第21話「次なる戦闘のために」

 ブリーフィングルームでは手狭なのでペガス船内の都市部の広場に全員集めた。

 あの場にいた中から五十名近くと大人数だがそれでもかなり絞った方である。

 

 中には見知った顔があった。


(どうすればこの子達を戦いから止めさせれれるんだろ・・・・・・)

    

 松坂 ヒロミ先生。

 秋月 怜治達のクラスの担任である。

 何か本末転倒な気もするが、とにかくどうすれば安全にこの戦いから生徒達を守る事が出来るのかと考えての判断であった。


 周辺の反応は様々だ。

 ペガス船内の居住区画にキョロキョロと戸惑いを隠せない者。

 自ら進んだ道だと言うのに不安げな人。


 今は居住区画の建造物を背景に緑の芝生の上に置かれた壇上でリミル・アントンや秋月 怜治、安藤 ユーイチなどが学校の朝礼の要領で説明している。


「命懸けの戦いになるので保証は出来ない」だとか、「自衛隊みたいに死んでも手当は出ない」だとか、「今ならまだ引き返せるので引き返せるウチに帰った方がいい」とまで言っている。


 脅迫しているスタイルだが彼達の立場から考えれば仕方のない事だ。

 それにしても随分と様になっていて教え子達は僅かなこの短期間で随分と遠い存在になってしまったように思えてしまう。


 そして周りはと言うとやはりどうしようかと悩む人も出ていた。

 動じない人はいない。

 選別する時に妙な鉱物に触れられたが、一定の法則性の様な物があるように思えた。


 まず虚栄心や見栄などを持ってそうな人間はアウト。

 復讐心の塊になっている人間もアウトだ。

 全体的に大人しそうで真面目そうな、戦いとは無縁そうな人間だけが集められている感じだ。


 それで自分の学校の生徒達が多くいた。

 

 中には自分の教え子も含まれている。


 それがとても辛かった。


 一通りの説明が終わったようで、一旦解散となった。

 

 後日、戦う気のある人は志願制で再び集まるようにとの事だった。


 そして先生は秋月 怜治と安藤 ユーイチに向かう。

 担任の顔を視界に入れた時の二人の反応は「あ、いたんですか?」と言う感じだった。



 二人を捕まえた先生は一度話合うことにした。

 教師を前に萎縮した様な態度は見せず、堂々としている。

 命のやり取りを経験したせいなのかもしれない。


 ヒロミ先生はまだまだ若手の教師であるが、直感的に「教師の肩書きは通用しない」ように思えた。

 

 今の時代、心の底から教師の言う事をキチンと真面目に聞く生徒は何人いるだろうか?  

 

 そもそもどうしてキチンと教師の言う事を真面目に聞かなければならないのかと言うと、身も蓋もない言い方をすれば「生徒の将来」と言う首根っこを掴んでいるからだ。


 それは日本の法律を守る事だって言える。

 極端な話、そうしないと将来はメチャクチャになり、生きていけなくなるから従うのだ。


 それを分かった上でヒロミ先生は二人に尋ねた。

 場所は以前二人と出会ったこの巨大船の食堂のテーブルを借りている。


「つっても俺達もう有名人だしな」 

 

 と、秋月 怜治達が言う。


「だからって戦わないといけないって言うのは・・・・・・」


 怜治の言う事は的を得ている。

 今は高度なネット社会だ。

 特に宇宙人を撃退したロボットのパイロットとなれば注目度は世界レベルだ。

 神月町が特殊な状況で無ければ今頃はマスコミの取材で大騒ぎだろう。

 

 それに政府が放って置くわけには行かないが「それでも何か良い方法がある」と思いつつ尋ねてしまう。


「先生? もう俺達日常生活に、普通の学校生活に戻れると本気で思ってるんですか?」


「それは――」


「いいですか、敵の狙いはディーナです。それをある程度暴露してしまってる。そしてディーナの秘密がバレるのも、もう時間の問題ですよ。そうなったら俺達は政府の管理下で厳重に拘束されてしまう。よくて政府お抱えの兵器製造工房職人ですよ」


「怜治の言う通り、皮肉なもんだ。まだセインの人達と一緒に戦ってた方が将来の選択肢が増えるんだからな」


 怜治の意見にユーイチも同調した。

 やはり二人とも明らかに大人びているし、教師相手だからと言って物動じている気配はない。


「先生も平穏に教師続けたいなら付き合う必要は無いですよ? まぁ、戦いが終わるその時までに日本が焼け野原にならなければの話ですけど・・・・・・」


「おい、ユーイチ・・・・・・」


「怜治も分かってるだろ。この船一隻で地球防衛なんて出来やしねえ。今は狙いはディーナみたいだが、敵が物量を活かして侵略、統治に切り替え始めたら手の打ちようが無いぞ? それに自衛隊だって総選挙中は今の憲法の範囲内で対応だ。いや、選挙期間中だから以前よりもっと杜撰かもしれん。それに法改正されるかどうかも分からないし、改正されたとしてもどの程度かは分からない。それにドーマ軍と戦うにはディーナの力は必要不可欠で俺達はそれに選ばれてしまっている。どの道、お役目御免まで当分先だ」 

