第10話「夜が明けて」

 結局怜治達は体育館での避難生活になった。

 リミルが「ペガスに泊まっていくように」言われたが、秋月 怜治達も学生であり、親の下で生まれ育った人間である。

 戦いのキッカケであり、敵の最重要目標の中で寝泊まりする上にまだセイン人の事を理解出来てない親に宇宙船で寝泊まりするのは流石に気が引けた。


 昨日は色々とありすぎて頭がおかしくなりそうになったが、未だに学校の近くにある巨大な1kmの移民船がその存在感を主張している。

 

 自衛隊の人達の食事の支援などが上手く言っているのを見る限りではある程度、混乱は収束はしたが完全に蟠りは解けたわけではないだろう。

 信頼は築くのは難しいが崩れるのは一瞬なのだろうから。(ユーイチ談)


 自衛隊からの配給を受け取り、怜治は学校の様子を改めて見渡す。

 特に人。

 和気藹々した様子はない。

 総じて顔が暗い。

 

 震災ではなく、戦後初めての戦争に巻き込まれたのだから仕方のない事だろう。

 リミルの説得で衝突は避けられたがそれでも不安の種は燻っているに違いないように思えた。


「悪いが一緒に来て欲しい」


「佐竹さん・・・・・・」


 早々と怜治は自衛隊と行動を共にする事になる。

  

 昨日自衛隊の車両の引っ張って運転を買って出た人だ。

 あの後名前を聞いたが佐竹二佐と言うらしい。

 いわゆる中佐に値する人でかなり偉い人であり、神月町「災害派遣」部隊の隊を一つ任されており、彼の裁量でその気になれば部隊も率いられる。

 神月町にいる上層部の人間に意見を上申出来るぐらいの事もあるようだ。


 部下と共に宇宙船の中を案内して欲しいと言う物だった。

 念の為ユーイチを連れて来て置いた。知恵袋として頼りになるからだ。「あまり皮肉を言うなよ?」と念押ししておいた。


「政府はともかく上の人間は詳細な報告を知りたがっている」


「インターネットに纏めてアップロードするからそれでいいんじゃ?」


「早速かよ!?」


 ユーイチの顔は笑みを浮かべているが早速この有様である。

 怜治は頭を抱えた。


「ネットの情報を鵜呑みにするわけにも行かんし、最悪パニックになる――」


「もうなってるでしょうに――」


「ま、まあ取り合えず行きましょうか」


 本当に変わった物だと思った。

 確かユーイチは自衛隊を憧れの職業の一つと言っていたのに憧れの筈である自衛官を前にしてあの態度である。もっとも怜治も「間接的にではあるが殺され掛ければああもなるか」と気持ちが分かるだけに強くは言えなかった。


 途中、子供向けアニメに出て来る様な、二頭身程で頭でっかちのクマ型の異星人を見て自衛隊達は、驚いたりしていたが――ともかく許可を取って中へと進んだ。


「武器は置いておかなくても良いのか?」


 と、当然の問いを佐竹二佐はしたが――


「移民船とは言え、異星人の船ですよ。どんな防犯設備があるのか試したかったら使っても良いんじゃないんですか?」


「遠慮しておこう」


 そしてユーイチは先へと進む。離れた所を見計らって佐竹二佐は怜治に耳打ちした。


「彼は何時もこんな感じなのか?」


「以前は違ったんですけど災害救助したり、ロボットに乗って戦ったり色々ありましたから・・・・・・」

 

