第16話「どんな時でも時は流れる」

 あれからまだ一日しか経ってない。

  

 何もかもが定まってない。


 世界は確かに救われた。


 しかし世界は今、未曾有の大混乱に陥っていた。

 

 特に日本政府は世界中から凄まじいバッシングの嵐を受けて内閣総辞職となり、選挙の為に各政党が動き出していた。


 秋月 怜治もあの戦いに深く関わったせいか、この政治の流れに深い関心を持つようになった。


 ペガスは一旦神月町の学園の近くに着陸した後、半ば自衛隊に抱囲状態のまま市民団体からのクレームを受けると言う、普通の人間ならぶち切れてもおかしくない状態が続いている。


 だが悪い事だらけではなく、国内から世界中からやって来た観光客やマスコミ、ボランティア、ジャーナリスト達がやって来た上に国内や海外の大企業の重役などが視察にやって来たりしていた。

 

 またペガスにも外交官が訪れたりと、とんでもない事態に発展していた。

 ユーイチはセイン人の為のアドバイザーとして付きっ切り状態になり、中々休めないでいるらしい。


 話を戻そう。

 現在秋月 怜治は屋上にいる。

 裏山の方はただ緑の自然が広がっていたが、全長1km以上のペガスの船体が横たわっていて圧迫感がある。

 多少距離は離れたがそれでもミスマッチな光景に思えた。


(俺達世界救ったんだよな・・・・・・)

 

 などと想いながらスマフォで日本政府に関連するニュースや動画サイトを見ていた。

 やはり何処の政党もドーマ人やセイン人の事、そして再び襲来したらどうするかなどが焦点に当てられていた。

 

 未だにドーマ人相手に話し合いで平和的解決目指すと宣っている政党がいる事には素直に驚いた。

 実質抹殺を宣言されておいてこれなのだから。


 素直にセイン人と協力してドーマ軍と戦うと言う選択肢は取れないのだろうかと思う。


 しかしユーイチ曰くスパロポとかでよく出る「地球連邦」とかならともかく今の地球は様々な国家の集まりである。

 それぞれの国家の思惑で動いている以上、一枚岩では動かないのは明白――との事。何とも言えない話だ。

 

 昔見た映画の様に宇宙人が襲来したら世界が一致団結して戦うと言うのは夢物語りであるらしい。余談だがその手の映画は今レンタルやDVDショップなどで大好評になって特集が組まれているぐらいだ。

 

 また敵も味方もロボットを使って戦ったであるせいか世界中で日本のロボットアニメが大ブームになっているそうな。

 元々そう言う国は地球上に多くあったらしいが現在日本産ロボットアニメを放映している国の視聴率はどの国も八十%越えで社会現象を巻き起こしているそうだ。


 遠からず日本も再びロボットアニメブームが到来しそうである。


(さて、自分達はどうなる事やら――)


 最初の戦いの時と後でセインの船に乗り込んだ人間達は皆、セイン人とファーストコンタクトを行った学生として政府に登録されている。

 その中でもロボットを創造して戦闘行為を行った物は良くも悪くも扱いは上だ。

 

 つまり世界的VIP扱いであり、佐竹二佐によると既にこの町には大多数の公安職員が入り込んでいるらしく、自衛隊の特殊部隊クラスも送り込んでガードについているようだ。

 

 同じように世界各国もスパイを送り込んでいるのだろう。

 

 今の歴史の流れの最前線がこの何の変哲もないただの地方都市である神月町になるとは思いもよらなかった。


 そして自衛隊と神月町の住民だがやはり関係は改善出来てない。

 そこに平和市民団体までもが加わり、三つ巴の争いが何度も発生している。

 

 普通こう言う事は起きないのだが、平和市民団体の言い分は「とにかく武力があるから戦争が起きる」、「自衛隊がいなければこうはならなかった」とかそんな感じの意見を声高らかに言う。

 そして今の神月町の住民は平気で自衛隊にすら噛み付く狂犬状態である。


 市民団体と口論が起きて、そこから激しい乱闘が発生し、そこに自衛隊が止めようとして更に乱闘が激化し、今回は死傷者は出なかったが重傷者が出る程の騒ぎになった。


 特に市民団体はこれにびびってしまって自衛隊や警察に守れながら自衛隊反対」を叫ぶと言う奇妙な光景になり、神月町の住民からまたもや反感を買うと言う異常事態になった。


 それを知った怜治は「何があっても将来自衛隊にだけはなりたくないな」と思った。

 

 とにもかくも今はまだ平和である。


  

