第15話 狙われた姫君

俺はミレイゲ湿原に着いた。すると、大男は着いていた。

「もう来てたんだー」

「俺は1時間前行動を心がける人間なんだ」

いやいや、早すぎるから。そんな人間そうそういないしね。

「早く始めようぜ。待ちくたびれた」

でしょーね。1時間も同じ場所で待ってれば。

そしてすぐに勝負がついてしまった。ていうか、説明をする暇がなく勝負が終わってしまった。

「だから言っただろ。勝負は歴然だって。それに、お前の剣は大きいが機能性も無ければ知恵もない。もっかい一から始めないと俺には勝てないぞ」

そう言って俺はその場を去った。にしても、あいつマジで弱かったな。大男でもただ図体がでかいだけか。

家に帰ると、アダムがいた。

「アダム。何の用だよ?」

「ああ。今日はちょっと聞きたい事があって来たんだ」

そう言って出したのは透明の石だった。

「なんだこれ」

「これは魔導結晶マジッククリスタルという物なんだが。ちょっとこれに触れてみてはくれないか?」

俺は何も言わずに触れた。すると、光を発した結晶は破裂して割れてしまった。

「……やはり」

「は?何だよ」

「君、本当は八属性を束ねているんじゃないか?」

「はぁ。まあ、そうだな。ちなみにどの無属性魔法でも使えるぞ」

「ノア、君は一体……」

「ただの人間だ。まあ、血は爺ちゃんの血をひいてるけど」

「それだけじゃ……」

俺はアダムの唇に指を置いてシーッとした。すると、アダムは顔を赤くして硬直してしまった。

「そこまで。これ以上追及すると、痛い目みるぞ。お嬢さん」

そう言うと、アダムはニッコリと笑った。そして体が霧に包まれリーファが出て来た。

「ばれてしまいましたか。どこからばれたのでしょう?」

「最初からだ。俺はちょっと特異な物が付いているからな。それに、喋り方がちょっとガングさんに似てた。つまり、あまり男に免疫がない。そして身の回りにいる人はガングさんしかいないし。それに、いつもカリストファーと一緒にいるしな」

「私もまだまだですね」

「まあ、それはさておき。あんた、嫌なもん引きつけたな」

外に出ると、赤い月があった。

「な、なんで」

「あんたが不用意に外なんか出るから、ついて来ちまったんだろ。ったく、めんどくせぇ」

俺は席を立って、手を前に出した。

「”上級結界アドリアンズバリア”」

そう言うと、膜の様な物が家の周りを覆った。

「まあ、これから大丈夫だろ。それで、あれはなんだ?」

「あ、あれは、吸血鬼ヴァンパイアのなれの果てです。王宮の人間は魔力が高い為に狙われやすいらしくて。でも、今まで一度もなかったのに」

「それはあんたが一定の場所にしか行かなかったからだろ。王城、学校。今までこの2つにしか行ってなかった。だが、今日は結界の貼ってない俺の家。そりゃ狙いに来るだろ」

そう言うと、リーファは「あ、そうですね」と言った。

おいおい、しっかりしてくれよ?

すると、バリバリと電気が走るように結界が破られた。

「私がこんな結界で足止め出来るとでも思っておるのか。ん?王家の子供ともう一人。これはまた美味そうだ」

「おい、吸血鬼ヴァンパイアがいるんだけど?話が違うじゃねぇか!!」

「そ、そんなはずはないです!私の血は吸血鬼ヴァンパイアには……」

俺はリーファが言いかけた時、気付いてしまった。吸血鬼ヴァンパイアのなれの果てが狙って本物の吸血鬼ヴァンパイアが狙わないはずがない。

「ちっ。お前頭よさそうなのに悪いな」

「な!失礼ですね!!」

「取り敢えず、お前は帰れ。今から王城まで飛んでっ貰うからな。飛ぶと言うか、行くのか」

「何を言って……」

「”異界門ゲート”」

そう唱えると、紫色の穴が現れた。

「ほれ、入れ」

そう言って俺は突き飛ばした。すると、リーファは穴に吸い込まれて行った。その瞬間に穴が閉じてしまった。

「ほう。お主は逃げぬのか?」

「お前がこの群れのボスだろ?だったら倒さねぇといけねぇからな」

「お主はバカなのか、それともアホなのか」

「それ、どっちも貶してるじゃん」

そう言うと、吸血鬼ヴァンパイアは俺に突っ込んできた。そして爪を俺に引っ掻こうとして何度も振り下ろしていた。それを俺はどんどん交わして行った。

「逃げているばかりの男は女子にモテぬぞ?」

「なら、何度も避けてる振ってるのに寄ってくる男はモテねぇぞ」

そう言うと癇に障ったのか、雑に手を振りおろした。

「悪いけど、そんな雑なので俺が殺せるとでも思ってるのか?このストーカー野郎」

俺は吸血鬼ヴァンパイアの額に指を刺し、一言言った。

「じゃあな、ストーカー野郎。”消滅エクステインション”」

そう言うと、吸血鬼ヴァンパイアは塵となって消え、他の奴らも消えた。

「お前は本当に無茶をするな」

そう言って出て来たのはアガレスだった。

「無茶なんてしてねぇよ。それに、お前は出てこようと思えば来れたんだろ。それなのにそれをしなかった。つまり、俺が勝つって予想してた」

「だが……」

「でも、お前が俺に死んでほしいと思って出てこなかったとしたら?なんてバカな質問を出そうとしてたんじゃないだろうな?んな事言ったら、愚問だぞ」

そう言うと、俺はそのまま歩いて行った。アガレスも指輪の中に戻った。

――指輪の中――

「凄いわね。いくら賢者の孫だからってあの吸血鬼ヴァンパイアA級よ。絶対」

「まあ、ソロモンが選ぶ理由も分かる気がするな」

そう言ったのはグレモリ―だ。とても頭の切れる悪魔。だが、その言葉に反抗するかのように一人の悪魔が机を蹴った。

「けっ!あんなガキに仕切られちゃ俺達の面目丸つぶれじゃねぇか。お前らはあいつのこと認めてんのか?」

辺りは静まり返った。が、最初に口を開いたのはアガレスだ。

「俺はあの子供を認めている。実際、俺の変化を見破ったのはソロモンを入れて2人目だ。あの技量と、吸血鬼ヴァンパイアを倒した実績を踏まえても認める格ではあると思うが?」

そう言うと全員が納得したような顔でアガレスを見ていた。

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