第24話「東京大火」
東京の町が燃えている。
火の海に沈んでいる。
悲鳴などの叫び声は聞こえない。
優先的に殺されてしまったのだろう。
今も狩りを楽しむかのように赤い一つ目の人型の巨人がビーム兵器で狩り、大きな建造物を手当たり次第に戦艦が主砲で薙ぎ払っていく。
命を刈り取られた人間は断末魔をあげる間もなく命を散らす。
死体は一部分でも残っていたらまだ運が良い方だ。戦車を一瞬で鉄屑に変えるアームド・セイバーが持つビーム兵器を人間が浴びれば塵も残らないのだから。そうなれば死者では無く、行方不明者としてカウントされるだろう。
その無残な光景を秋月 怜治達はイヤと言う程見せ付けられた。
「クソ!! 俺達は、俺達は間に合わなかったのか!!」
涙混じりに勇治は叫ぶ。
日本政府の凶行に遭遇し、自衛隊の助けや安藤 ユーイチの判断でリミル達に承諾を取らずに独自に行動を起こして出撃して敵の本隊がいる東京に向かった。
だが東京への道を阻むように大部隊が送り込まれていてそれを突破するのに時間が掛かった。
それにディーナで製造したマシンの中には空中浮遊能力が無い機体などもあるため、スカルガーとツヴァイザーは残って送り込まれた部隊の相手をしている。
スカルガーはツヴァイザーの運搬役だ。
辿り着けたのはベアルファイターの飛行部隊三機。
フィリルのアームドセイバー隊三機。
犬宮 ハジメのノヴァ。
そして秋月 怜治のバクファイガーだけ。
(敵は三百隻! 以前の半分以上程度だけど全然そんな気がしない!)
全快の衛星軌道上での決戦で五百隻の敵と戦ったがあのペガス以上の移動要塞のせいでそれ以上の規模に感じてしまう。
アームド・セイバーの数も五桁単位で東京の彼方此方を無差別に攻撃している。
抗戦している自衛隊や在日米軍は見当たらない。
ここに来るのに手間取って全滅したか、あるいは戦う事も出来ず一方的に殺されたかのどちらかだろう。
『此方、ペガス。怜治? 聞こえるか? ペガスをどうにか奪還した。今全速力で其方に向かっている』
「ユーイチか・・・・・・」
ユーイチの声が聞こえた。
沸き上がる感情は怒りと悲しみだ。
「ユーイチ、俺達は間に合わなかったらしい」
『ああ』
「眼前は地獄だ。もう世界的大都市の見る影もない。我が物顔で侵略者の船が飛び回って、まるで虫を殺すかのようにドーマのロボットが人を殺し回ってる!」
怜治はバクファイガーを急加速させて、近くにいたドーマの機体を次々とぶん殴った。ただ力任せでぶん殴るだけで千切れ飛んでいく。
『地球の機動兵器が来たぞ!』
『敵は少数だ! この数なら倒せる!』
『腰抜けの地球人如きに何が出来る!』
それを合図に周辺のドーマのアームド・セイバーが殺到してくる。
バクファイガーはそれを超火力で迎え撃ち、接近してきたアームド・セイバーを殴り倒す。それでも間髪入れずにビーム兵器がシャワーの様に飛んで来るがそれを素早く空中飛んで回避。
眼前に浮いていた戦艦に着地し、砲台を次々と叩き潰しながらそこを足場にして敵のアームド・セイバーを迎え撃つ。接近戦を試みる物、射撃の雨を降らせる物。
それを悉く怜治は撃退していく。
「ユーイチ、俺達は何のために戦ってきた!? 何を守るために戦ってきたんだ!? こうなる前に行動を起こすべきだったんじゃないのか!?」
『その議論は後で幾らでも付き合ってやる。今は事態を収拾するのに専念しろ』
「分かったよチクショウ!」
足場にしていた戦艦が轟沈。
その爆発で出来た僅かな隙を突いて、次々とドーマのアームド・セイバーを殴り壊していく。
コクピットを避けて攻撃するとかそんな事はしなかった。
ただただ怒りに任せて攻撃していくだけだった。
『あいつどうしてあんなに強いんだよ!』
『ただ殺して回るだけの楽な任務じゃなかったのか!?』
『臆するな! 数は此方が上だ!』
だがそれでもドーマは次々と襲い掛かる。
遠目から見ればまるで獲物に群がる赤い虫の群れだ。
「てめぇらだけは! てめぇらだけは絶対許せねえ!!」
それを何度も何度も怜治はバクファイガーの光線兵器、ミサイル、電撃、ロケットパンチを出し惜しみせずに倒して行く。
