第17話「苦悩」
神月町自衛隊仮設本部
神月町における自衛隊はまたしても最悪の立場になりつつあった。
現在もそれに拍車を掛けるように世界中のマスメディアが巨大な移民船を取材する傍ら、自衛隊について取材している。
日本のマスメディアも自衛隊を批判できる時だけは皆足並みを揃えてこぞって批判する。日本の報道の自由なんてのは特定の政党や国のために他者を貶めるために都合良く解釈され、その結果マスゴミなんて言う言葉が誕生してしまった。
そして現在自衛隊は移民船ペガスへの抱囲体勢を解かれていない。
市民を守るためではなく、地球人の大量虐殺を目論んだドーマ軍に対して左田内閣が行った地球人類の無条件降伏に等しい行為を地球の代表面して勝手にやったせいだ。
自衛隊の総司令官は実質、内閣総理大臣である。
自衛官として任務を遂行しているだけであり、この包囲網が解かれていないのは政府が無政府状態であるのと、シビリアンコントロールの原則に則った行為である事、また治安維持のために必要である事やペガスはまだ日本の国土への不法滞在者であるため、そして悪い言い方をすれば信用していないと言う人間が政府がまだ多くいるせいだ。
ようするに日本政府はセイン人が恐いのだ。
だけどドーマ人はもっと恐い。
だから対応が中途半端になってるのだ。
スグにでも抱囲を解除しろと言う声は外務省に届いており、日に日に勢いは強くなっている。無碍に扱うわけにも行かず、過労でぶっ倒れた人間も出ている。
ハッキリと決める政府もまだ選挙中で決まっておらず、どうする事も出来なかった。
そしてそのしわ寄せは現地の自衛隊に降りかかっていた。
「転属願いがこんなにも・・・・・・」
ドンと角谷陸将の前に転属願いの束が届いている。
参考書並みの分厚さだ。
更にその前には眉間に皺寄せてとても辛そうな顔をした五十嵐一佐が立っていた。
「これでもまだ少ない方です」
「うむ・・・・・・」
角谷陸将はたぶんここでの戦地派遣が自衛官としての最後の仕事になるだろうと思い、半ば諦めていた。
「これを受理出来なければ自衛隊を辞めると言う隊員も少なくありません」
「そうだな。元の場所に戻してやれ――あまりにもこの場所は自衛官にとって過酷すぎる」
「いいのですか?」
「自衛隊と言っても彼達も人間だ。テレビを見たまえ。ペガスやそれと協力した地球人が華々しく英雄として讃えられている一方で我々は無能の軍事組織扱いで市民殺しとまで言われている――」
「受理もやむなしですか・・・・・・」
「だが出来る限り自衛隊には引き留めておけ。特に今はな。最悪次の職が見つからずに路頭に迷う事になるぞ――」
「分かりました。そのように伝えます」
☆
「ふう、疲れた――」
ユーイチは与えられた部屋でグッタリとなる。
椅子に座りテーブルに腕を置く。
椅子も机も空中に浮遊しているわけではなく、大企業のオフィスルームとかで置いてありそうな近未来的デザインの奴だ。
「お疲れさま~」
ピンクのツインテールの髪の毛。
小悪魔的で魅惑的な顔立ち。
それでいて豊満な体つき。
アニメや漫画に出て来る可愛らしい系のギャルっぽい女の子。
やはり白いレオタード系の衣装を身に纏っているセイン人。
名前はフィリル。
前回の決戦の時にファイアダイバーに乗って出撃したのも彼女だ。
「すっかり参謀の立場が板に付いたね」
「まあな――学校にいてもやる事ないし、町に出かけてもどこもかしこも乱闘騒ぎと来た。両親からはもう関わるなって言われてるけど、正直もう家族にも地球にもあんまり未練が感じられなくなってきてるんだよな」
「私達故郷を追われてここに来たんだけど、あんまりそう言う事言わない方がいいよ?」
「ああ、分かってるんだけど・・・・・・何かどうしてもな――確かに俺達は地球を救ったけど――どいつもこいつも戦争でまいってる。神月町の住民なんかやり場のない怒りをぶつけて、自衛隊は政府の責任を擦り付けられてるだけなのに必死にただ堪えて、それを好き放題に市民団体やマスコミは好きなだけ煽って――俺も自衛隊を罵倒した手前あんまり偉そうに言えないけど、俺は何のために戦ったんだ? こんな日々を守るために戦ったのか?」
「じゃあ止めればいいじゃん」
と、あっけらかんと答えた。
思わずユーイチは苦笑した。
「それが出来りゃ苦労はしないよ。てかどうして俺に付き纏うんだ?」
「単純に地球人がどう言う人種なのか興味があるから」
「失望したか?」
「ううん。正直まだよく分かんない。だけど私達に協力してくれた地球人達はいい人だってのは理解してる」
「そか――」
カリスマギャルっぽい顔であるが本質を捉えるのが上手いなとか失礼な事を考えた。
「ところであの自衛隊って人達は何なの? この国の軍隊なんでしょ? 何がしたいの? 皆疑問に思ってるよ?」
「ああ――やっぱりそう思うか」
うつろ疑問に思わない方がおかしいだろ。
と言うより自衛隊ほど地球上で矛盾している存在は無い。
