第23話「愚者の選択」


 先遣隊として派遣されたドーマ軍三百隻の艦隊全てが地球に降り立ち、アームド・セイバー達が町を焼き払っていく。

 住民は大勢いる所には競い合うかのように虫けらを殺すかの如くビームを撃ちまくる。

 戦艦も人が大勢居そうな建造物めがけて主砲を乱射する。


 東京は広い。

 面積は2,188 km²。(東京ドームが0.047 km²、)

 東から西には50km以上の面積。 


 だが戦闘機以上の作戦行動範囲と戦車以上の火力の要素を兼ね備えたアームド・セイバーを全力で暴れさせるには丁度良い範囲だ。

 それも人々が大勢いる大都市や市街地を優先して戦力を投入すれば瞬く間に焼け野原に出来る。(また、大都会の東京都内は先に述べた東から50km以内の範囲内に集中している) 


 戦艦の主砲も広大な宇宙で艦隊戦をやるための物だ。東京の大都市を焼き払うには十分な射程距離と破壊力を持っている。そのため近隣の都道府県である千葉や神奈川も主砲の射程範囲である。県内の都市部は艦砲射撃による被害に遭う事となった。

 

 幸いだったのは疎開運動が進んでいた事であろうか。

 それでも犠牲者は大勢出て一時間もしないウチに犠牲者は十万を超えた。

 東京は元々1300万人以上の人々が暮らす都道府県だ。

 その大部分が住んでいる大都会を中心に艦隊規模による破壊活動を行えば一時間以内に十万を超す被害は出る。

 

 宇宙人との平和。

 友好を叫んでいた市民団体達は真っ先に死んだ。

 政府の事業で引っ張り出され、友好のために歌を歌わされていたアイドルグループも死んだ。

 

 そうでない無関係な一般人も死んだ。

 老人、女、子供、赤ん坊の区別もなく、平等にドーマ軍は死を与えていく。 


 国会議事堂だけを攻撃範囲に収めていないのは、これはドーマが占領政策を行う手続きをするために形式的に残しているだけであり、目立ちそうな建物――東京スカイツリー、東京タワー、東京都庁、テレビ局、大都市の高層ビル群は根こそぎ破壊した。それを破壊し終えるとセンサーで人の密集地を狙い、避難所を片っ端から攻撃する。

 

 瞬く間に世界有数の大都市、周辺の都道府県が地獄絵図に変わる中、自衛隊は出撃命令を受ける間もなくやむをえず交戦に突入するがテクノロジーの差と物量差、戦闘態勢が整わない状態での戦闘と言う要因が重なり、瞬く間に東京都内の自衛隊は全滅した。

 世界最強を誇っている米軍もドーマからすれば辺境銀河の片田舎のお山の大将に過ぎない。時間が経てば全滅するだろう。 


 ペガスを中心とした迎撃態勢を整えて言えれば話は違ったかもしれないが、もうそれはIfの話だ。



 時間を巻き戻し、リミル達はペガスでの迎撃態勢を強行しようとした。

 

 しかし左田政権は何をトチ狂ったのか自衛隊の特殊部隊を送り込み、ペガスを制圧する為に動いていた。

 最悪のタイミングで最悪の選択肢を行ったのだ。

 当然、この模様は全世界に配信されている。


 追い詰められすぎて頭がおかしくなったのだろう。

 

 だから強硬手段でペガスを内部から制圧しようとした。


 ブリッジにはリミル達セイン人と左田総理を始めとした官僚、そして自衛隊が銃を向けていた。


「貴方達は何をやっているのか分かっているんですか!?」


 リミルのセリフは地球やセイン人全ての人々の気持ちを代弁しているかのようだった。


「分かっている! だが我々が生き残るにはこうするしか無いんだ!」


 左田総理は被害者面をしてそう言ってのけた。

 後ろでは自衛隊の隊員達が何やら言い合っている。 


「おい、まだインターネットへの配信は遮断出来ていないのか?」


「申し訳ありません! 地球の物と違って勝手が違って――それにこんな広い船内からどう探し当てれば――」


「言い訳はいい! 物理的に破壊してでも良いから止めろ!」

 

 と言い合っている。

 彼達は自衛隊の中でも特殊な作戦、主に汚れ仕事を行う部署の人間である。

 しかし急な作戦だったために杜撰極まりない物であり、その結果悪の侵略者が迫り来る状況で、一緒に戦ってくれる善良な宇宙人の船を武力で従わせる地球人の恥晒し的な光景がリアルタイムで繰り広げられていた。

 

「もうイヤだこんな作戦!」


 そして武装した自衛官の一人が銃を放り捨てた。


「何をする!? 命令に違反する気か!?」


「そう言う隊長はどうなんですか!? 異星人と戦うのは確かに恐いが、何故こんなところで異星人の大量虐殺を手助けする作戦に従事しなければならないんだ! 俺だって家族がいるんだ! やりたきゃお前達だけでやればいいだろ!」


 そう言って自衛隊の一人は立ち去った。

 それに釣られるように口々に自衛官は口を開く。


「隊長。我々汚れ仕事専門の部署ですが、それはあくまで国家の利益の為を思ってのためでした――ですがこの作戦はあまりにも――」


「だが自衛官は上の命令には絶対だ。そうでなければテロリストになる」


 このまま作戦を遂行すれば地球の何処かは確実に焼き払われ、大勢の人間は死ぬだろう。

 だがもうどの道異星人の大量虐殺に手助けをしたと言う事実は一生付き纏う。


「隊長――我々は数々の作戦に従事して来ました。しかしこれではあまりにも――」


「それがどうした?」

 