「そうか。では彼が・・・・・・」


「はい・・・・・・」


 それから何とも言えない雰囲気で艦内を移動する。

 やはりと言うか都市その物を内包した壮大なスケールの移民船に終止自衛隊達は圧倒されっぱなしだった。


 そしてブリッジへと辿り着き、リミルと合う。

 白いレオタードみたいなコスチュームで男性隊員は目のやり場に困っていたが佐竹が代表して尋ねていく。


 セインの事。


 ドーマとの戦争の経緯。


 この移民船ペガスの事。


 地球に至るまでの経緯について。


 それをICレコーダーで会話を録音しながら話を進めた。


「完全にSF小説の世界だな。上にどう報告すればいいんだ・・・・・・」


 などと組織の人間としての悲哀さを滲み出しながら佐竹二佐は呟いた。


「で、貴方達は戦う気があるのですか?」


 リミルが問い掛けた。

 彼女は昨日自衛隊達を擁護したがユーイチの入れ知恵と先日の戦闘のせいでやはりと言うか少しばかり自衛隊に対して不信感を持っているようだ。


「それを判断するのは上の人間で我々は自衛官だ」


「やっぱそう言うしか無いよな・・・・・・自衛隊だし・・・・・・」


「ユーイチお前いい加減にしろよ」


 半ば呆れながら言うがユーイチはとても底冷えするような冷たい声で


「お前だって死体は見ただろ――」


 と言った。

 

「それは――」

 

 それを言われて気分が悪くなる。

 思い出したからだ。


「原型があるのは奇跡、損傷が激しいのが普通、体のパーツしか残らない、中にはビーム兵器の粒子で肉片一つも残っていない奴もいた――確かにあんな状況だ。犠牲ゼロで終わるなんて夢のまた夢だろうが・・・・・・それでも」

 

「ユーイチ、お前本当にどうしちまったんだ!? そんなに自衛隊貶したいのか!? 憧れの職業だったんだろ!?」


 そう、ユーイチの言う通りだ。

 だがそれでも彼を止めようと怜治の本能が突き動かした。


「うるせえ! そんなの言われて無くても本当は分かってんだよ! 自衛隊は悪くないって! 悪いのは腰抜けの政治家やちゃんと選挙に行かない奴とか、馬鹿な政治家を当選させる民衆なんだって! だけどな・・・・・・何でもっと早く来なかったんだ? どうして俺が災害救助活動したりとか、異星人のロボットに囲まれて命懸けの殺し合いをしなけりゃならなかったんって思うんだよ! だけど、社会的常識に当て嵌めれば俺が悪いんだ! 社会的には大人しく避難して、黙って人が死ぬのを指を咥えて見てれば良かったんだよ! いや、それ以前にドーマの連中が町を焼き払うのを眺めながらここの移民船の連中を見殺しにすればこんなややこしい話にはなりはしなかったんだ!」


 それだけ言い切ってユーイチはへたり込んだ。

 誰も彼もが言葉を発しない。


「わかってんだよ――わかってんだよ――俺にも責任があるんだよ――」


「悪い」


「謝るな。いっそ罵倒しろ。お前が正しいんだ・・・・・・席外すわ」


 そう言ってユーイチはブリッジから立ち去った。

 残されたリミル達ブリッジ要因、佐竹二佐を含めた自衛官、そして怜治はじっとユーイチの後ろ姿を眺めた。

 リミルやブリッジ要因、自衛官達は涙を必死に押し殺している。



 やっちまったな――そう思いながらユーイチはロボットの製造上にいた。

 そこにはベアル人がいた。

 しかしどのベアル人かは分からない。

 ベアル人は顔の特徴などで見分けるのは不可能だ。

 声とかで見分けるしかない。後は勘頼みだ。


「どうしたユーイチ?」


「その声はマコットか・・・・・・ここの管理任されてるのか」


「そうなのだ。で? 何かあったのか?」


 マコット。

 最初に出会ったベアル人の名前だ。

 怜治やユーイチ達はここまで導き、バクファイガーを産み出し、そして最初のファイアダイバーの出撃では一緒に災害救助した仲である。


「どうしても怒りを抑えきれなかったんだ・・・・・・お前達セイン人だけじゃなく、自衛隊にも――不思議だよな。敵じゃ無くてそれ以外の連中に対して怒りを露わにしてるんだぜ?」


「そりゃ仕方ないのだ。元々この町が戦果に巻き込まれたのは僕達の責任なのだ」


「ああ。それは変えようのない事実だ・・・・・・だが昨日の戦いでこの国の最大の問題点って奴をこれでもかって思い知ったよ。そして自分自身の心の醜さもな。俺も結局は身勝手な民衆と変わりはしないんだって思った。自分は違うと思ってた――」


