第18話「そうだ、バカになってみよう」

 安藤 ユーイチはファイアダイバーでの出動態勢を整えた。

 レスキューパックは装着していない。

 正直必要なのはこの機体のスピーカーだけで十分である。

 必要とあらば右肩の放水用キャノンを使用する心構えだ。火災の消化のために出動するわけではない。

 

 少し時間は遡り、キッカケはマコットから渡された一枚のチラシだった。

 何でもクラスメイトの一人が自分に至急届けるように言う通達だった。

 よっぽどの事だったのだろう。

 

 そのチラシにはこう書かれていた。


 戦争反対。


 宇宙人を地球から叩き出せ。


 異星人のテクノロジーを独占する自衛隊を許すな。


 このままだとドーマ人と全面戦争になる。


 と言う頭がイカレてるとしか思えない内容だった。


 ユーイチは目の前が真っ暗になった。

 自分は本当に何のために戦ったのか分からなくなったのだ。

 涙が溢れ出て来た。

 

 殆ど自分の我が儘で戦ったようなもんだ。


 誰かに賞賛されて欲しくて戦ったわけではない。


 あんまりな言い分だが「そうしなければ大勢死ぬのが、あの時ああしておけば良かったとか言うのが嫌だった」からに過ぎない。


 にも関わらずこの仕打ちだ。


 その上、まだ戦争が始まってないと宣った。


 ここまでアホだとは思わなかった。


 極左のクソどもは日本全土が焼け野原にならないと戦争になったと認識出来ないのだろうか。

 それとも戦争はスポーツか何かだと勘違いしているのだろうか?


 戦争は戦争だ。

 汚いもクソもない。勝者が正義となり、敗者が悪となる。

 

「だ、大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫マコット――もうね、やだ。この国やだ。耐えきれない。どうして今迄自衛隊のクーデター起きないのか不思議だよこの国。てか起こせよ・・・・・・」


 と、かなり危ない追い詰められた口調で過激な発言をしている。

 二人はドン引きしていた。


「で? 他にも何かやってるのこいつら?」


「このチラシが配られた辺りから暴動が発生して大勢怪我人が出てペガスの施設を使わせて欲しいって言われてるのだ。どう対処して良いのか分からないのだ」


 マコットの言い分は分かる。

 ここでセイン人が出張れば内政干渉だ。と言うか説得するには前提条件としてセイン人がこの日本独特の社会問題を把握出来した上で動いてくれなければならない。


 そうしなければ左田内閣最後の仕事である自衛隊の宇宙船包囲網の時と同じく火に油を注ぐ結果になる。

 

 自衛隊や警察に任せれば良いのだろうがそれで今の様なのだ。


 誰かが貧乏くじを引くことになる。

 

 ふと安藤 ユーイチはイジメを見てみぬフリをした己の罪を思い出す。

 法的に見れば自分は間接的に加害者である。

 何だか巡り巡ってその事で罰が当たったような気がしてきた。


 理由は自分でも分からない。


 だけどもう何だか色々と限界だった。


 さっさと新しい内閣が出来て、憲法が改正したら全て投げだそう。

 そうしよう。

 

 もう現実はクソだ。クソッタレだ。

 何で自分達はそんな現実に振り回さなければならない。


 選挙に行かない有権者もクソだし。


 好き勝手に面白おかしく報道するマスコミもクソだ。

 

 マスコミや政治家の言う事を鵜呑みにして選挙で馬鹿な政治家を当選させる有権者もクソだ。


 有権者の期待を裏切って平然と公約破りする政治家もクソだ。


 そんな政治家に馬鹿正直に従う自衛隊もクソだ。

 

 クソだ、クソだ、クソだ。

 世の中クソの雑菌塗れだ。


 気が付けばユーイチはファイアダイバーのコクピットに座っていた。

 モニターがやかましいが無断発進する。 


☆     


 神月町全体が泥沼のバトルロイヤルになり、世界各国のマスコミはそれを遠巻きに報道していた。

 原因はこの町に入り込んだ左翼団体だ。 

 自衛隊と警察が止めようとするがそれが逆に神月町の住民の神経を逆なでして収集が付かなくなっている。


 そんな時に15m程だが赤いヒロイックなデザインの巨大ロボが神月町の校舎に降り立った。

 三者三様シーンとなる。

 