敵のアームドセイバーはバクファイガーの超火力に飲み込まれるがそれでも入れ替わり、立ち替わり襲い掛かる。
だが徐々にではあるが、数の優位を保っているにもかかわらずその勢いは目に見えて失いつつあった。
『こんな場所で死にたくねえ!』
『馬鹿逃げるな!』
『そんなに戦いたきゃお前が戦えよ!』
『こんなの反則だ! 勝てるわけがない!』
口々にドーマのアームド・セイバー達が悲鳴を挙げる。
ドーマ人の多くはいつ頃からか、地球の某民族の様に格下の連中相手には強気に出て120%の力を出せるが一旦劣勢になるとそのまま立て直せず、最悪指揮系統などが崩壊して混乱すると言う習性を持つ。(*例外は存在する)
地球に最初に訪れたドーマの艦隊司令官ケントニスも衛星軌道上での戦いの終盤、月の砲台を破壊されたが、戦力の大部分が無事で戦闘続行可能だったにも関わらず、そのまま撤退したのも同じ理由だ。
☆
ペガスは1kmを超える巨艦でありながらそれに見合わない程のスピードを出せる。
大気圏内では大気との摩擦や環境に配慮して宇宙空間で出せる程のスピードは出せないがそれでも戦闘機以上の速さは出せる。
リミルはブリッジで戦闘指揮を取りつつ、安藤 ユーイチはブリッジのモニターを一つ借りて状況を確認していた。
「角谷陸将? 自衛隊はどう動いている?」
神月町に駐留していた自衛隊の角谷陸将に状況確認を行う。
モニターには角谷陸将の顔が映し出されていた。
『細かい説明は省くが、東京の各駐屯地、基地は全て全滅したと見て良いだろう。周辺の都道府県から増援を派遣しているが、疎開した民間人などで行動が制限され時間が掛かっている。ところによっては渋滞で身動きが取れないところを襲撃された場所も出ているらしい』
「全てに対処するには数が足らなさ過ぎる。敵の司令官を痛め付けて撤退させるぐらいしかないですよ」
『その手しかないか・・・・・・』
それは民間人の守りを捨てて多少の犠牲を許容し、早期事態解決するやり方だった。危険は伴う上にそれまでにどれだけの民間人が死ぬ事になるのだろうか。
想像するだけでも角谷陸将は気が狂いそうだった。
対してユーイチは氷の様な冷たい瞳だった。
顔も変化はない。
『君は何も感じないのかね?』
「もう怒り疲れた。正直この状況もなるべくしてなったとしか思えないんですよ」
吐き捨てるようにそう言って通信を切り、ユーイチは格納庫に向かった。
「ドーマ軍の前線部隊殲滅完了! 急ぎ東京に向かいます!」
報告が入る。
時間稼ぎに送り込まれた部隊は全滅させたようだ。
アームド・セイバー一機でも残すと何をしでかすか分からないため、殲滅して行く他無かった。
☆
「クソ! 分かっていたがこいつらの物量は底無しか!?」
バクファイガーの性能が無ければとっくの昔にやられていただろう。
戦いの激しさが増すにつれてドンドン建造物が倒壊していく。
とにかく敵は周囲を取り囲んでビームを撃つだけしかしてこない。
戦艦達も同じく距離を取って艦砲射撃をしてくるだけである。
それをバクファイガーの超火力で何度か焼き払うが、焼き払った分だけ戦力が補充される。
前回の戦いと同じだ。
ハジメやセイン人の皆もバクファイガーを中心に連携を取って戦っているがやはり物量差のせいで思うように反撃に移れない。
ドーマサイドも相手が想定外に強すぎて士気が大幅に下がり、積極的に攻撃しようと言う意欲が湧かず、それだと命令違反になるのでただ戦うポーズだけ取っている及び腰の状態で戦っていたのが大半を占めていた。
今現在東京都内にいる勇治達がドーマの大軍勢相手に戦えている理由はこの辺りにある。
そんな状況を見かねたのか、勇治の前に新手が現れた。
『初めましてだな』
外部スピーカーだろう。
知的そうな男の声だ。
黒いドラゴンの様な大型の機体が組み付いてくる。
サイズは三十mぐらいだろうか。
傍には大型の黒いステルス爆撃機を連想させる機体があった。
他にも今迄と毛色が違う機体が見える。
「ドーマの新型!? それもこんなに沢山!?」
『我々も黙ってやられてやれる程、優しくは無いのでね』
そう言って黒いドラゴンタイプの機体が両腕の爪を光らせ、引っ掻いてくる。
