第27話 知り合いの魔人化
魔人を閉じ込めてから1時間後、檻は消え魔人が自由に動けるようになったのである。
「言っておくが、この戦いは生半可の覚悟じゃちと軽すぎるぜ。死にたくない奴、自分に自信がない奴は今すぐに家に帰った方がいい」
俺はガタガタと震えている人間達を睨んでそう言った。すると、自信がないのかなんなのか、その場にいた団員の3分の1はいなくなっていた。まあ無理もない。戦った事のない魔人とドンパチするのだ。逃げる気持ちも分からなくはない。
「みんな、ほんとにいいのか?お前達も死ぬかもしれねぇんだぞ」
「分かってるよ。でも、ノアに着いて行くって決めたしね」
アダムのその一言に皆は頷いていた。俺はこの仲間達がとても頼もしい。安心して背中を預けられるんだ。
「よっし、魔人を一狩り行こうぜ!!」
「おう!!」
その掛け声で俺とアダムは魔人に走って行った。
「凍てつく氷よ、其れを凍らせよ。”
アダムがそう唱え終わると、魔人の足は凍りつけられ動けなくなっていた。
「よし。天より轟く雷よ、一条の光となりて、眩い閃光と共に振り下ろさん。”
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おっと、ちょっとは聞いてるみてぇだな」
「でも、ちょっとしか効いてない」
「確か魔人は闇属性の魔物だったな。んじゃ、これはどうかな。聖なる光の槍よ、それは闇をも浄化し天に返す光なり。”
そう言うと、光の矢が天から現れそのまま落ちて行った。そしてすぐにその魔人達は消えて行った。そしてそれをどんどん続けて行き、魔人は片指で数えられるぐらいにしかいなくなっていた。
「やった!どんどん消えて行くぞぉ!」
「……」
「どうした、ノア」
「いや、どうも終わった気がしねぇんだ。それにふに落ちない点がいくつもある。まず1つに、あんな中級魔導で魔人は死ぬのか?それだけで死ぬなら伝説になんてなるはずがない。その2、この程度の魔人で爺ちゃんが瀕死の状態なんてあり得ない。その3、なぜ上級魔導師達が一斉に魔人になった?戦にもたけている人間が自分にできる訳ないものに挑戦するはずがない。つまり、これはただの警告なんじゃないのか?」
俺は顎を持ち、そう言って考えていた。
「ちょっと俺、爺ちゃんのとこに行ってくるわ」
「あ、ノア!!」
俺は
小屋の扉を開けると、そこには爺ちゃんはいなかった。そこにあるのは散らかったリビングと赤い斑点だけ。
「爺ちゃん」
俺は小屋の中を必死で探しまわった。だが、爺ちゃんの気配も遺体すらない。この血が爺ちゃんのと思っただけで俺は鳥肌が立った。
「どこに行っちまったんだよ。爺ちゃん」
俺は部屋の中で爺ちゃんを思いながら蹲った。
爺ちゃんが行方不明になってから1週間が過ぎた。だが、爺ちゃんに関する情報はまだ掴めていなかった。
俺はベランダでずっと夜空を見ていた。
「何してるの、こんな夜中に」
俺はその声に反応して後ろを向いた。そこには白いワンピースを着た少女が立っていた。
「ただ夜空を見ていただけだ。お前こそどうしてこんな所に?」
「お兄さんが夜空を見て悲しそうにしてたから、励まそうかなって思って」
「そっか。お前、人間じゃないだろ」
俺は少女に目を見て笑ってそう言った。
「うん。私はガブリエル。まあ、いわゆる天使だね」
「ふーん」
「驚かないんだ」
「まあ、これよりも凄いのもっと見て来たし。なんか来るんじゃないかとは思ってたから」
「肝っ玉?が座ってるね。じゃあ、そんなお兄さんにはいい物を上げる!」
そう言って少女が掌から出したのは少し小さな青に炎だった。
「なんだ、これ」
「ウィル・オ・ウィスプだよ!光の精霊。んとね、ミカエルのおじちゃんが渡してってさ。あ、これ言っちゃいけないんだっけ??」
「そっか。サンキューな」
「元気出してよ!今までのお兄さんの方が私、好きだなぁ。お爺さんはその内見つかるよ!!大丈夫だって」
そう言って少女は俺の背中を打ったたいた。
「いって!ああ、励ましてくれてありがとう、ガブリエル」
「うん!んじゃ、展開に帰んなきゃ。ばいばい、お兄さん」
「おう!」
俺は少しその少女に励まされた気がした。いや、励まされたのだろう。だが、俺の胸のざわめきは消えなかった。何か恐ろしい事が起こると警告しているような気がした。
翌日、俺のざわめきは叶ってしまったのである。
「警報!魔人が国領内に侵入!騎士団、魔導師団、養成学校Sクラスの人間は直ちに東門に集合!!」
俺達は指示に言われた通りに東門で魔人を待っていた。魔人には特徴がある。それは黒髪に長髪、赤い目、ボロボロの洋服だ。魔人は人ではない為、言葉を喋る事が出来ない。ましてや魔人になる前の記憶なんて覚えているはずがないのである。
「今回の魔人はとても強い。用心してかかれよ」
「はい!」
俺は杖を構えた。すると、魔人は俺の半径10メートルまで接近してきていた。
「久しぶりじゃな。ノアよ」
その声には聞き覚えがあった。とても懐かしく、大好きだった声。10年間毎日聞いていた声である。
そう、魔人は俺の祖父、グワム=シュレインゴッツ本人だったのである。
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