 そしてユーイチは叫んだ。


『お前達どいつもこいつもいい加減にしろ!!』


 スピーカー最大音量で町全体に届く声量で叫んだ。

 余りの音量で耳を塞ぎ、のたうち回る物まで出た。


『俺だってなぁ! 本当は戦いが終わって、自衛隊がノコノコ現れた時は物凄くぶち切れたよ! 挙げ句の果てに街を守ったらお礼が拉致監禁に、守った異星人に武器向けて抱囲だ! 正直この国滅んだ方がいいんじゃないかって思ったよ!』


 街の彼方此方の暴動が止まり、シーンとなった。

 だがそれでも構わずに言いたい事を言う。


『だけどな! 自衛隊だってやりたくてやったわけじゃねえんだよ! 俺よりも頭が良い筈の大人達が民主的に選んだ政治家どもなんだよ! 異星人の襲来を想定して票を入れたのかとかまでは言わないけど、そう言うのを考えて政治家を選ぶのが有権者の務めだろうが!! 政治家だって難関の大学に合格して羽目を外した大学生じゃあるまいし、平然と公約破りするから国民から支持されなくなって若者は選挙に行かず、無駄に歳だけ食った老害どもが国を動かすようになっちまったんだ!!』


「あいつ・・・・・・なにやってんだ・・・・・・」


 屋上から怜治はユーイチの主張に呆れ半分で見守っていた。

 余りの大音量で耳がキンキンするが。


『正直最初の頃、俺は場の流れに任せて戦った! 次とその次は自分の意志で戦った! 誰から賞賛されたいとかそんな気持ちはまぁ多少はあった! だけどその結果は何だ!? どいつもこいつも馬鹿みたいに争いやがって! 態々町の外からケンカ売りに来るド阿保までいる始末だ! ハッキリ言ってそんなに殴り合いたいなら迷惑掛けないように他所でやれ! そんなに自衛隊が嫌いならもうこの町から出てけ! 俺はもうこんな国嫌だ! こんな国に誰がした!?』


「あいつ怒らせたらこんなに恐かったんだな・・・・・・」


 などと東 万城はぞ~と汗を流す。


『仲良くしろとは言わないが正直こっちはそんなの知ったこっちゃない! ただ平和に過ごしたいって奴は大勢居るんだよ! 迷惑してる奴はいるんだよ! そんなに暴れたりないんならこっちにだって考えがある!』

 

 そして空に飛び上がり、大音量のサイレンを掻き鳴らしながら飛び回った。

 街中の人間が、自衛隊も神月町の住民も、左翼団体もジャーナリストも、マスコミも、纏めてのた打ち回る。

 

 一通り町を飛び回った後、彼はこう言った。 


『どうだ!? お前達が好き勝手やってやるなら俺だって好き勝手やってやる! 今度また騒いだら放水用のキャノンをぶちかましてやる! 俺は自衛隊みたいに甘くはねえ! 警告はしたぞ!? したぞ!? 次やったら本当にぶっ放すからな! それと、もしも俺の家にお礼参りしたり、村八分したら俺もムショ入り覚悟で行動起こすからな! 中国や韓国に亡命しようが戦争を引き起こしてでも追いかけ回してやる!』 

  

 そうして彼はペガスに帰った。

 リミルは本当は厳重注意しなければならない立場なのだがあんまりにも鬼気迫る雰囲気なので声を出せなかったそうな。

 

 そして町の騒ぎは収まった。

 暫く難聴状態の者が続出し、人体にも影響がある音波だったのか吐き気や嘔吐を引き起こす者が大勢出現した。

 

 もう誰も彼もが騒ぎを起こす余力はなく、手痛い目をあった左翼団体は町から引き上げていった。

 自衛隊も被害が甚大である。

 その場に居合わせたマスコミやジャーナリストもである。

 

 後にこの騒ぎは『神月町の悪夢』として長い期間世界中で語られる事になり、また世界中のネット界隈で安藤 ユーイチはある種のカリスマとして崇められる存在となった。

 

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