バクファイガーは素早く片手で掴んだ。
「これでも食らえ!」
『なに!?』
至近距離で額からビームを放つ。
それを咄嗟に腕を滑り込ませてガード。
爆発が起き、両者は離れる。
『バルト隊長!? 御無事ですか!?』
「変形した!?」
外部スピーカーの音声から察するに女性が乗ってると思われる黒いステルス爆撃機の様な機体がロボットタイプの機体に変形した。
翼が折り畳まれ、機首は前後に折り畳まれて一つ目の頭が飛び出た。
右腕には二門のキャノン砲、左腕にはチェーンソーらしき武装が付いている。
『シュレン。この程度で動揺するな。どうやら雑魚ばかり相手にしていて感覚が鈍ってしまったようだ』
そう言って胴体からビーム砲を放つ。
それを勇治は咄嗟に両腕で防ぐ。この殆ど勘に近い。
更にシュレンと言う女性が乗ってるらしい黒い可変メカは戦闘機モードに変形して苛烈な攻撃を加えてくる。
他の機体も同じだ。
接近戦を挑んできたり、電撃を放ってきたりと攻撃方法も形状もサイズも様々だ。
今迄のドーマのアームド・セイバーとは何もかもが違った。
ドーマの他のアームド・セイバーの部隊はこの場をバルト達の部隊に任せ、取り合えずハジメの部隊に襲い掛かりに行った。手柄は欲しいが、強い敵と戦って死にたくないのだ。
「クソ・・・・・・」
捌いても捌いても攻撃が来る。
ドーマのアームド・セイバーの様に攻撃方法が多彩なせいもあり、防戦一辺倒の窮地に立たされる。
対抗策として新型機を投入してくる可能性はユーイチから伝えられていた。
だがまだ一ヶ月も経ってないと言うのに早過ぎる気もした。
勇治達はディーナと言うチート装置の御陰で新型機をぽんぽん作り出せるが、まさかドーマがこんな短期間のウチに送り込んでくるとは想定外だった。
これが恒星間国家の国力と言う奴だろうか。
☆
(どうにかしないと・・・・・・このままじゃ・・・・・・)
ハジメはノヴァで敵を次々と撃墜していた。
とにかく数が多い。
落としても落としても補充されてくる。
レーダーも敵が360度全方位大量にいるせいで真っ赤に染まり、役に立たない状態だ。
幸いなのは積極的に攻撃せず、距離を取ってビームでの射撃に終始しているのが救いだった。出なければとっくの昔に物量で押し切られていただろう。
しかし大量の敵に囲まれていると言う事実は変わらず、この状況ではユーイチを援護するどころではない。
他のセイン人もそれは同じで一機辺り、百機以上の敵に群がられている。ディーナの力で魔改造して無ければ危なかっただろう。
攻撃の要であるバクファイガーはどうにか敵の新型達を相手取ってくれていて不思議と敵は群がってはいないが危ない状況であった。
(どうにか打開策を見付けないと――)
ハジメは心の中で焦りながら敵を撃破していく。
時折相手の射撃をかいくぐり、至近距離での戦いに持ち込む。
そうすると面白いように敵は混乱し、同士討ちが発生する。以前の戦いでもこう言う光景は目にした。
(ドーマのパイロットって接近戦が苦手なのかな?)
接近戦など想定外なのか懐に入り込まれると動きが鈍る。
そう言えばリミルが最初に乗っていたアームド・セイバー、フラウのカスタム機であるリリィも近接特化の機体だった。
彼女が地球まで生き残れたのはこの辺りも関係しているのかもしれない。
☆
「ちっ・・・・・・このままじゃ――」
やっとの思いで敵の新型の一体を殴り倒す。
今迄相手にして来た雑魚とは違う。
それが何十体もいる。
不思議と雑魚達は手を出して来ないが、このままではマズイと感じていた。
『まずいな一度態勢を建て直すぞ』
だが勇治の窮地にも関わらず、黒いドラゴンの様な機体を操る男バルトは一度退く事を決めた。
『ですが隊長――』
『時間を掛け過ぎた! 敵の増援が来るぞ!』
そうして艦隊が閃光と共に次々と轟沈していく。
アームド・セイバーも遠距離にいる「何か」からの攻撃で次々と撃破されていった。
『これは――』
シュレンは何が起きたのか分からず呆然となっていた。
『敵艦からの砲撃だ!』 (アドリューめ、盾にする筈の都市を焼き払えばこうなるのは分かっていただろうに! はしゃぎすぎだ!)