「僕は難しい事は分からないのだ。だけどユーイチは偉いのだ」


「そうか?」


 溢れ出す涙を拭いながら無理に笑みを付くってそう返す。


「僕達もそうだったのだ。だけど僕達セイン人は――遅かったのだ。だがまだ君達はまだ間に合うのだ」


「・・・・・・」


 そう涙目になってマコットに訴えかけられた。

 ふと座席とヘッドギアを見やる。


「なあ、話を変えるがディーナで作ったマシンって奴はどうやって整備されてるんだ?」


「この移民船の機能を使えば何だって出来るのだ。整備も自動でやってくれるのだ」

 

 「質問する相手が悪かったな・・・・・・」とユーイチは頭を抱えた。

 何とも素晴らしいご都合主義的で素晴らしい機能なのだろうと皮肉げに思った。

 もっとも人の思考に合わせてスーパーロボットを三分以内で産み出す意志を持つ鉱物が動力炉だ。それぐらい出来てもおかしくはないだろう。

 気を取り直して別の質問をする事にした。


「話を変えてアームド・セイバーは製造出来てるのか?」


「フラウの事なのか?」


「ああ。前回一緒に出撃してたあの緑色の奴そう言う名前なんだな。アレを量産してるのか?」


「本国で製造された奴でディーナを使わずとも製造工場があってそれで組み立てが可能なのだ」


「流石移民船だな・・・・・・リリィやフラウ、敵側のジェムの詳細データーや設計図、特徴を日本語訳して見せてくれ」


「どうするのだ?」 


「お前達でも戦える武器を創ってやる」


「本当なのか? どうして急に?」


「正直日本政府はアテにならんし、ドーマ人の出方が分からん。最悪また俺「達」で対処する事になるだろうから強い戦力はあった方が良いだろう。それと今度は災害救助用じゃなくて俺も戦闘用の奴を創る」


「分かったのだ!」

 

 感情が表に出やすい種族なので子供のようにマコットは興奮する。

 ヤレヤレと首を振りつつ、ふとある事を疑問に思った。  


「そう言えばベアル人みたいに他の種族もいるのか? 俺達みたいな人間以外の背格好したの」


「いる事はいるのだ。だけど僕達、戦闘向きらしいので戦闘班に所属されてるのだ。他の種族は別の場所にいるのだ」


「そうなんだ・・・・・・」


 ブリッジや食堂では見掛けなかったが嘘を付いているようにも見えない。 


「ともかく始めるか」


 そうしてユーイチは座席に座る。

 とある作品であった言葉。

 座して死ぬよりも僅かな可能性に掛けて戦って未来を切り開く道を選ぶ。

 

 ドーマとの戦闘は正直絶望的だがそれでも勝ち目はある。



 学校付近に設けられた仮説司令室。

 本当の学校の施設を間借りしたかったが、一応名目は災害派遣と言われているが実質は戦地派遣で現地の住民感情は最悪なため、やや離れた場所に仮設する事になった。


 佐竹二佐は上官の五十嵐一佐と共にこの神月町災害派遣自衛隊の指揮を任されている角谷陸将と対面していた。

 三者三様年齢は違えど厳格な雰囲気を持った大人達だ。


 佐竹二佐が持ち帰った情報を角谷陸将に聞かせる。


「報告は以上です」

 

「俄には信じられんが・・・・・・」


「ですがここで大規模な戦闘が起きたのは事実です。彼女は末端の人間らしいので彼女の言う事を全て鵜呑みにするわけには行きませんが我々が敵対している勢力は任務の傍ら一般人に対して虐殺を行う連中であり、それによる犠牲者も大勢出ています」


 佐竹二佐は角谷陸将にそう返した。  


「そうか――で、ドーマ人達の捕虜は?」


「それは自分が説明します」


 ここで説明を五十嵐一佐から説明を引き継いだ。


「市内を探索していますが今の所極僅かながら数名発見した所で、我々と人型の姿をしており、既に翻訳機で日本語を話せるようになっていました」


「そうなのか・・・・・・で、極僅かと言うのはどう言う事だ? 異星人の兵器なのだろうからパイロットの脱出装置も地球の戦闘機とは桁違いに性能が良いと思うのだが」


「それなのですが、発見されたドーマ人の赤い人型機動兵器、佐竹二佐の報告によればアームド・セイバー、ジェムの破損状況が激しくて恐らく脱出出来ずに死亡した物と思われます」