 アメリカの大統領「トーマス・ブランウェン」は思考する。

 まだ若手ながらアメリカ合衆国の大統領として当選した人物だ。

 ホワイトハウスの大統領の部屋に主だった人間を集めてこれからどうするかを考えていた。


「地球は今とんでもない危機に陥っている。前回は正直危なかった――」


 そして黒人の補佐官が答える。

 

「はい、大統領。最悪月に設置された砲台を破壊してくれなければ無条件降伏すらありえました」


「そして無能なサダ政権は凶悪な異星人と戦う術を碌に考えもせずに侵略者どもへ手放そうとした。それを救ったのが実質日本のまだ学校に通っている少年だとはな・・・・・・サダ総理は典型的なパンダハガーで本人は知ってるかどうか知らんが中国や韓国ですら持て余す程の無能な政治家だ――」


「だから大統領はサダ内閣に倒れてもらう事にしたのでしょう」


「まあな」


 日本の防諜体制がザルなのは昔からだ。

 左田総理の考えなどお見通しでアメリカ政府は例え宇宙人来訪と言う未曾有の事態があろうが無かろうが遠からずのウチに潰そうと計画していた。

 

 これは地球の現在の軍事パワーバランスが原因である。


 現在の地球は様々なテロ組織との戦いを行う中、ロシアや中国、ヨーロッパの国々との駆け引きを行っている状態で、特にアメリカは前時代的な覇権主義を振りかざし、その影響力を増しつつある中国などが最優先の課題だ。

 その次点で北朝鮮、敵か味方なのかハッキリとしない韓国などが来る。

 遂最近までは日本も敵なのか味方なのか今一信用出来ない奴だった。


「しかし日本は何であそこまで憲法九条を守っているんだ? 自国を悪く言うのも何だが、各都市を焼け野原にして原爆を落とした国に押し付けられた決まりだろう?」


 あまり知らせようとしないが憲法九条と言うのはアメリカが押し付けたようなもんである。そして憲法と言うのは一応変える事が可能であり、日本政府はどう言うわけかクソ真面目にそれを守ってきた。

 

 この最もな疑問に関して他の官僚も言葉を開いた。


「それについては日本人ですら余り知られてない隠れた歴史が問題でしょう。今回の話には関係ないので詳しく触れませんが戦後の頃から中国や朝鮮人などの政治的影響を受けていたのが原因です」


 これに続いて他の官僚も口を開いた。


「また日本の政治家は自衛隊の出動を嫌う傾向があるのです。あの宇宙人の襲来ですら彼達は自衛隊を出動させず、平和的解決を図っている程です」


「何故彼達はそれ程までに自衛隊の出動を嫌うのかね? 震災が相手の時は頼りになるのに?」


「左田政権などは特別自衛隊を嫌っていましたが他の政党も自衛隊に戦闘指示を命じたら選挙に負けると信じているからです。それに日本のマスコミも中国や韓国などのテレビ局と言っていい状態です。もしも戦闘指示を出したら選挙に大きな波紋をもたらすのは避けられない事でしょう」


「ふむ・・・・・・改めてこうして聞くと中々に複雑奇怪な国だな、日本と言う国は・・・・・・一先ず日本の事は置いておこう。我が国はセイン人やドーマ人に対してどう向き合うかだ」


 それが今の最重要課題だった。


「どの道、彼達は我々に宣戦布告しています。とにかく宇宙進出と奴達のロボットに対抗できる兵器の製造が急務です」

 

 黒人の補佐官に続くように他の補佐官も口を開いていく。


「私もこの件はそれしか無いかと・・・・・・彼達はNASAの衛星にいた職員も平然と殺害しています。その中には我が国の職員は当然、世界各国の優秀な人材が乗っていました」


「大統領、日本とは幸い同盟国の関係です。様々な支援をする見返りに不時着した敵の宇宙船やロボットのパーツの残骸などを収集してます――」


「そうか・・・・・・では私からも一つ彼達に提案してみようと思う」


「提案ですか?」


 大統領は不適な笑みを浮かべる。


「彼達に商売を持ち掛けるのだよ。今世界中が宇宙に目を向けている。そこには異星人の技術が大量に転がっているからだ。我々も同じだがね」


「まさか――彼達に回収業務をお願いするのですか?」


「そうだ。彼達は我々地球人と違って自由に行き来出来る。それを利用する手はない。悪くない取引だと思うだろう? NASAには悪いとは思うが、彼達と軍部に技術を譲渡する約束を取り付けよう。それにあの巨大な移民船とは長い付き合いとなりそうだからね。友好を築いて置くのも悪くはないだろう」