間抜けな事にアドリューはバルトの考えている通り、その辺りの事を忘れて破壊活動を思う存分楽しんでしまった。
すでに大都市は見るも無惨な廃墟である。艦船の爆発で今更犠牲者は出る事はないだろう。
『敵艦からの発砲です!』
『お、応戦しろ!』
『撃て! 撃て!』
慌てて艦隊も遠くにいるペガスに向けて砲撃を開始しようとするがその前に何隻かはバクファイガーに堕とされ、ペガスも負けじと砲撃で勢いよく轟沈させて数を減らしていく。
『ユーイチさんの作戦発動します! 皆さん腹括ってください!』
戦闘区域内にいる敵艦船の数が僅かになった段階でペガスは敵の旗艦であり、ペガスの倍以上の巨艦であるアーバトス級に全速力で突っ込んでいく。
『バルト隊長!? アレは!?』
『あの進路まさか――敵艦の狙いは我々の旗艦だ!』
『阻止を――』
『今更どうにもならん!』
バルト達の機体は通常のアームド・セイバーに比べて総じて火力はあるが、一Km以上の質量で戦闘機以上の速度が付いた巨艦を食い止める程の力は無かった。
あっと言う間に敵艦は艦砲射撃を行いながらドーマ側の旗艦であるアーバトス級へと距離を詰める。
『回避運動をしろ! 急げ!』
『間に合いません!!』
アーバトス級に乗っているアドリューは面食らいながらも急いで退避行動を取る。巨体に見合わず回避運動の速度は速いがそれはあくまで巨体に反してであり、突っ込んで来るペガスを避けるには間に合わない。
『皆さん衝撃に備えて!』
リミルは船内にいる人間に警告を促し、自分もショックに備える。
ペガスはアーバトス級の内部に食い破る様に突き刺さり、そのままアーバトス級の船内にペガスのありったけの火力をぶつける。
アバートス級は一度真っ二つになった後、小爆発を起こしながらバラバラの残骸となり、廃墟と化した東京へと落下していく。
ペガスはその光景をバックに通り過ぎつつ、残存するドーマ軍の戦力の掃討に当たる。
この光景にドーマ全軍が皆、唖然となって攻撃の手を止めた。
ついでに言うとこの無謀とも言える作戦を考えついた安藤ユーイチにリミル達は涙目になっていた。
『じぇ、ジェフテム提督より通達、先遣艦隊は残存戦力を纏め挙げて直ちに退避行動に移るべし――との事です。既に後詰めとして待機していた艦隊も急行しています』
ハッとなってシュレンはバルトに通達を報告する。
『そうか。我々は殿を務めながら撤退を行うぞ』
バルトは撤退を即決した。
地球の機動兵器数機相手に劣勢になりかけていたのだ。
そこにセイン人の戦艦や船内に積んであるであろう機動兵器が出張って来れば東京の大都市に展開していたドーマ軍は全滅する。
『アドリュー殿は?』
『あの状況では生きてはいまい。生きていたとしても軍法会議は間逃れないだろう』
バルトはそう言うと一目散に逃げ出していくドーマ軍を見た。
ドーマの戦艦が次々とペガスの主砲で撃ち落とされていく。
ドーマ側のアームド・セイバーも統制を失い、次々と撃破されていった。
それもこれもあの無謀とも言える艦の突撃で完全に戦いの流れは変わった。
あれ程の勇猛さにも関わらず、何故今頃になって現れたのだろうか?
(まさか大都市を囮に? いや、何か政治的な事情でもあったのか?)
