お碗の生涯
それを無機質に、ただ一点の感情もなく文章で表したならば、直径十センチ、底の深さ五センチ程の、陶器で出来ていて縁に朱色の花模様が描かれた、少し黄色味を混ぜた灰色の、ご飯用のお碗である。
しかし、私はこのお碗で、既に八年近くも飯を喰らっていたのだから、もう少しばかり愛着を込めて、こう表現したい。
しゃもじで飯を三杯程盛ると、その縁からご飯粒がポトリと溢れてしまう程の、丼よりは小さく、汁物を容れるにはちとデカい、病弱だった母の肌によく似た色の、縁にほんのりと朱色の牡丹で化粧した、お碗。
そのお碗が、先日ちょっとした拍子で、割れた。割れてしまった。
私にはそれがなんだか物悲しく感じられ、トボトボと残骸を掃除すると、食器棚の上段に箱に入ったまま置かれていた、新しいお碗を取り出した。それは一度も使う事が無かったのだが、ペアで買っていたお碗であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます