第13話 大切な物

俺は図書館で本を読んでいた。なぜ俺が図書館にいるのか。それは、俺が学年首席だったからだ。学年首席は相当優秀な生徒に与えられる称号らしく、1年の授業は受けなくていいらしい。

「へぇ。やっぱり異世界って存在するんだな」

俺が読んでいたのは異世界についての本だった。いや、別に異世界について知りたくてこの本を手に取った訳じゃない。作者の名前が気になったのだ。

その名前は、操舵真宏そうだまひろと言う名前だった。日本人みたいな名前だし、操舵って俺の前世での名前と同じなのだ。そりゃ気になるっしょ。

「異世界にご興味があるのですか?」

そう言って顔を出したのはリーファだった。

「なんだ、リーファ先輩か」

「ふふっ。先輩だなんて止めて下さい。くすぐったいです」

「でも、先輩は先輩だ。敬語はなくしているしいいだろ?」

そう言うと、リーファは俺の横に座った。

「異世界ですね。この本は先日読みました。とても興味深い物でしたね。それに、この方はこの世界に行った事があるような物言いですし」

「いや、この人はこの世界の住人だったと思うよ」

そう俺が言うと、リーファはあり得ない物を見たと言わんばかりに俺を見た。

「あり得ないですよ。それに、その方が異世界の住人だったとしてどうしてこの本がここにあるのですか?」

「まあな。これは推測にすぎない。だから、確証はない。ただ……」

「ただ?」

リーファは俺の顔を覗き込んだ。

「ただ、嫌な予感がするんだ」

俺は嫌な予感を隠しきれないような顔で本を見つめていた。


学校は4時限で終わった。俺は最後の1時限しか出ていない。やる事がないのだ。そして俺とアダムはカリストファーの宿題を手伝う事になった。

「あー!宿題できねぇ!!」

「口じゃなくて手を動かせ。それでもSクラスの生徒かよ」

「るっせ!算術は苦手なんだよ!!」

「まあまあ。カリストファー、ここは……」

アダムはずっと丁寧に教えていた。

「ったく。カリストファー。問題だ。お前はどうしても欲しいマジックアイテムがある。それは石貨1枚、石銅貨1枚、銅貨2枚、金貨3枚もする貴重な物だ。合計はいくらだ?」

「30,211Jだ」

カリストファーはパッと答えた。アダムや本人が驚いた顔をしていた。

「お、俺、問題式を初めて解けた!!」

「すごい!どうやったのさ、ノア!」

「俺はこいつのやりやすいように問題を変えただけだ。お前、算術が苦手って言ったよな?こんなことやったのか?無理だ無理だ言ってるだけじゃないのか」

俺は確信をついた言葉をカリストファーにかけた。

「まあ、自分のやりやすい式でやりゃいいじゃん。絶対そう言う風にしなきゃいけないって訳じゃないんだし」

そう言うとカリストファーは俯いたままお礼を言った。そして俺達はそのまま帰る事にした。

「明日はリビア様の講習だぜ!」

「そうだよ!世界最年少で導師まで昇りつめたし憧れの的だよね」

「そーか?あいつの授業なんてあんまり面白くないぞ。一回受けたことあるけど」

そう言うと2人はとても不機嫌そうに俺を睨んだ。

「な、なんだよ」

「ノアはいいよな。賢者である祖父のグワム様の孫ってだけでリビア様の授業を受けられて」

「そうだよ。贅沢だと思うよ」

「言っとくけどなぁ!あいつは基本放任主義なんだ。魔導をやるなら、森の魔物を始末して来いって放り出されたんだ。危うく死ぬ所だったんだぞ!?」

そう言うと2人の顔は真っ青になっていた。

「や、やっぱり、大物の教え方は豪快だな。ちょっと明日が怖くなって来たぜ」

「ぼ、僕もだよ」

俺は早く家に帰りたかったため、皆よりも早く帰った。

「ただいま」

ドアを開けても誰もいなかった。

「やあ」

いきなりすぎて俺は驚いたがそのまま話を続けた。

「どうしてここにいるんですか?」

そう言うと、ガングはニッコリとして答えた。なんかいつもと雰囲気が違う気がする。気のせいかな?

「ちょっとね。不穏な気配を感じたから来てみたんだ。案の定、変な雰囲気が残っているね」

ガングは俺を睨むように見た。

「この気配の人間を今日見たんじゃないか?」

「見たよ。ソロモンとかいう変人になら」

そう言うと、ガングは目を見開いて俺の肩を揺さぶった。

「もしかして、それってソロモン王じゃないのか!?」

「え、分かんないけど。でも、俺この紙をあいつに渡されたんだ」

それを見せると、ガングはもっと驚いたような顔で俺と紙を交互に見ていた。

そんなにすごいことなのか?

「ねぇ、それってなんなの?」

「こ、これはソロモン王72柱全員の名前だ」

俺は改めてちゃんと読んだ。

――

バアル

アガレス

ウァサゴ

ガミジン

マルバス

ウァレフォル

アモン

バルバトス

パイモン

ブエル

グシオン

シトリー

ベレト

レラジェ

エリゴス

ゼパル

ボティス

バティン

サレオス

プルソン

モラクス

イポス

アイム

ベリウス

グラシャラボラス

ブネ

ロノウェ

ベリト

アスタロト

フォルネウス

フォラス

アスモデウス

ガープ

フルフル

マルコシアス

ストラス

フェニックス

ハルファス

マルファス

ラウム

フォカロル

ウェパル

サブナック

シャックス

ヴィネ

ビフロンス

ウヴァル

ハーゲンティ

クロケル

フルカス

バラム

アロケル

カイム

ムルムル

オロバス

グレモリー

オセ

アミー

オリアス

ヴァプラ

ザガン

ウァラク

アンドラス

フラウロス

アンドレアルフス

キマリス

アムドゥスキアス

ベリアル

デカラビア

セーレ

ダンタリオン

アンドロマリウス


追伸、今度テストするから覚えといてねー(^^)

―― ――

これをみたガングはもう気絶しそうなくらいに顔が真っ青だった。

「君はもしかしたら魔導師と魔術師の仲介役になるかもしれないよ」

皆さん、一瞬魔導師と魔術師って意味一緒じゃないの?とか思いませんしたか?それは違います。魔導師はこの地上での魔法使いですが、魔術師は魔界での魔法使いです。しかも、2つの仲はとても悪い!!魔法は魔界の者が使うべきではないという地上の意見と魔法は地上の者が使うべきではないという魔界の意見で分かれています。いやー、魔界と地上の対策本部はさぞかし大変なんでしょうね。お疲れさまでーす。

「どゆこと?何で俺が仲介役になるわけ?」

「君はソロモン王に気に入られてしまった。そしてこの名前の紙をもらうと言う事は、72柱の所持権をもらったも同然なんだよ。つまり、ソロモン王に変わって君がこの72の悪魔の上に立つと言う事になる」

ガングは真面目な顔で俺を見ていた。

「ふーん」

俺は興味なさそうにそう言った。

「なんでそんなに冷静にいられるんだ!?」

「だって、そんなに慌てる事じゃない。それに俺は初めて会った奴には本性を晒さないって決めてるしな」

そう言って俺はガングを見つめた。

「何を言っているんだい?私は私だよ。まさか、他の人が成り変わっているとでも言うのかい?」

「確かに俺はあんたがガングさんではないという確証はない。が、今まで見て来た中でお前はガングさんが決してやらない、そして必ずやることが入ってたりぬけていたりしていた。例えば俺の肩を掴み乱暴に揺らす。これは優しいガングさんは絶対にやらない。そして必ずやる事は俺の名前を呼ぶこと。君とかなんて王城でしか言われたことない。つまり、この2点を踏まえてお前はガングさんではないってこった」

