第6話「状況確認」
リミル・アントンの案内の元。
ペガスのブリッジまで来た。
巨大な宇宙船と言うだけあってブリッジもとても広い。
スポーツの試合を観客動員して出来そうだ。
映画館のスクリーンサイズの巨大なモニターには艦の現状が映し出されている。
文字が読めないのでグラフの目盛りとかで何となくでしか把握出来なかった。
リミル・アントンは秋月 怜治や安藤 ユーイチをそこに招いた。
ちなみにリミル・アントンは長手袋+ロングブーツ、そしてハイネックの白いレオタードに近い衣装なので二人は少々目のやり場に困ったりしていた。
「巨大な船の割には人が少ないんだな」
秋月 怜治は当然な疑問を投げかける。
「殆どは都市部に残っています。それも非戦闘員ばかり。基本的に私の指示と艦の自動操作で動いています」
「だからと言って艦長とかいないのは船としてどうなんだ?」
ユーイチも当然っちゃ当然な疑問を投げかけた。
「本来の乗組員は脱出する際に運悪く全員死亡し、陥落寸前と言う所で発進指示が来て・・・・・・なのでこの体たらくなのです」
その事を思い出したくないのか顔を逸らして悲しげな表情をする。
「悪い・・・・・・」
流石に怜治は謝った。
「いえ、アキヅキさんの言う通りだと思います」
「レイジでいい」
「んじゃあ俺もユーイチで」
「では私もリミルと呼び捨てで構いません」
と言葉を交わして本題に戻った。
「奴達の事はここに来る途中である程度聞いた。リミルさんやあのクマのマスコットみたいな異星人はセイン人で先程襲って来た人型機同兵器の連中が惑星セインを侵略していたドーマって言う連中のメカだろう?」
「精確にはドーマ人の量産型アームド・セイバー、ジェムと言う名の機体です。私の機体はドーマ人のアームド・セイバーを参考にして急ごしらえで作ったリリィと言う機体です」
親切丁寧にリミルは解説してくれた。
「色々と疑問なんだが・・・・・・この船の機能をフルに使えばドーマの侵略なんて簡単に撃退できたんじゃないのか?」
「怜治さんの言う通りですよ。あの機能を使えば強力な兵器をバンバン産み出せるし、出来ずともそれを基に設計量産すれば良かったのでは?」
これは二人の共通の考えだ。
自分達の様な素人でもあれだけのマシンを産み出せたのだ。
それを元々保持していた惑星セインの人々ならばもっと上手く活用して撃退出来たのではないかと。
怜治は特に考えなく疑問を投げかけたが、ユーイチは何か隠してるんじゃないかと思ったので怜治に質問に乗っかって疑問を投げかけた。
(確かにドーマ人のやった事は許せないがな。そう簡単に信用出来る程、こっちもお人好しじゃないんでな)
何かしらの理由があるのはユーイチは分かっていた。
出なければこの星に移民船で脱出なんかしないだろうと言うのも。
だが何かしらの政治的意図があるのなら話は別だ。
例えば地球に武器を与えてドーマの注意を引く囮の役割にしたいだとか・・・・・・
それを探る意味で質問を投げかけたのだが。
「そ、それは――」
二人の男から言われたリミルは何故か泣きそうになっていた。
思わず男二人は動揺する。
「私達ではあのシステムを使いこなせなかったのです」
と、リミルはとても悔しそうに言った。
「ど、どうして?」
慌てて慰めるように怜治は問い掛ける。
ユーイチは何だか罪悪感が湧いてきて顔を手で覆う。綺麗な少女の涙は反則だと思った。
「本来は極秘事項なのですが・・・・・・もう極秘も何も無いでしょう。この艦とその動力炉であり、人の意志を反映してマシンを産み出すディーナは我々にとってもオーパーツの代物でした。だけど戦争を忘れた我々はそれをどう使えば良いのか分からず、長らく封印していたそうです。私も存在を知ったのは最近の事なのです」
「いわゆる恒久平和を実現した惑星国家だったんだな・・・・・・セインは・・・・・・」
「はい。ですが・・・・・・ドーマの存在を察知し、急激に軍拡をしましたが戦争を忘れた私達ではどうにもなりませんでした。ディーナを使ってさえもこの有様なのですから」
リミルの話を聞いて二人は何だか日本との共通点の様な物を感じていた。
今の左田内閣は軍縮や、話し合いによる隣国との様々な摩擦の改善。
そしてそれを支持する有権者と呼ばれる大人達。