などと思いながら思考を切り替える。
皆空中に上がり、ペガスに突撃を仕掛ける。
『撃沈しようなどとは思うな。我々に注意を向けさせればいい』
『了解!』
ともかくやるしか無いだろう。
そうしなければ撤退中の見方にますます被害が拡大する。
バルトの隊はしてないが、ドーマ軍は都市を焼き払い、民間人を皆殺しにしたのだ。
このまま見逃してくれるとはバルトは到底思えなかった。
『オラオラ! ドーマ野郎! 好き勝手してくれた礼はキチンとお返ししないとな!』
『今度ばかりは万城に同感!』
東 万城のスカルガー。
早乙女 レイカのツヴァイザーが現れる。
そこに秋月 勇治のバクファイガーが合流する。
『他の連中はどうでもいい! あの新型達を叩き潰せ!』
ペガスの船内にいるユーイチは二人に指令を飛ばす。
『へ、雑魚ばっかりでこちとら飽き飽きしてたところだ! 遠慮無くぶっ潰してやるよ!』
『私も――流石に今度ばかりは手加減出来そうもないわね!』
万城とレイカの二人は連戦の疲れが見えない程戦意は高かった。
相手が新型機であってもそのまま怯む事なく突撃する。
『たかが二機増えた程度で!』
『早まるな!』
バルトは部下達を引き留めるが隊長の言う事を聞かず、構わず突撃していく。
それに応じるかのようにスカルガーとバクファイガーが立ち塞がり、二人のマシンのアンテナ部分に電撃が帯電する。
『『ダブルサンダー!!』』
雷の閃光が敵を飲み込んだ。
巻き込まれた数機が行動停止に追い込まれる。
『馬鹿な!? ディーナのマシンにこれ程のパワーが!?』
どうにか攻撃を逃れたが思わぬ痛手にシュレンが狼狽する。
『ディーナの性能だけじゃねえ。スーパーロボットってのはな、心で動かすもんなんだよ!!』
理屈はともかく体全身から気迫を滲ませながら東 万城はロケットパンチを放つ。
スカルガーの豪腕は敵の胴体を貫いてみせた。
その動揺の隙を突くかのようにツヴァイザーが両手に持った重火器を叩き込んで敵を黙らせていく。
形勢の不利を悟ったバルトは撤退を決める。
殿を務めたい気持ちもあるがそれでは此方の命も危うい。
『各員応戦しながら後退しろ、私が引き付ける。いいな?』
『りょ、了解――』
そしてバルトはシュレン達は率いて撤退してゆく。
『逃がすか!! ファイガーブラスター!!』
バクファイガーの目のゴーグルが輝き、極太の閃光が上空に逃げたバルトに向かって放たれる。
それを避けきれずに機体にダメージを負った。
続いてスカルガー、ツヴァイザーが波状攻撃を仕掛け、防戦一方となりながらもどうにかバルト達は撤退出来た。
(危なかったな・・・・・・あのままではやられていた・・・・・・)
安全圏に逃れた頃にはバルトもシュレンの乗機はボロボロだ。
バルトの機体は翼も尻尾もなくなり、頭部や両腕、両足も欠損したり損傷したりしている。
修理するより新しい機体の導入を検討した方が早いだろう。
生き残った艦船は一割程度。
作戦に投入されたアームド・セイバーは八割が未帰還。
大都市を焼き払いはしたが、戦略的にも政治的観点から見ても勝利とは言えないだろう。
こうしてドーマの先遣艦隊は全滅に近い大被害を被りながら本隊がいる宇宙へと戻る。
☆
戦いが集結した頃にはもう何も残っていなかった。
あるのは廃墟と異星人のメカや艦船の残骸ぐらいだ。
生存者は極僅かで、死者、行方不明者は地球の歴史上の中でも前代未聞の数字となった。
その犠牲者の中には日本人だけでなく、外国人なども含まれており、この事態を招いた左田政権は恥の上塗りをしただけでなく、地球の恥晒しとして世界的に名を残す事になり、長きに渡り世界の憎悪の対象となった。
この一連の惨事で政府や自衛隊に対する不満が爆発し、全国各地でデモや暴動が発生し、選挙は中断せざるおえない状況となった。
そして当然ながら日本は世界各国の首脳陣からも政府の対応に非難の嵐だった。
だが外交と言うのは複雑怪奇な物で世界各国は交渉や支援をちらつかせ、日本に散らばる異星人の技術を手に入れ、宇宙に行く技術を持つ国は独力で宇宙に散らばる残骸を改修して開発研究を行い、それで得られた外宇宙のテクノロジーを基に世界大戦前日を連想させる程の軍拡を行う事となる。
この世界の流れにペガスに乗るセイン人や地球の少年少女達も巻き込まれる事となる――
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