そう言うと、ガングの中にいる奴は舌打ちをした。

「ちっ。お前みたいなガキなんて出しぬけると思ったのによ。勘の鋭すぎるガキは好かんね」

「だから言っただろう?この子を出し抜くなんて事は出来やしない。観察眼や人間をよく分かっている。だから第二のソロモン王に推薦したんだよ、僕はね」

そう言って出て来たのはあのソロモンだった。

「ったく。こんなポヨンとした主を信用する奴なんてほとんどいないと思うぜ」

「ひどっ!!」

「あのさ、そろそろ元の姿に戻ってくれないか?その姿で話されると調子が狂う」

そう言うと今思い出したかのように「ああ」と言った。そして出て来たのは結構かっこいい青年だった。

「悪いな。俺はアガレス。このポヨンとしたやつの下にいる奴だ。でもまあ、お前の方がしっかりしてそうだな。年下なのに」

「まあ確かにあいつポヨンとしてるし、大変そうだな」

「分かるか。お前にも」

「ちょっと!僕がポヨンとしている前提で話を進めないでよ!!」

「だって事実だし。現に部下が言っちゃってるし」

そう言うとソロモンは端っこでイジイジと暗いオーラを発していた。

「それはそうと、はやく元の場所に戻してくれ。ここ、地上ではないよな」

「そうだ。ここは魔界。人が来るとめんどくさいから移動させてもらった。他のやつらを紹介したくてな。一応、お前が次期俺達の上に立つ奴だし」

そう言うと、アガレスは俺を連れて家を出た。そして”飛翔フライ”でソロモン邸に一瞬で着いた。

「まあ、結構濃いメンバーだから気をつけろよ」

「え?」

扉を開けると、人がたくさん集まっていた。人って言うか、魔物?

「おかえり、アガレス。その子が例の子?」

「そうだ。案外しっかりしてるぞ」

そう言うと、俺は屋敷の中に入った。すると、一人の女が俺に抱きついてきた。

「きゃー、可愛い!!」

「ちょっ!離れろ!!」

これ、リビアよりもめんどくさい気がする。

「シトリー。離れてやれ」

「えー、折角可愛らしい子が来てくれたのにそんな冷たい事する訳ないじゃない!」

「シトリー、やめなさい。困っていらっしゃるだろう」

そう言うと女が俺を離した。一番権力が強い人なのかな、この爺さん。

「大変申し訳ありません。私はアモン。この72柱の長をしております」

そう言うとペコリとお辞儀をした。

「じゃあ、ここにいる全員が72柱の悪魔なのか」

「そうだ。まあ、それは後々覚えて行けばいい。俺達はずっと一緒なのだからな」

「もしかして俺はここで一生を過ごすのか?」

そう言うと、全員驚いたような顔で俺を見ていた。それは俺も同じだ。

「そうですが。ソロモン王、伝えていなかったのですか?」

「うん。伝えてないよ。それに、この子は魔導師であって魔界の人間じゃないし。だから、君達はこの子に付き添って地上で暮らすんだ。僕はここで調律してるから」

そう言うと、一人の男が怖い血相をして立った。

「待って下さい!何故我らがこんな素性も知れないガキを信用して地上で暮らさなければならないのですか!?」

「そうね。いくら可愛いと言っても所詮は子供だし、ソロモン様と同等なんて思えないわ」

その一言で場の空気が変わった。とても今まで歓迎ムードだった空気とは思えないほどだ。

「君達は頭が固いね。この子は僕と同等かそれ以上の物を持っている。アガレスが一目見て握手を交わしたし」

そう言うと全員は目をギョッとして俺とアガレスを見た。

「ま、まさか、あの人をすぐには認めないアガレスが……」

「お前らなぁ。俺が人を信用しない奴みたいな言い方止めろ!!」

アガレスが声を上げると、パンッとソロモンは手を叩いた。

「アガレスはこの子について行くのかい?」

「ああ。少なくともつまんないなんて言葉が見つからなさそうだしな」

そう言ってニッと笑った。

「何故そこまで言えるんだ!?」

「だってこいつ、元々はこの世界の意識じゃない。別の世界の意識下から来てるんだ」

そう言うと、全員驚きの声を出した。その声は屋敷の中を覆うような声だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る