日本と惑星セインは色々と事情は違うだろうが、何とも言えない気分になった。
「話戻すけど――それでもディーナを使えば細かい事を抜きにして戦力級の兵器を産み出せば勝てたと思うんだが?」
「ユーイチの言う通りです。兵器を作る以前にそもそもどう言った兵器が有効であるのかが分からなかったのです。セインも軍拡を始める前は暴動や犯罪に対応出来るぐらいの装備しかありませんでしたから――」
話を聞いていた怜治は頭を掻き始める。
「なあユーイチ。何かこう、セインの事がややこしくなって来たんだが」
「俺もだ――宇宙進出出来てるぐらいの科学技術はあったんだよな?」
二人を話を聞いているウチに惑星セインがどう言う星なのか分からなくなってきた。細かい所は置いとくとして元々の科学技術はどのぐらいかと言う点においてだ。
なのでユーイチは怜治の気持ちを代弁する様に尋ねた。
「ええ。そうです」
「つまり軍隊がない、警察レベルの武力しか持たない恒久平和を実現した社会がセイン・・・・・・って事で良いんだよな?」
再確認するようにユーイチは尋ねた。
「はい」
「恒久平和ってよく実現できたな」
核兵器の登場で大きな争いは無くなったがそれでも様々な形で争い合う地球の事を想いながら怜治はそう評した。
「本人目の前にしてこう言うのも何だけど正直言うと胡散臭いんだが・・・・・・」
「おいユーイチ」
ユーイチを咎めて頭を下げる。
だがリミルは苦笑しながら応えた。
「ユーイチさんの仰る通りです。我々も最初から平和な世界と言うわけではありませんでした。多くの過ちを犯し、多くの血を流した末に辿り着いたのが私の母星セインの歴史なのです」
「だってさ?」
「まあ、あんまり疑問を投げかけるのも野暮ってもんか・・・・・・とりあえず現状を確認するか」
そう提案されてリミルは考え込む。
「現状ですか・・・・・・その前にこの惑星の代表者に会いたいんですが」
「なあ、ユーイチ。地球の代表者って誰?」
「地球は惑星国家じゃないから、この場合は国連事務総長になるんじゃないのか?」
「惑星国家ではない? と言う事はまだ地域国家の集まりなんですか?」
その言葉にリミルは不思議がっていた。
逆に怜治は疑問符を浮かべる。
「地域国家ってなんだ?」
地域と言われると何かこう田舎っぽいイメージが付与される。
それも国家となるとどう言う事なのだろうか?
念の為ユーイチに尋ねてみた。
「地球に存在する全ての国家の事。逆に惑星国家は惑星国家って言うのは惑星全ての領土を統治している国の事だ」
「知らなかったな・・・・・・」
つまりアメリカやロシア、中国も地域国家と言う事になる。
地球上のどんな大国も宇宙全体から見れば田舎の国なのかもしれないなと怜治は勝手に感心していた。
「SF物でしか出ない単語だからな。無理もないよ」
それと――と、ユーイチは話を続ける。
「まあ強いて挙げるとするなら国連事務総長だが、会って何を話するつもりだ?」
「本当は独力で対処出来れば良いんですが、協力してドーマと戦うように呼びかけるつもりです」
「アメリカの映画みたいな展開だな。上手く行くと思うかユーイチ?」
「難しいな」
ユーイチはキッパリと断言した。
「どうしてですか!? 自分達の星の危機なんですよ!?」
「つってもまだドーマは日本にしか攻撃してないし、他国からすれば対岸の火事ですし、ドーマの事もよく知らないし、中には交渉や国交を開きたいって言う国もあるでしょう。中には会談を有利に進めるためにドーマを攻撃するなと日本に呼びかける国もいるでしょう――」
「そんな・・・・・・」
地球の現実をユーイチはリミルに容赦無く突き付けた。
ユーイチも好き好んで可愛い女の子にこう言いたくはなかったが、何れ分かる事なので心を鬼にして伝えた。
「悪いがリミル。俺もユーイチの意見に同意見だ。最悪地球が敵に回る可能性もある」
「そうですね。自衛隊送り込んでこの船を制圧して差し出すなんて事、今の内閣ならやりかねないですよ」
地球人二人はそう結論づけた。
「ま、守るべき人々が犠牲になってもですか?」
「俺はすると思う」
ユーイチは即答した。
怜治も「ユーイチと同じく」と同意する。
「た、他の国は?」
縋るようにリミルが尋ねる。
すっかり顔も青冷めていて調子が悪そうだ。
