第20話「ディーナ」

 外の風景が見える広い通路。

 そこからは艦の外の景色が見える。

 天井も高く、一面ガラス張りの様な状態であり、艦の高さも全長相応なので景観はとてもいい。


 リミル・アントンと秋月 怜治の二人は再び二人きりで話し合っていた。

 議題は勿論先程のブリーフィングルームでのメチャクチャな話だ。


「あの・・・・・・先程はこの国の事を悪く言ってすいませんでした」

 

 と、リミルは謝罪する。


「いや、いいんだ・・・・・・どんな人間でも怒って当然だ。あの自衛官達も分かってるだろうし、政治家達も怒られるの分かってるから自衛隊に通達させたんだろう」


「・・・・・・そうは言われても」

 

 リミルは優しい子なのだろう。

 それでも自分が許せないようだった。


「まあ、リミルさんも慣れない艦長職で疲れてたんだろう?」


「ええ、正直言いますと最前線で戦うのが合っていると言いますか・・・・・・副館長が欲しいですね」


「そうだな・・・・・・」


 その辺も問題だなと怜治は思った。


「この地球で、争いを止めるために説得して回ったあの日から分かっていた筈なんです。セイン人と同じ苦様々な考えを持った人間がこの星には大勢いるんだって、その幅がセイン人よりも多様なだけで違いはないんだって・・・・・・でも・・・・・・あんまりだと思ってつい・・・・・・」


「ああ・・・・・・」


 リミルの気持ちは痛い程分かる。

 これも国民のツケと言う奴なのだろう。


「なあ・・・・・・もうアテに出来ないし、多少命令を無視してでも俺達だけでも行動を起こさないか?」


「え? でも――」


 怜治の突然の申し出に思わず戸惑う。


「そうしないときっと死ぬ程後悔する。一応この船はこの国の土地を借りているだけの独立国家扱いだ。あの時と違って大義名分だってある。わざわざ言う事を聞く必要なんて無いだろ?」

 

 そう言うとリミルは笑い始めた。

 怜治は思わずポカーンとなった。


「ど、どうしたんだ?」


「い、いえ・・・・・・何だかもう一緒に戦うつもりになっているのがおかしくなって・・・・・・地球人は本当に変な人達ばかりですね」


「変な人達・・・・・・ね・・・・・・」


 その表現がリミルにとって地球人に対するイメージの、落とし所みたいな物かもしれない。

 そこでスマフォが鳴り響く。

 東 万城からだ。

 リミルに「スマフォに出る」と一言言って着信を鳴らす。


「どうした?」


『いや、今学校にいるんだが、国がアテにならないから自分達も戦いたいって奴が増えてどうにもなぁ・・・・・』


「はあ?」


『とにかくちょっと収集つかなくなってる。一応校庭にあつめるように手配した。レイカやハジメも同じ感じだ』


「あ~? 収集つ・・・・・・かないからこうして連絡入れてんだよな?」


『ああ。だけどこいつらディーナの使用前提で物事考えてるからナ。乱用は禁止してるだろ俺達?』


「ああ、そうだな」


 ディーナは確かに強力な力を与えてくれる。

 だが取り扱いを間違えれば守るべき地球すら滅ぼすマシンすら誕生する危険な代物である。

 なので余程の事態で無い限り使用を制限している。

 実質、自由に使えるのはリミルとユーイチぐらいだ。(*ユーイチは前回の戦いでの実質的なMVPであり、セイン人の間でも特例扱いだ。最近は過激な発言や行動が目立つが乱用してない辺り分を弁えていると言える) 


『とにかくリミルさんに説得して欲しい』


「分かった・・・・・・話は通してみる」

 

 そうしてスマフォを切った。


「どうしたんですか?」


「緊急事態だ。どうやら俺達と一緒に戦いたいって言う志願者が続出しているらしい」


「え、そ、それは本当ですか!? な、何が起きてるんですか!?」


「もう政治家の都合で戦いに怯える生活はこりごりだって事だろう。だけどディーナの使用を前提で戦おうと思っている連中もいるし、収集つかないからリミルさんに説得して欲しいって・・・・・・俺も勿論、付き合う」


「じ、事情はよく分かりました――本当に不思議な国ですねこの国は」


 そう言って二人は駆け出した。



 校庭に辿り着く前に取り合えず校外で東 万城と合流した。


「外側からでも人の気配は大勢感じるがどんな感じだ?」

 

「ウチのクラスの連中とか筆頭に、自衛官まで集まっている。今起きている騒動は俺達が原因だからな・・・・・・」


「ああ・・・・・・俺達英雄扱いだけど実際はただの学生だもんな」


「そう言う事だ。俺達がそう言う前例を作ったからこうして集まったんだ。それに中にはもう帰る場所が無い奴もいるから断り辛いんだよ」


「迂闊に言葉を間違えると収集つかなくなるな・・・・・・」

 