神月町の自衛隊は実の所、現在進行形で日本の偉い人達の平和ボケなどのツケを払わされているのが現状だ。
「自衛隊が奇妙な行動を取るのは他の国からの外交的圧力とかもあるが、実際問題はこの国の法律が原因だ」
「うん、憲法九条って奴だよね」
その言葉が出る辺り、ある程度勉強はしているらしい。
「そうだ。その内容は軍隊は持ちません、戦争はしませんと言う決まりだった。今考えてみると実質アメリカの属国化同然の条文だな」
第二次大戦の時代は力こそが全ての戦乱の時代である。
戦争で勝った奴が正義になり、負けた奴が悪となるが地で行っている。
極論を言えば米国が原爆落としたり、都市を焼き払って大量虐殺をしても戦争に勝てば正しい行いになる。
今になって考えればよく当時の日本は今の中東みたいにならなかったもんだとユーイチは思う
「だけどどうして再び軍隊を持てるようになったの?」
「第二次大戦後の数年後に日本の近くで戦争が起きてな、アメリカは自分達が押し付けた都合なんて考えもせずに自衛隊の前進となる組織、警察予備隊が誕生したんだ。そして今の自衛隊となる」
「それは日本の軍隊なの?」
「ああ。一応は軍隊じゃないと言ってるが、実質は軍事組織だ。そこから長い間自衛隊はずっと冷遇され続けて来た――だが1990年代の半ばに起きた地震災害で救助活動を行ってその辺りから劇的に自衛隊の扱いは改善されたと言われている。それでも憲法九条は碌に改善されないまま今に至っている」
「よく日本滅びなかったね」
惑星セインは長い戦争の歴史から恒久平和を勝ち取った惑星らしい。
それについ最近ドーマの侵略戦争に敗れて彼女達は地球にやって来たのだ。
彼女は不思議がるのは当然の反応だろう。
「何だかんだで核抑止力とか、米国の後ろ盾の御陰とかもあったんだろうな・・・・・・万が一に備えての議論は度々繰り返されて来たんだろうが、それでも憲法九条の呪縛を解くには至らなかった」
最近の調べでは憲法九条の条文は日本人が提案したと言われる説も出て来ているが真相は未だ闇の中であり、アメリカ説が通説であるがそれが本当かどうかなのは証明はされていない。
「自衛隊の奇妙な行動は憲法九条もあるが、国民が選挙で選んだ左田内閣に原因がある」
「私達を売り飛ばした連中よね? セイン人の中でもけっこう反感持っている人達多いよ?」
「まあ無理もないか・・・・・・」
幾ら今回の戦争の発端を作ったとは言え、相手の事も経緯を碌に知りもせずに売り飛ばしたのは事実である。
うつろ反感を持たれない方がおかしいのだ。
「あいつらは正直自国民なんてどうでも良かったのさ。中国や韓国とかのご機嫌を伺いながら政治運営してたのさ」
「中国と韓国って隣国よね? 仲が悪いの?」
「両国は未だに第二次大戦の戦争犯罪を根に持つどころか事実をねじ曲げて謝罪と賠償を求めている。中国は日本を虐殺魔扱いして、韓国は未だに日本をレイプ魔扱いして世界中に日本人はレイプしましたって言う銅像まで建てている。韓国は病気の域だな。そう言う奴達のために政治運営しているから精神は狂っているとしか言いようがない。選んだ国民もバカだって事なのさ」
「お付き合い考えた方が良さそうだね・・・・・・」
「ヨーロッパも腹黒いから要注意だぞ。ロシアやアメリカは自分達の軍事的影響力が低くなる不安を解消してやればいい。韓国は喚くだけしか脳がない国だから何も出来ないだろうが問題は中国だ」
「中国って地球の大国の一つよね?」
「ああ。前時代的な覇権主義国家を拗らせていて、国境問題を含めた様々な問題を抱えている。チベット、ウイグル自治区での弾圧とかもやってて油断ならない」
「・・・・・・正直ユーイチの言葉を鵜呑みにするわけには行かないけど、裏付け取ってから上の方に報告するね」
「そうしてくれ」
フィリルの判断は正しいので特に何も言わなかった。
「それと日本の選挙での争点はセイン人とドーマ人とどう付き合うからしい。中にはまだ平和的解決を夢見ている連中もいるようだ」
「あんだけされたのに、まだそう言う人もいるんだ?」
「・・・・・・ああ、テロリストの気持ちは何だか分かってきて嫌になるぜ」
ちゃんと選挙言って公約を叶えてくれると信じてその政治家や政党に投票したら、手の平返したかの様に公約を守らずに増税とかしたりして有権者や国民の生活を苦しくする。
これでは選挙に行くのが馬鹿らしくなる。
政治に関心を持たなくなるのも当然だ。
虚ろ一発国会議事堂にミサイルをぶち込んだ方が国の為になるんじゃないかとすら思えてくる。
「うん? 呼び出し?」
呼び出し音が鳴り響く。
モニターに出て部屋の前を確認するとそこにはクマ型のセイン人、マコットがいた。
すぐさまドアを開けた。
「た、大変なのだ!?」
「どうした? ってチラシ?」
そのチラシを見ると想像を絶するような内容が書かれていた。
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