「海上に不時着したドーマ人の艦は?」


「今は海上自衛隊と航空自衛隊が監視しています。上の方々はどう扱って良いのか分からないのでしょう」


「まだ永田町の連中は平和的解決が出来ると思っているのか」


 昨日、この神月町の現実を目の当たりし、佐竹二佐以外に も移民船でのブリッジでのユーイチの悲痛な叫びが届いていたせいか、どうしても平静に務めようととしても怒りが湧いてくる。

 

 特にICレコーダーに記録されていたユーイチの叫びは妄信的に平和を叫ぶ市民団体の嘆きではなく、自衛官の存在意義を強く問う内容だった。

 この土地に来て糾弾された自衛隊も少なからず感じているだろう。

 

「で? 彼達――セイン人の移民船の機動兵器で戦った少年少女達をどうするおつもりですか?」

 

 緊張した面持ちで佐竹二佐は陸将に尋ねる。


「それに関してだが・・・・・・混乱の最中に今の与党が出したは命令は災害救助活動や現地調査、そしてドーマ人とその兵器の確保で捕らえたドーマ人は可能な限り人道的に扱う事、またドーマ人が攻めて来ても決して交戦せずに住民に被害が出ないように対応しろと言う物だ」


 その言葉に二人は絶句した。

 

 暫くの沈黙の後、佐竹二佐は口を開いた。


「災害救助活動や現地調査は分かります。ドーマ人の人道的配慮や兵器の確保も自衛官の定めとして受け容れられます。ですが――ドーマ人がまたここに来た場合、それでは住民だけで無く我々自衛隊にも被害が及びます!」


「分かってくれ、命令だ――それにこれでもマシな方だ。今はマスコミが出入りを始めていて好き勝手に我々を悪者扱いして報道してくれているおかげで何とかなっているが、最悪あのペガスを実力行使で占拠し、ペガス人の全員をドーマ人に差し出すどころか一緒に戦った少年少女達まで差し出す準備をするように命令しかねん」

 

 この無茶苦茶な命令に流石の二人も怒りを堪えながら口を発した。

 目の前の陸将も被害者なのだから。


 しかも話を聞く限り、自分達(正確には政治家だが)の無能さが彼達を守っているのは何とも皮肉な状況なのだろう。


「上の命令には従います・・・・・・従いますがこれではあまりにも・・・・・・」


「これではあの少年が我々に失望するのも当然だな・・・・・・」


 五十嵐一佐は怒りを堪えながら吐き出し、そして佐竹二佐はユーイチの事を思い出していた。

 


 一方その頃ドーマ艦隊はと言うと・・・・・・


『成る程、狙いは悪くないな――』


 ケントニスは先遣派遣艦隊旗艦の司令シュテルケが提出した作戦プランを眺めていた。


「はい。我々の優先目標はあくまであの移民船です。ですが最大の危惧はセイン人があの移民船の力を分け与えて地球人達が力を付け、我々に牙を向くことです。ですが無理に攻めようと思えば流石の腰抜けでも刃向かってくるでしょう。多少遠回りになりますが日本と言う国の弱点を突くのです」


『ほぉ、成長したな・・・・・・』 


 素直にシュテルケが提出した作戦プランを褒め称えた。


「ですがこの作戦の問題点は一つあります。我が軍の兵士は――」


『言わずとも良い――我が軍の大半は飢えたウォード(ドーマにおける狼の様な生物)達だからな――』


 ドーマ人は良くも悪くも覇権主義国家である。

 末端に行けば行くほど兵士としての規律は低いと言って良く、戦地に放り込めば間違いなく虐殺行為を行うと言って良い。

 これから行おうとしている作戦には不向きだった。


『だが少しプランを修正してやればあるいは行けるかもしれん』


「どう言う事ですか?」


『なに、君が最初に立案した作戦の通りだ。我々の所業の罪を相手に擦り付ければいい』


 そうして再びドーマはペガスを手に入れるために動き出す。

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