第19話「第二の刺客」


 あのユーイチが引き起こした悪夢のような大惨事から翌日。


 ユーイチは警察や自衛隊に厳重注意を形式的にだけくらった。

 下手に刺激してまた大騒ぎすると困るからだ。それに原因の一端は自衛隊や警察にも責任があるので強く出られなかった。

 だがでかい組織程、面子や体面と言うのは大事である。


 ややこしい話だ。なので遠回しに「もう二度とこんな真似はするな」と言う形に収まった。情けない大人が多い国である。

 

 そして翌日。


 まるで悪夢から覚めたかのように、ぎこちないが、自衛隊と神月町の住民は寄り添い始めた。

 ユーイチが恐いのもあるのだろうが、神月町の住民は自分達の愚かさに築かされたのだろう。

 無関係な人間からすればとんだとばっちりだが。


 だがそんなユーイチが引き起こした大惨事が忘れ去られる程の新たな出来事が起きた。またもや世界中が大騒ぎする程の出来事である。


 移民船ペガスの主だったメンバーと怜治達はブリーフィングルームに集められた。

 モニターには地球周辺の惑星の配置とドーマ艦隊が表示されている。

 数は前回の二千隻とは違い、今回は一万隻と規模が五倍以上に膨れ上がっていた。


 既に本隊から離れた先遣隊百隻が派遣されており、明日には到着する予定だ。


 本来ならば迎撃に出なければならないのだが、この大戦力を前にして縮み上がってしまい、再び世界各国規模で抗戦か和平かで議論が紛糾した。

 また世界中に日本の様な左翼信者と言う奴はおり、酷い国だと大規模デモや暴動すら起こしている。


 で、ペガスはと言うと迎撃しないでくれ、迎撃してくれとどちらの意見に耳を傾ければいいのやらと混乱の極み状態だった。

 

 日本など、「支援してやるから選挙期間中は何もしないでくれ」と言う議員が多数出て来る始末だった。中には脅迫する奴までいた。

 

 一方で左翼信者達は皆、国会議事堂前で反対運動。

 右翼も奇妙なパフォーマンスを決めて徹底抗戦を叫ぶ。

 そして大都市では疎開運動が再び始まっていた。

 大パニックでもはや選挙どころではなくなっている状態だった。


 マスコミは平常通りに煽るだけ煽って視聴率を稼いでいる。


 つまり何を言いたいかと言うと、ペガスは静観して欲しいとの事だった。


「正直、私は日本政府とのお付き合いを真剣に再考しようと考えています・・・・・・」

 

 リミルは笑みを浮かべながらやや怨差が混じった声でそう告げた。

 艦長職についたせいか、白い軍服や水平帽子など、衣装が地味にグレードアップしている。

 

 角谷陸将は内心もう自衛隊を辞めようかなと思い始めており、傍に控えていた五十嵐一佐は心の中で(心中お察しします)と暗い顔をしていた。


「何度も言いますが確かに私達は地球人に我々の争いを巻き込んだ責任があります。それは変えようのない事実です。ですが貴方達は自分の国を守ろうとせず、軍属ではない民間人に守らせています。憲法9条の事は理解していますが、何時まで貴方達はそれを守る気ですか? だからこの町で争いが起きて、ユーイチさんが強行して止めないと行けなくなったのではありませんか?」


 と、本来は政治家に言うべき台詞なのだがその責任を取るべき政治家は総辞職し、その責任は自衛隊に丸投げしているような状態だ。

 

 それに自衛官ですら憲法9条の異常性は分かっている。

 海外派遣の際に中途半端な決まりで送り出したもんだから批判の的になったりもした。よく自衛隊はクーデターやテロを起こさなかったのか不思議なぐらいの有様だ。


 ましてや異星人であるリミルには到底理解は出来ないだろうし、国を守ろうとせず、知らぬ存ぜぬを決め込んでドーマに売り飛ばされたりしたのだ。


 どんなお人好しでも根には持つ。

 でなければそいつは聖人君子と言う奴だろう。

 

「ここでの会話はネットに挙げてますんでよろしいですね? もしもドーマが海外に攻め込んで都市を焼け野原にしても全て日本政府の責任になりますよ?」


 と、ユーイチが脅迫を掛けてくる。

 こっちも軽くキレ気味だ。


「そこは何とかして欲しいと言う・・・・・・事だ」


 そして怜治も切れた。


「バカじゃねえのか!? ここから一歩も動かず、何もせず、どうやってドーマ軍をの大艦隊を撃退すればいいんだ!?」


「いや、それも上から――」


「じゃあどうやって!? また話し合いで解決しろってのか!?」


「どうやらそうらしい・・・・・」


「話し合いで全ての争いが解決出来るんなら、軍隊なんていらねえよ! 前回みたいに戦わないと、ユーイチの言う通りまた何処かが焼け野原になるぞ!」


「それは私も話した。だがもしかすると和平交渉かも知れないと言う考えもあってだな・・・・・・」


「あんたらマジでどっちの味方だ!?」

 