 何か戦闘以外の方面で苦労する事が多いと感じる怜治だった。

 昔、ロボットアニメでプライベートと戦闘の両立で苦労する場面を見た事があるがまさかこうなるとはたまったものではない。

 

「ユーイチにも連絡取ったが・・・・・・」


「何て言ってた?」


「今は少しでも戦力は欲しいけど、どうにかしてある程度人数を絞り込まないと収集つかないだとさ――」


「まあそうだろうな――だけどどうやって収集付けるんだ?」


「手はあります」


 ここでリミルが口を挟んだ。


「ディーナに選んで貰うのです」


「ディーナにか?」


 怜治はまさかディーナが出て来るとは思わなかった。


「ディーナを意志を持つ鉱物です。誰に彼にも分け隔て無く力を与えるワケではありません。少なくとも悪意や邪な考えを持つ人間を選別できるとは思います」


「成る程な――だけど一人一人あの場所に連れてってロボットを作らせるのは――」


「そこでディーナの出番です。今からペガスにいる仲間達にディーナの端末となる鉱物を作って貰うんです」


「そう言えばディーナってロボット製造マシンじゃ無いんだよな?」

 

 ディーナは万能鉱物だ。

 艦の動力炉であり、メインコンピューターであり、武装を後付けで搭載できたりもするし機体のメンテナンスをしてくれる。

 神の如く無から有を産み出す万能鉱物、それがディーナなのだ。  


「ディーナはこう言った利用も可能なのです。福島の原発問題もその気になればディーナを利用して解決可能ですよ?」

 

 と言った。

 ユーイチの入れ知恵か、日本政府と取引する為の材料にする為なのか、あえて日本の愚かさが招いた悲劇の土地、福島の名前を出した。

 福島の原発は地震、津波による被害で周辺の放射線や放射能を撒き散らすと言う恐るべき大惨事を起こしたが、実はトドメを刺したのは当時の日本の政権と原発の管理運営を行う上層部の対応が招いた人災だと言われている。


 ちなみに福島の原発の問題をセイン人が解決することをユーイチは反対姿勢である。と言うのもそんな事をすれば人間は過ちを学ばず、また同じ過ちを繰り返すと言う意見を持つ。


 地球温暖化だって、オゾン層の破壊が原因だ。

 そのオゾン層を修復する装置を作れば平然と地球人は地球を汚し続けるだろう。

 何とも人間と言う奴は度し難い生き物である。


  

 そしてリミルが演説を行った後、今回の戦いの真相を話した。

 流石にディーナの機能は「超万能な意志を持つエネルギー体」、「ロボット製造マシン」と言う風にある程度暈かして説明してある。

 今はインターネットが普及した世の中でペガスが地球に降り立った時は碌に情報統制が取れないままだったからある程度真実は知られれていると見ている。


 それをあらためて公衆の面前で明かした上で選別作業が始まった。

 

 そこで更に面接などを行うと言うウマを伝えてある。


 意外だったのはこの件に関してディーナが協力的だった事だ。

 何かしらの責任は感じているらしい。


 そうしてドンドン選別作業が進んでいく。

 

 やはりと言うか、一目見て分かるぐらい悪意を持つ人は当然避けられた。

 それが認められずに子供の様に喚き散らす奴までいる惨状だった。


 大人もいたが割合的に学生が多かった。

 それも怜治のクラスメイトなどが多く、作為的な物を感じる。

 それを感じて文句の声を挙げる人間もいた。


「どう言う事だ?」

 

 怜治はリミルに尋ねる。


「私達がこの町、いえ・・・・・・この学舎その傍に不時着したのは偶然ではなかったのかも知れません・・・・・・」 


 そう前置きして言葉を紡いだ。


「ディーナはある種の未来予知が出来ると言われています。それがどの程度の物なのかは分かりませんが、不時着するにしてももっと場所はあったと思います」


「確かに言われてみればそうだな・・・・・・」


 あの不時着は単なる偶然かと思ったが、確かに言われてみれば不可解な点がある。

 しかしディーナの何かしらの意志だとすれば説明はつく。


「ともかく――敵の再襲来まで時間がない。明日か、早くて今日中にも先遣隊と戦いが始まるぞ」


「ああ、俺もスカルガーを準備しとく」


「そうですね・・・・・・選ばれた人達は一旦ペガス内に誘導します」


 そう、敵は確実に迫って来ているのだ。

 そのためにも戦う準備を進めなければならなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る