「た、隊長?」


 思わぬ返事に自衛官達に動揺が走る。


「俺達は確かに今迄人に言えない様な汚れ仕事を数々こなしてきた。綺麗事だけではやっていけない。それをわかっていた筈だったんだがな・・・・・・どれもこれも阿保で間抜けな政治家どもの尻拭いだ。それがとうとうここまで来た」


 と、その政治家達に聞こえるように言った。


「お前達! たかだか自衛官如きが我々を愚弄する気か?」


「ハッ、お前達みたいな人間の屑どもに、本当に忠誠誓ってると思ってたのか?」


「何だと!?」


「どうせもう自衛隊は終わりだ。折角の世界中の生配信だし、好きな事を言わせて貰おう。俺は一度東京が焼け野原になった方がいいと思っている人間だ」


「た、隊長?」


 突然の告白に自衛隊の部下達も騒然となっていた。


「さて、少し勉強の時間だ。政治家と言うのは基本有権者と呼ばれる連中が選ぶ物だ。そして自衛隊の上官と言うのはその国民の中から選ばれた政治家達だ。極端だがそう言う構図になっている」


「おい、その馬鹿を取り押さえろ!?」


「で、ですが・・・・・・」


 政治家達は取り押さえるように言うが隊長の部下達は突然の豹変と良心の板挟みで上手く動けなかった。


「だが国民に任せた結果が今の状況だ! マスコミに踊らされた結果、こんな権力の屑どもが当選して国を動かし、俺達はこの売国奴の尻拭いを延々とやり続けさせられた! 俺はそんな政治家どもを憎んだ! 大嫌いだ! 同時にそんな連中を平然と当選させておいて被害者面する国民どもにも責任があると思っている!」  


「だから日本を焼け野原にするのか?」


 そしてブリッジに安藤 ユーイチが現れた。

 そしてゾクゾクと完全装備の自衛官達が集まって来ている。


「ユーイチさん! 怜治さん達は!?」


「独断で出撃させておいた。しかしまあ日本政府が腐っていると分かっていたがここまで腐っていたとはな」


 そう言ってユーイチは隊長達を含めた政治家、官僚達を視界に捉える。


「お前はここにいると言う事は部下達は失敗したか」


「自衛隊の中にも色々いるんだよ。角谷陸将の兵士達が助けてくれた。大人しく捕まっていっている。皆この作戦には乗り気じゃなかったみたいだ」


「だろうな」

 

 隊長もその辺は分かっていた。

 碌な計画も準備もなく発動した無謀な計画だ。失敗して当たり前である。

 それに汚れ仕事専門部署の人間でも、それは日本の国益を考えての事だ。好き好んで守るべき日本国民の大量虐殺に手を貸す事に耐えられる自衛官はいないのもよく分かっていた。


「で? どうするんだ? さっきの演説聞いたが一度口に出した言葉は引っ込める事は出来ないぞ?」

 

 この隊長の演説で自衛隊は世界的悪役になった。 

 長年自衛隊が積み上げて来た信頼を木っ端微塵に吹き飛ばす程に。

 それを全然悪いと思っていないのか隊長は笑い声を上げた。


「ああ。分かっている。だからこうするんだよ」


 そうして隊長は政治家達に銃を向けた。


 そして銃声。


 隊長は射殺された。

 射殺したのはユーイチと一緒に来た佐竹二佐だった。 

 この惨事に政治家、官僚達は悲鳴を上げる。


「あの程度の銃撃、経歴から考えれば避けられただろうに――」


 佐竹二佐はその事を不思議がっていたが、ユーイチは「それが答えなんでしょう」とだけ返した。


「ええい、どいつもこいつも役に立たない! ドーマと和平交渉の邪魔をしおって! 私はこれでも日本の国益を考えているんだ! そもそもお前達宇宙人どもがこの国に来なければ私はこんな目に遭わずに済んだのだ! 国民も黙って俺達政治家に従えば良いんだ! 国を動かしているのは俺達政治家なんだぞ!? 俺達政治家がいなければ何も出来ないくせに! 何が悲しくてアホな有権者や●国人や●国人、マスコミの機嫌を取らにゃならんのだ!」


 場の雰囲気を考えずに左田総理は全身から汗を吹き出し、血肉に飢えた猛獣の様な形相で喚き始めた。

 発言する内容も最早「醜い」としか形容するしかないものだった。

 佐竹二佐達は粛々と事後処理を始める。政治家官僚をブリッジから叩き出し、付き従っていた自衛隊達の武装解除を行う。

 

 その傍ら、ユーイチの指示で東京の状況が映し出されていた。


 それは正に地獄絵図としか形容出来ない物だった。

 ユーイチは昔教科書で見た、第二次世界大戦の東京大空襲を連想していた。

 政治家、官僚達、自衛官達は青ざめていた。

 それはリミル達も同じだった。


「この際だからハッキリ言っておくぞ。これは全ての日本国民が招いた地獄だ」 


 と、ユーイチは言った。

 

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