 と、怜治は叫んだ。

 逆にユーイチはと言うと・・・・・・


「その手で来たか・・・・・・こう言う時だけ知恵の回る奴がいるらしい」

 

 と評した。


「だけどユーイチ、一万隻も来てるんだぜ? 和平交渉じゃないだろ?」


「だけど俺達は形はどうあれ、一度二千隻の艦隊を打ち破っている。だから相手は過剰に警戒して、艦を増やして休戦協定なり和平交渉なりしてくると――楽観視した奴がいるんだろう。忌々しい話だが」


「成る程・・・・・・どうあっても戦いたく無いし、戦わせたくも無いんだな」


 と、怜治は呆れ果てて頭を抱えた。

 ユーイチの意見はある程度筋は通っている。むかつくが納得してしまった。

 同時に怜治は前回みたいに売り飛ばされた方がまだマシだと思い始めた。 

 あの時は「戦う」と言う選択肢があったのだから。


「まさかこんなメチャクチャな国だとは思いもよりませんでした・・・・・・知っていればここに不時着なんかさせませんでしたよ・・・・・・」


 そう言い始める。リミルもどうやら日本を見放し始めているようだ。

 地球には日本よりもヤバイ国は沢山あるがユーイチはあえて口には出さなかった。



 地球占領艦隊。

 旗艦ユーへム級「アディア」

 

 一km以上のペガスを遥かに超える巨艦。

 全長五km近くある。

 最早移動要塞、機動都市と言っても良い規模だ。

 内部にはペガスと同じく製造工房を持ち、居住可能な都市もある黒色の横幅もある円盤形巨艦。


 指揮所も、巨大な要塞の司令室と言った感じでモニターが並び、オペレーターが何人もいる。


 艦長であり、艦隊司令の「ジェフテム」は敵の出方に困惑していた。

 ケントニスからの情報によれば敵は高位力かつ、長射程の大砲を備えており、それで先制攻撃を与えてくる物かと思っていた。

 

 まさか地球特有の事情と日本が宇宙規模で想定以上の無能国家であるせいなど思いもよらなかっただろう。 

 

(戦争のやり方も分からない連中にケントニスは敗れたのか・・・・・・それとも何かの罠か?)


 ケントニスはペガスの長距離砲による基地破壊でモラルブレイク(恐慌状態)を起こした艦隊を纏め上げて撤退した。


 仮にそのまま戦闘を続行出来たとしてもペガスにあるディーナを手に入れられるかどうか難しい。うつろ犠牲者が大勢出ただろう。


 それにまだディーナには未知の部分があるし、もしも万一動力炉を暴走して自爆でもされでもしたら何も得る事も出来ない。軍事的目的を果たせないで敵を殲滅するだけの事を勝利とは呼べない。


 ならいっそ敗北してでも引いた方がいいと考えるのは自然だ。

 その点、ケントニスは良く分かっていた。


(ペガスの想定を上回る戦闘力は脅威だが――地球その物は宇宙進出もままならない田舎惑星だ。我々の技術を物にするのも時間は掛かると見ていい――その体勢が整う前に片を付ける)


 と、ジェフテムは判断して更に戦略を練る。


(地球は地域国家の集まりだ。そして一度ペガスを売り渡したと言う事は関係は良好ではない。不信感を持っているだろう)


 そこが狙い目だった。


(ならば当面はディーナだけを狙えばいい。その後にじっくりと料理すればいい――先遣艦隊であるが――)

 

 ジェフテムは先遣艦隊三百隻に思いを馳せる。

 一気に大艦隊で攻め込まないのは地球人を不必要に刺激すると思ったからだ。

 地球人が一つに纏まってディーナを本格的に活用したら手が付けられなくなる。

 それに相手の出方も分からない。


 その為に少数――三百隻での攻略戦だ。


 と言っても三百隻の艦隊でも地球の国一つ、例えアメリカ相手でも連続で数回滅ぼせる程の物量だが。 

 他にも先遣艦隊には地球人がディーナで産み出したらしい機動兵器に対抗するための兵器やらが積み込まれている。


(さて、どう出る地球人、セイン人?)

 

 ジェフテムは不敵な笑みを浮かべた。 

 

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