第26話 魔人の出現
俺はルークさんについて行った。着いたその先はいつも騎士団が使っている談話室の様な場所である。
「ルークさん」
「今どのような状態だ?」
「先程の伝令によればこちら側が有利だそうです。……その少年は?」
そう言ってルークさんに説明していた団員は俺を見てルークさんに聞いていた。
「ああ、これはノア=シュレインゴッツ。賢者であらせられるグワム様の孫だ。こう見えて、私が剣を教え、グワム様が魔導を教えた天才のつわものだぞ」
「おお、君があの賢者様のご子息ですか!初めまして、私はルークさんの第1番隊副隊長、フィルム=ライデントと申します」
「はい、よろしくお願いします」
俺は礼儀正しくお辞儀をした。
しばらくすると、新しい伝令が舞い込んできた。
「で、伝令!!相手国の魔導師が魔人に変身したそうです!!」
「なんだと!?」
その伝令を聞いていた人間達は一斉に騒ぎ始めた。たしか授業でやったな。魔人とは熟練された魔導師が魔術式を失敗して魔力が暴走して人間ならざる者になる。その為にその魔術式の知識ぐらいは持っていなければならないと先生は言っていた。戦争って遊び感覚でやってるんじゃないの!?そんなマジでやるもんなんですか!??
「今すぐに魔導師団を至急向かわせろ!即刻倒すんだ!!」
ルークさんも珍しく取り乱していた。いやいや、まあ取り乱しますよね。
「ノア、悪いが君にも手伝ってもらいたい。報酬はちゃんと出すから」
「分かりました。俺だけでは心もとないので、友人達を連れて行ってもよろしいでしょうか」
「ああ。イアン達をよろしく頼む」
俺は皆の所に行き、事情を説明した。みんなはすぐに了承してくれた。そして俺達は魔導師団に同行してイアン達の所に向かった。
どうか、まだ生き残っていてくれ。
――イアン視点――
魔人と遭遇して何時間が経っただろうか。魔人の力は膨大で私たちじゃ話にならなかった。そもそも魔人なんてものを初めて見た。
「イアン。お前はもう休んでいい。疲れただろう」
「いえ、皆さんのお役にたてるなら僕は休んでる暇なんてないですから!」
僕は働いた。皆の分まで働いた。一人ででもできる仕事ばかりだ。取り敢えず逃げ延びた私達は森で潜んでいた。
「早く応援が来ればいいんだがな」
「その前に俺達が魔人に殺されて終わりだろうよ」
その場にいた全員の目は絶望的という顔をしていた。なんで、そんな風になるのか私には分からなかった。多分あいつもここにやってくるとどこかで踏んでいた。短髪の黒髪に焦げ茶色の瞳、そして国立魔導師養成学校の首席である彼がくると……。
王都から伝令が伝えられた日より3日が過ぎた。魔人が現れたのと関係しているのか、魔獣や魔物が伝令場所に近づくにつれて少なくなっていた。
「もうすぐで伝令された場所に着く。近くに魔人がいるかもしれないから用心しておくように!!」
「はい!!」
俺達は馬車の荷台で自分達の持ち場の確認をしていた。
「俺とアダムが前衛、カリストファーとアリサが後衛。アカリは後ろで皆の傷を癒してやってくれ」
「分かりました」
「よっしゃぁ!行きますか!!」
俺達は馬車から飛び降りて魔導師団の第3小隊に着いて行った。
「ノア。前方に魔人らしき人間が……」
「分かった。戦闘準備」
俺達は取り敢えず邪魔になる木をどんどん切り倒して行った。
「めんどっちーな。一本一本じゃなくて、一気にやっちまえばいいじゃねぇか!!」
俺は手を前に出した。
「も、もしかして……」
「悪いけど、皆に伏せとけと伝えておいてくれ」
俺は大きく息を吸い、息を止めた。
「軸に従い寄り添え流水。並びて川、集まりて大河、行き着きて海。 母なる流れを一つに束ね、形成せ清剣。流れによりて刃とし、穢れし命を裂き滅ぼせ。”
俺の掌から青い光の様なビームが飛び出し、木々をどんどん切り倒して行った。すると、結構近くに伝令を渡してきたやつ達らがしけた様なツラで座っていた。俺達を見るなり、顔がパッと明るくなり俺達の所に駆け寄ってきた。だが、それは間違いだったらしい。それが分かったのは立ちあがり走ってこようとしてきた時だった。
その人達の背後には魔人が立っていて、その魔人は前に立っていた団員の首が落ちていた。次々と人間が死んで行った。
「ま、魔人だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう言うと、とても大きな声で皆は叫び始めた。俺はその魔人を取り敢えず子鬼の檻の中に閉じ込めた。そして俺は大きな声で「静かにしろ」と言っても騒ぎ過ぎてパニックになっていた。
「ったく”
「落ち着け!魔人は取り敢えず閉じ込めた。だから早くこの場所から批難するんだ」
俺は冷静にその何十人もいる団を後方に下がらせた。魔人と戦うのは結構先だと思ってたが、こんなすぐに戦える時が来るなんてなぁ。ちょっと意外だったぜ。
俺達は全員が避難したのを確認して行った。すると、見覚えのある女子が俺の服を掴んできた。イアンだ。あの時の様な自信など微塵も残っていないと言う瞳をしていた。
「ノ、ノア。魔人を倒してほしい。私では全然歯に立たない。だが、ノアなら。賢者の孫であるノアなら私の父の敵を取ってくれる」
「父?さっき殺された人達の一人か?」
「そうだ。どうか、どうか私の父の敵を取って来てくれ!!」
俺はその手をそっと下ろした。
「俺は賢者の孫なんていう肩書の人間じゃねぇよ。俺はノア=シュレインゴッツ。祖父はグワム=シュレインゴッツであり、国立魔導師養成学校の新入生にしてこの国随一の魔導師だ。そこんとこ、よろしくな」
そう言うとイアンは少し心が和らいだかの様な表情になり、気絶してしまった。気力と根性でなんと持っていなのであろう。
「さーて、これからこの俺。ノア=シュレインゴッツの英雄譚を始めるとしますかぁ!!」
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