偽曲 ~辺境(リンボ)の追跡者~

目的も無く無為に生きたが故、其処に居る。

三十三の年月を振り返っても、空虚の陰り。

穴を掘り、又埋める作業には意味など無い。

ただいたずらに、無価値なる時間を過ごすばかり。

辺境の入り口に深く沈む森の奥よりきたるは、

斑紋まだらもんの豹、痩せ細った牝の狼、怒れる獅子。

その後ろに続いて詩人と疲れ顔の男が現れ、

深き地獄の底へと続く谷にその足を向けた。

黒い土塊つちくれを弄る手を止め、行方を目で追う。

三匹の獣が我が視線に気づき動きを止める。

たちまち我が傍まで駆けて来たかと思うと、

足の先から髪の毛に至るまでしつこく嗅ぎ、

お前に覚悟があるなら救いをやるぞと鳴き、

先に地獄へと降りたの者を追って行けと、

獰猛な笑みを見せ、身を翻して森へと帰る。

去り際に獅子が顔を近づけ囁くように言う。

機会が訪れたなら、その石片で男を殺せと。

男の名はダンテ。地獄を旅する咎人である。

我が手に握られた無為に土を掘る為の石片。

其れを胸に掻き抱き、地獄の底に向かった。


 ◇ ◇ ◇


※この作品はダンテ・アリギエーリ著「神曲」を基にさせて頂いておりますが、その思想、信仰、芸術性を否定する意図は全くありません。二十字×二十行という文の構造にのみ目的を集約させた作品ですので、何卒ご了承の程、お願い申し上げます。

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