ユーイチはまたしても顔を手で覆い、そして手を上げる。
「何か不毛な議論になってるからちょっと他所に置いとこう」
「そ、そうだな――取り合えず一旦保留で。それで月に艦隊が集結してるって聞いたけど、大体どれぐらいの規模なんだ?」
「は、はい――モニターに出します」
リミルは覚束ない足取りでコントロールパネルに向かう。
それを見て二人は大丈夫かと重いながら彼女を見守った。
艦長席と思われる場所に座り、空中にパネルが投影され、それを手早く動かす。
そしてスクリーンに地球周辺と思われる大雑把なマップが表示され、月と思われる衛星に赤い光点が沢山ある。
あの赤い光点一つ一つがドーマの艦隊だろう。
地球の近くや月と地球の間にも光点がある。
「ドーマの艦隊は惑星セインを滅ぼした艦隊から分散したのが地球に辿り着きましたがそれでもかなりの艦艇が地球に来ました」
「その中にはアームド・セイバーを運用する艦とかもあるわけか・・・・・・」
「はい。一番近くにはアームド・セイバーの運用母艦が十二隻ほど――」
「サイズは?」
「全長600m級の艦を中心に300m級の艦が四隻、周りを200mクラスの船が固めています。アームド・セイバーは三桁に届く勢いです・・・・・・」
絶望交じりの掠れた声色でそう告げる。
「地球の近くに来ているだけでもこれだけの戦力か・・・・・・月にいる艦隊はどれだけの規模なんだ?」
「それ以上だろう。取り合えず問題は地球近辺の艦隊だ。日本も他国も既に戦力は把握しているだろう。その気になれば大抵の国一つを滅ぼせる戦力だが――」
「だがどうした?」
ユーイチは何かを疑問に思ったのか考え込む素振りを見せる。
「これだけの戦力だ。どうして攻めてこない? この世界の軍事力もある程度把握出来てる筈だ。にも関わらず、目的を達成するだけならさっさと再び部隊を送り込めばいい――」
「俺に恐れをなしたとか?」
思いつきで怜治は言ってみた。
「・・・・・・考えられるな」
「いやユーイチ、ギャグのつもりで言ったんだが」
「どう言う事ですかユーイチさん?」
リミルも疑問だったのが尋ねて来た。
「断定するのは危険だが、今地球に来ているドーマ艦隊はセインと戦争をしていた、つまり勝ち戦しか経験していない連中なのだろう。それに平然と人の惑星に上がり込んで街に火を付けて回る連中だ。それに自衛隊の戦闘機――つまり地球の戦闘機を撃墜した矢先に勇治にまさかの損害を与えられた。奴達の規模からすると微々たる物だが、勝ち戦の矢先にこの損害だ。敵は何かしらの混乱状態に陥っていると思われる」
「そ、それは本当なんでしょうか?」
「だが筋は通っている――つまりこれはチャンスじゃないのか?」
怜治はそう提案するが――
「いや、さっきも語ったがまだ地球はドーマの事を詳しく知らないんだ。街を焼き払ったのも何かの間違いだと思って一旦和平交渉する形で話は纏まるだろうな。それを邪魔すれば此方に銃が向くぞ」
「それをどうにか出来ないんですか?」
「あのな――リミル、ユーイチの変わりに言うけど俺達学生だぞ? 政治家でも軍の将軍とかでも無いんだ・・・・・・無茶言わんでくれ」
「・・・・・・そ、そうなんですか?」
そう言ってリミルは二人の顔を見渡す。
怜治とユーイチは自分達を何だと思ってたんだろうかと内心で苦笑した。
「本人目の前にしてこう言うのも何だが本当に日本政府に全部面倒事丸投げするっての言う選択肢は無いのか?」
「一生分のトラウマ背負う覚悟があるんなら良いんじゃ無いかな?」
「トラウマ・・・・・・ねぇ」
そう言って怜治はリミルの顔を見る。
リミルは何の事か分からないと言った感じにクビを捻った。
「それにこうしている間にも再攻撃が来るかも知れないんだ。政府に丸投げする時間はない。また誰かが戦わないと行かんぞ」
「そうか・・・・・・」
「・・・・・・私、戦闘準備をするように言います。お二人は――どうするか任せます。元々この戦いには無関係なんですから」
そうリミルが言い放つ。ユーイチは「無関係で終わればいいがな」と皮肉げに呟く。
このユーイチの一言は三人の未来を暗示していた。
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