 と、言ってのけた。

 


 欧州の何処かにある、とある大きな屋敷。

 近くには綺麗な湖が流れ、周囲を自然に囲まれた幻想的とも言える立地。

 そこには欧州の影の支配者がいた。

 

 その支配者の名を「財団」と言った。


 だがその財団は支持者であるヨーロッパの国々の国力低下や財団を動かす指導者に恵まれず、どんどんその影響力を低下していった。


 だがある男が現れてから財団は変わった。

  

 その男は一種の完璧超人だった。

 

 金髪碧眼で端正な顔立ち、整った容姿。

 どんな困難な事も当然の様にこなし、財団の中で頭角を現していき、男子女子問わず年齢を超えて人々を魅了する。

 正にカリスマであった。


 まだ二十代半ばであろう彼は欧州を徐々に建て直していく傍ら、遂には財団の代表となった。

 そして財団の代表となった彼はある壮大な計画を練っていた。

 

 そんな矢先にセイン人とドーマ人、地球人と同じ人型の種族でありながら争い、そしてドーマ人は昔の時代――槍と弓矢が戦争の武器だった時代の覇権主義国家同然の野蛮な思想を持っていた。

 

 だがそれよりもその男が感動した事がある。


 秋月 怜治、安藤 ユーイチなど、セイン人に協力し、共にドーマの大軍勢を打ち破った地球人。

 それが彼にとって今一番の興味の対象だった。

 ペガスとどう接するかは二の次かも知れないが、余り下品な真似を働くようなら容赦無く潰すつもりだった。

 

 少し貴族掛かった衣装を身に纏い、椅子に座って端末で地球を救った日本の若き勇者達のプロフィールを眺めていた。


「フェイル様」

 

「なんだね?」


 フェイルと呼ばれた男――財団の現当主――は副官のショートカットのメガネを掛けた綺麗な女性に呼ばれた。


「日本に直接出向かれるのですか?」


「当然だ――地球を救った勇者達――そしてこれからも共に戦う戦友となるかも知れない相手だ。無碍に扱う事など出来ない」


「戦友ですか・・・・・・閣下にそう言われるその者達が羨ましいです」 


「ふっ、すまない。私は何時まで経ってもレディの扱いには不馴れらしい」


「いえ、それが閣下の魅力でもありますから」


 と女性は顔を赤らめながらそう言った。


「暇を作ってこの埋め合わせをする事を約束しよう」


「は、はい――それで閣下は今の地球圏に対してどう向き合うつもりなのでしょうか?」


「・・・・・・私はこの青き星が好きだ。だが青き星に住む人々や生命の為に、私は悪になる覚悟をしていた。だがそれを行う事は出来なくなってしまった。彼達の来訪によって」


「セイン人とドーマ人の事ですか」


「そうだ。私は世界を一つに纏める為に、人類の未来を思う為とは言え、第三次世界大戦を起こし、大罪人として歴史に刻まれる覚悟すらあった――だが今そんな事をすれば人々の歴史は、先人達が命を燃やして積み上げて来た我々の歩みはドーマ人によって無駄になってしまう」


「それが閣下の望み・・・・・・」


 狂人の考え。

 夢想家の発言。

 だがフェイルが言うと確かな説得力を感じられた。


「私を軽蔑したかね? それは当然の反応だ。だが今は違う。今は例え困難な道であっても人類の意志を統一させドーマと戦わなければならない。だから私は日本の左田政権を憎んでいた」


 彼にとって左田総理とは永遠に相容れない存在だった。

 そしてそれはセイン人とドーマ人の一件で決定的となった。

 だから彼には地球の歴史の中で永遠に語り継がれる愚者としてあらゆる世界から去って貰う事にした。彼はそれだけの大罪を犯したと思っている。  


「そして私を含めた不甲斐ない大人達のために戦ってくれた日本の若き英雄達を心から尊敬している――彼達がいなければ日本を含めた国々はドーマ人の人型機同兵器の手で火の海となり、そしてドーマのあの砲台によって為す術もなく大勢の命が亡くなっただろう。だから私は彼達に習って自分に出来る事をしようと思う――それと同時に私の我が儘で命を捨てて貰う覚悟をして欲しい」


「それが閣下の願いなら――」


「そのためにも彼達と接触し、そしてドーマ人達と戦う術を得なければならない。人の歩みを終わらせない為にも――」


 そうして彼は動く。

 人類の未来を願って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る