  

 と、捲し立てるように言った。

 政治的、軍事的な話題だがとにかく何も考えずに感情任せにロボットに乗って戦っているのではなく、一介の教師には解決不可能だと言うのは分かった。


「それに敵の数は以前の倍以上だ。既に三百隻の先遣艦隊が近付いて来てるし、早くて今日中、遅くても明日には戦闘に突入だしな。先生も、もう一度どうするか考えてみて?」


「・・・・・・」

 

 と、逆に怜治に諭される結果となってしまった。

 



 ドーマ軍のアームド・セイバー。

 既存の兵器を駆逐する程の高い汎用性と戦闘力がある。

 ジェムだけでなく様々なバリエーションの機体もある。

 基本十八級で規格統一されているがドーマ軍は宇宙スケールの超軍事国家である。


 別企画の特別仕様のアームド・セイバーを産み出せるぐらいの技術力と工業力、資源は保有している。

 

 周りを赤い駆逐艦ブント級やゲブリュ級戦艦に囲まれ、ペガス以上のサイズのアーバトス級の船が宇宙を行く。

 アーバトス級は内部に兵器開発工房があり、居住空間もある。武装もサイズ相応の量だ。


 もはや戦艦や輸送艦と言うより移動要塞と言って良い。

 

 そしてこのアーバトス級には地球の脅威的な戦闘能力を持つマシンに対抗する為のマシンが搭載されている。


 敵の機動兵器で一番大きい機体は40m級。

 なのでそれと同じかそれ以上のサイズの機体も開発中。

 また今迄のアームド・セイバーとは違う特殊な兵器の開発も随時行われていた。

 

「これ程までの種類のテスト機を眺めた事はありません」 


 黒髪ポニーテール褐色肌の軍服を着た女性が行った。

 彼女の名はシュレン、アームドセイバー隊のパイロットだ。


「私もだよシュレン」

 

 黒い軍服の男がいった。

 銀髪で整った顔立ちでまだ若い。

 彼の名はバルト。

 この特殊なアームド・セイバー隊の運用を任されていた。


「ディーナと呼ばれる物質で産み出した戦闘メカの情報は確認しましたが・・・・・・これで対抗出来るのですか?」

 

「シュレン、君の言う事は最もだ。だがジェムを改造しただけでは私でも太刀打ち出来ん。だから試作機などを引っ張り出して、今も新造している最中だと言われている」


「つまり体の良いテストと言うワケですね」


「そうなるが、ドーマ軍の統治にはやはり巨大戦艦ではなく、それに変わる武力のシンボルが必要不可欠なのだよ・・・・・・君も士官ならば政治的、経済的な分野にも知識を広げた方がいい」


「私には分かりません」

 

 と、罰が悪そうにシュレンは返した。


(今のドーマはその国力を維持するための体力が限界に近い。元々無理があったのだ・・・・・・それが今こう言う形で出ている)


 ドーマ軍は覇権主義を振りかざし、侵略を行い続けて国を維持している国家だ。

 極端に悪い言い方をすれば借金を借金で返しているような状態に近い。

 それが前線の兵の質の悪化に繋がっている。


(それにドーマとて一枚岩ではない)


 元々ドーマは覇権主義の地域国家で惑星を急速に統治して惑星国家になり、そこから星の海を跨いで様々な星を侵略して行き、今の規模に急速に膨れ上がった歴史を持つ。

 

 そうした経緯であるためにドーマの今のやり方を疑問に持つ人間や非好戦的な人種は沢山いるし、統治中の惑星でも大小合わせて反乱が相次いで起きている。

 それを何時も通りの平然と罪の無い民間人諸とも焼き払うように対応しているのは容易に想像がつく。当然、強姦などの類いもやっているだろう。

 

(だからこそ何処かで躓けば反抗勢力は勢いづいて、連鎖的にドーマは崩壊する。それを理解している軍人は果たしてどれぐらいいるだろうか)

 

 そう胸中で不安を抱きつつ、別の不安を抱いた。

 

(ジェフテム提督はアドリュー司令に先遣艦隊を任せていたが大丈夫だろうか?)


 アドリュー司令は軍人としては有能だが、それはドーマ基準だ。

 些か人格面に問題があると聞く。

 それを提督は分かっているのだろうか?

 これが采配ミスにならなければ良いのだが・・・・・・とバルトは思う。

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