第29話 天使になる!!(実際はなりません)

「な、なんでだよ!?」

俺は硫黄に問いかけた。

「それはごく簡単。主様はこの世の人間だからです。本来人間は時間移動をして歴史を変えてはいけないんです。そんな事をすればこの世のすべての人間の運命が白紙に戻ってしまうんです」

「……ふうん。じゃあ、俺が天使か何かになれば話は別か」

「は?何を言っているんですか。そんな簡単に天使になんてなれる訳ないじゃないですか」

俺は少し大きな声でガブリエルの名前を呼んだ。

「あ、お兄さん。だめじゃん、人間のお兄さんが私を呼んじゃ」

「お前しか頼れる人間、いや天使はいないんだよ」

「まあそうでしょうねぇ。で、お願い事あるんでしょ?」

「俺を天使にしろ」

「主様、そんな直球な。いくら寛大な天使様でもそんなこと許すわけ……」

「いいよ?」

「ほら、いいよって……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

硫黄は予想通りの返答を返して来てくれた。

「丁度、天使の座が一人空いてるからいいと思う。お兄さん、この世界の理には縛られてないし、神が決めた道も決まってない。つまりお兄さんがどんな道を進もうがこの世界に影響はない。よほどなおおごとをしなければ、ね」

「例えば?」

「うーん、例えばお兄さんの助けたい人が魔人になっちゃってそれを戻すために天使になる。とか?」

「へぇ、お前も意地悪だな」

「あはは、私は楽しければ何でもいいから」

そう言うと俺はガブリエルに腕を掴まれた。

「まあ、いいと思うけど一応天使のジジイどもに聞いておかないと後々うるさいから。んじゃ、天界へれっつごー!」

そう言うと、俺達は光に包まれ気がつくと白いモワモワした綿の様な所に立っていた。

「へぇ、ここが天界か。結構神々しいんだな。まあ天使と神がいるからそうなるのも当たり前か」

てゆーか、おとぎ話みたいな感じだな。

「ミカエルー!お兄さん連れて来たお」

「まったく、勝手な行動はしちゃいけないよ」

そう言って出て来たのは金髪で白い服を着たなんというか、天使!って感じの男だった。

「こんちゃっす」

「おや、君がガブリエルの言っていた面白い男の子かい?」

「そうだお!」

ガブリエルは無邪気な笑顔でミカエルの横に立って何かを話していた。多分俺が天使になりたいという願いを話しているのだろう。天使は前世の日本の伝承と同じだった。ということは、速攻で断られるんだろうなぁ。

「……別にいいんじゃないかな?」

「へ?」

俺は拍子抜けしたような声でミカエルを見た。

「丁度天使が一人辞めてしまったからさ。いやー、助かったよ。その代わり、天使になったとしたら仕事はきっちりしてもらうからねー」

話がとんとん拍子!?

「仕事?」

そう言うと、ミカエルは指をパチンと鳴らした。すると、俺の頭上に大量の書類が降って来た。

「これが仕事。大変だと思うけど、まあ、2年くらいあれば楽勝でしょ!」

「いや、待て!!俺は今すぐやらなきゃいけない事があるんだ!2年も待てねぇよ!!」

そう言うと、ミカエルはニコッと笑って俺の肩に手をのせた。

「大丈夫大丈夫!天界と人間界の時間軸はずれててね、ここでは2年でも人間界では2時間ぐらいしか経ってないんだよ。だから、安心して仕事して?ね?」

うわー、結構やけになってんだな。俺は溜息をついて俺の周りにある書類に目を通した。まあ、結構簡単そうなものばかりだし、いいか。

「分かった。でも、これは交換条件だ。俺が仕事をする代わりに天使の位を渡せよ。分かったな?」

「了解であります!まあ、仕事が終わってからでも遅くないから取り敢えず溜まってるこれをかたずけといてねー!!僕は神様にちょっち話してくるから」

そう言うとミカエルは嬉しそうに走ってどこかへと行ってしまった。あの笑顔、ちょっと胸糞悪いな。

「さあて、お兄さんの執務室に案内するね!こっちおいでー」

俺はガブリエルの後について行った。やはり人間が珍しいのか天使どもは俺をちらちらとみてきている。何か居心地が悪い。

「はい、ここがお兄さんの執務室ー!」

「……ガブリエル、なんでそんなに遠い所にいるんだ?」

「開けてみれば分かるよ!」

そのセリフ、嫌な予感しかしないんだが……。まあ、この部屋で仕事をするしかないんだし、開けないといけないよな。

俺は決心をして扉を開けてみた。すると、紙の雪崩が俺に襲いかかって来た。

「う、うわああああ!」

「この間辞めた天使が病んじゃって、10年分の案件が溜まってたんだー。まあ、雪崩になるのも分かるよねぇ」

「お前、それもっと早く言え」

ミカエルめ。このこと黙ってやがったな。こんなの1年で片付けてやる。

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