第30話 獅子宮天使の人間

俺が天界で天使の仕事を初めて1年が過ぎた。なぜ俺の前にいた天使が病んでしまったのか俺にはよく分かる。毎日当たり前の様な残業、終わらない仕事、上司からのいじめ。あげられる事はめちゃくちゃある。まあ、俺はそんなの慣れっこだから睨めばやっかみも消えるし、結構充実しちゃってる。

「すごーい!1年でもう10年分の仕事終わらせちゃったの!?」

「あとは、約束の2年がかりのやつを半年で終わらせるだけか」

俺は書類をどんどん終わらして行った。書類などめんどくさいと皆は言うが、俺にとっては色々な事が知れるのだ。天界の事、魔界の事、人間界の事、世界樹の事などなど。

「おぉ、今日の紅茶は美味しいね!」

「……お前、何してんだよ」

「休憩!」

「アホか。お前どうせ仕事をほっぽり出して来たんだろ」

「うん!!」

俺はガブリエルの首根っこを掴み、部屋の外に出した。するとガブリエルがドンドンと俺の部屋の扉を叩いた。だが俺は無視だ。本当にあいつに構ってやるほどの時間はない。半年で終わらして爺ちゃんを助けないと!


俺はきっかり半年で全ての仕事を終わらせ、ミカエルの元へと歩いた。そして態度悪く足で扉をバンッと開けた。

「おやまあ、今日も態度が悪いね。その様子だと仕事が全部終わったんだね!凄いじゃないか!」

俺はミカエルの胸元を掴み、引き寄せた。

「あ?今なんつった」

「いえ、なんでもありません」

ミカエルの胸元から手を離し、俺はソファに座った。

「まあ、あの10年分の仕事の件はいいとして。約束だ、天使にしろ」

「うん分かってるよ。それにね、僕はただ君に仕事を押し付けていた訳じゃないんだよ」

俺はあり得ないと言う顔でミカエルを見た。

「そんな僕がそんな事する訳ないって顔やめてよ、傷つくじゃないか!」

「よく分かったな。まあ、お前が俺を押しつけていたのではないと仮定、してなにをしてたんだよ」

「うわ、強調凄い。まあ、ザックリ言えば品定めだよ。君が天使になっても大丈夫か、反逆する気はないか、神に仕えられるか。それを見ていたんだ」

「悪いが、俺は髪に使える気なぞ全くねえよ。神には興味ない」

「おやおや、残念だねぇ。私は君に興味も持たれていないなんて」

振り返ると、そこには銀髪の女性が立っていた。顔年齢は20代後半ぐらいだ。

「誰だよ、あんた」

俺の一言と同じくらいにミカエルは膝を床につけた。ああ、そうか。こいつが天使や悪魔、人間が言っている神様ってやつか。

俺は頭を下げなかった。するとミカエルは少し面白そうに僕を見ていた。神様も同様だ。

「俺はあんたに下げる頭もねえし、あんたに従う気もねえ。ただ俺は望みを叶えて欲しいだけだ。だがこの世の中、ギブアンドテイク。だから願いをかなえる代わりに普通だったら12年かかる書類をまとめ、かつ1年半で仕上げた。これだったら願いを聞いてもらう対価としては十分だろう」

俺はまっすぐその女の目を見ていた。すると、女は少しクスッと笑いミカエルの方を見た。

「お前、こんな野獣を手の上で踊らせようとしていたのか。お前には重すぎるぞ。こんな人間は大抵人知を超えているからな。よし、良いだろう。お前を天使にしてやる。だが、お前は人間界でやらなければならない事があるのだろう。天使とは仕事に追われる身ではあるが、お前は会議にさえ参加すればいいと言うことにしておこう。黄道12宮の天使として生きるがよい。お前の宮は……そうだなぁ。獅子宮の天使として会議に参加せよ」

そう言うと、ミカエルは驚いたような顔になり、またすぐに笑顔になった。四死球というものが何なのか俺にはよく分からない。

「獅子宮というのは黄道十二宮の中で一番偉く、僕の上司って事だよ」

「上司?」

「ミカエルは獅子宮の天使で2番目に高い地位の人なんだよー。で、そのミカエルの上司のえっと、誰だっけ?」

「ウェルキエル様がこれまた病んでしまってね。だから、今まで獅子宮の代表は僕だったんだけど、これからは君ってことだね!!」

何だかすごく嬉しそう!!!

こいつが嬉しそうなのはしゃくだが、まあ天使の力を持ちながら仕事をしなくていいってのはステータスだよなぁ。まあ、それでもいいか。

「分かった。でも、羽ははやさないでくれ。邪魔だし、重そうだし、何より目立つ」

「分かってるよ、じゃあ、始めるぞ」

そう言うと、俺は光に包まれた。そして3秒くらい経って、すぐに天使の義は終わった。気付くと俺の手首にはブレスとピアスがついていた。うわ、めっちゃチャラい人やん。

「ブレスをつけると天界の天使と会話ができる。あと、ピアスは地面に投げると天界に行けるようになっている。まあ、便利アイテムってやつだね」

「分かった。んじゃ、俺はちょっくら獅子宮の奴らの顔と自己紹介してくるわぁ」

俺はミカエルの部屋から出て、獅子宮Leoと書かれた扉をノックした。扉を開くとなにやら不のオーラが漂っている。

「うわ、なんだこれ。天使の死体……」

死んでいた天使たちは俺を見るとピシャンと立って挨拶をしてきた。

まあ、自己紹介のくだりはスルーして、右から順にマティエル、ゼルエル、サハクィエルの3人。マティエルとサハクィエルは女性でゼルエルは男。つーか、この書類の山はなんだよ……。

「お前達、この山ってお前らの仕事か?」

これって多分ミカエルの仕事じゃねえのかな。

「ミカエル様の仕事なんですが、その、ミカエル様に任せてしまうとなんと言うか……」

「仕事が増えるって訳か」

通りで天使でしかも代表のくせに部屋がきれいだと思ったけど。

「俺も手伝うよ。何すればいい」

そう言うと天使3人全員席から立ち、遠慮をした。

「だ、大丈夫ですよ!!こんなの50年もあれば簡単にできます!!」

「長いな、おい。……俺ならこんなの5時間でかたずけられるぞ。さあどうする?今断って地獄を見るか、手伝ってもらい十分な休息をとるか。さあ、選べ」

「ぐぐぐぐぐぐぐ」

結局、俺は天使たちの手伝いをし、かつ2時間で終わらせました。

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