った。

「いえ、もう大丈夫です」ワタシはそう言って雨の中飛び出した。

 心に傘を差して――。

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