第15話「戦いの幕引き」



「さあどうする地球人――選択肢は少ないぞ――」


 ケントニスは月に建造した長距離狙撃用のマスドライバーキャノンを旗艦のモニター越しに見詰めた。

 周辺には艦隊やアームド・セイバーが護衛のために展開している。


 大きさも長大であり、前線基地を建設する傍ら迎撃システムの一つ、そして「地球を平和的に侵略する」シンボルとして建造していた。


 サイズも全長一キロメートルを超えている。


 マスドライバーキャノンとは一種のリニアモーターカーやレールガンなどの技術を応用した技術で主にSF作品などでは地球から宇宙へ物や船を打ち上げるために使用したりするのが主な活用法である。


 だが兵器転用した作品もあり、その場合は恐ろしい戦略兵器として機能する。


 ちなみにケントニスはビーム砲台も考えたがビームは大気圏内の影響を受け易く、調整に手間取るので規定期間内に製造出来ないと判断して今の形に収まった。


 それに惑星セインから慌てて追撃して来たために他の戦略兵器を開発するには資材が不足しているのと前線基地の建造を放り出して作業を切り替えたせいでもある。

 

 またアームド・セイバーを発進させるためのカタパルトにも使われている技術であり、建造も楽だったと言うのも理由の一つである。

  

 一発目は遊軍の巻き添えを避けるためと、地球人に恐怖を植え付けるため、そしてペガス人の善良な心に付け込んで降伏を促すためにやった行為だ。


 万が一地球に派遣した艦隊を打ち破って此処に来ても消耗した戦力を月にいる大兵力で相手すればいいだけの事。

 もしくは「このマスドライバーキャノンで都市一つを吹き飛ばす」と脅迫すればいいだけの事だ。


 それだけでも効果はある。

 そこらの町ならともかく、下手に地球の各大都市を攻撃すれば統治政策に支障が出かねない。

 特にセイン人や地球人がいるあの船は死に物狂いで徹底抗戦してくるだろう。


(しかしディーナの力もあるだろうが地球人の入れ知恵だろうか・・・・・・想像以上に被害が出ているな・・・・・・)


 その点ではケントニスは敵を賞賛していた。 

 同時にマスドライバーでの地球の大都市への直接攻撃を思い止まらせた原因である。

 相手を下手に追い詰めれば、例え消耗した状態でも此方は大損害を負うだろう。


 それにドーマ軍は全般的に一旦劣勢に回ると立て直すのに時間が掛かると言う弱点が存在する。特に当初は勝ち戦を想定していた将兵達はそうなると有象無象の集団になる。


 それをケントニスは恐れた。

 

「エーゲル殿から緊急回線が来ています」 


「なに? 開け?」


 何かが起きたのだろうかと思い、開戦を開く。

 モニターに慌てふためいているエーゲルの顔が映し出されていた。


『ケントニス司令! 敵艦の主砲がそちらに向けられています!』


「何だと?」


『現在発射阻止のために全力を尽くしていますが敵の防御を突破出来ず被害が甚大――また私の艦に攻撃を集中させて来てこのままでは長くは――』


 エーゲルは乱れながらもその映像とそして観測されたエネルギーのデーターを寄越して来た。

 次々と味方のアームド・セイバーらしき爆発と地球人が産み出したらしい人型機同兵器の姿も見える。

 少数ながらも一機たりとも敵を寄せ付けない。

 他所の星のために戦うセイン人もいるだろう。

 そして自分の星を守るためにセイン人に手を貸している地球人のあの少年もいるだろう。


 何と言う戦い振りだ。

 惑星セインの時とは大違いだ。

 自軍に甚大な被害が出ているにも関わらず、それは何とも魅力的な光景だった。


「我が艦隊は前線基地を放棄! マスドライバーキャノン周辺のアームド・セイバーや艦はできうるかぎり離れる事を考えろ! 地球派遣艦隊は敵主砲発射の阻止を行え! 奴達はマスドライバーキャノンを狙撃するつもりだ! 急げ!」


 有無を言わさずケントニスは命令を下す。

   


 そしてエーゲルはと言うと――


「艦にダメージ増大!!」


「敵此方に攻撃を集中しています!!」


「我が艦の守りに入った駆逐艦、戦艦が次々と撃沈!!」

 

 艦のブリッジには悲鳴に近い声で被害報告が舞い込んでくる。


「何としても敵に主砲を撃たせるな!」


「ダメです! 先の艦隊戦で此方の駆逐艦、戦艦は被害甚大! アームド・セイバー隊も敵艦に近寄れません!!」


「やむをえん・・・・・・我が艦を突っ込ませろ! 総員退艦!」


 エーゲルは最後の勝負に打って出た。

 ドーマは敵には容赦しないが結果を出せない味方にも容赦しない。

 その辺りエーゲルはよく知っていた。

 だから彼は名誉の戦死を遂げる事を選んだ。



 秋月 怜治。

 バクファイガーは敵を蹴散らしていく。

 敵を倒したと言う高揚感は無い。


 ただただ守りたい物を守る事で頭が必死だった。

 戦艦もアームド・セイバーも、もうどれだけ倒したか数えてない。

 それだけ敵の数は膨大だった。

 

 現在、ペガスは主砲を発射するために艦の機能がダウンしている。

 その隙を突いて敵が殺到し続けている状態だ。

 

(それにしてもユーイチの奴、まさか月からの狙撃を艦の主砲で狙撃って無茶苦茶だなおい・・・・・・)


 何ともまあそんな作戦をよく即決した物だと内心呆れてしまう。

 ユーイチはやっぱり変わったなと思った。

 同時にリミルもかなりの勝負師な所があるんだなと意外に感じた。元々彼女の本職はパイロットだ。惑星セインからアームド・セイバーに乗って艦を守りながら多勢に無勢の絶望的な戦いを続けて来ただけの事はある。


『おい、敵艦が突っ込んで来るぞ!』

 

 万城に言われて気が付いた。


「あの巨艦か!!」


 二回目の戦いの時に見せたあの巨艦だ。

 多数の砲台にカタパルトデッキを付けた600m級、ストレーグ級と呼ばれる敵の旗艦クラスだ。サイズも移民船のペガスの半分近くある。

 彼方此方から小爆発を起こし、煙を噴き出しながら残った砲塔から艦砲射撃を行いつつ特攻してくる。


『セイン人・・・・・・そして地球人よ! 諸君達はよく戦った! だが我々にも、例えドーマが極悪非道と言われようとも意地があるのだよ!』


 全周波数でそう叫びながら尚も敵艦は特攻してくる。


『手が空いてる全機は特攻してくる艦を攻撃して下さい! 主砲の発射準備やエネルギーの微調整で此方は動けません!』


 リミルの指示が飛ぶ。

 「了解」と返して怜治が向かう。

 

「スカルガー!? 万城か!?」

 

 そして隣には万城のスカルガーがいた。

 「よう」と返した。


『やってやろうぜ!! 二大スーパーロボットの底力をな!』


「ああ!!」


 両者は腕を突き出した。

 鉄拳が飛ぶ。

 迫りつつある敵の旗艦をぶち抜く。

 大爆発が起きたがそれでも落ちない。


 更にバクファイガーは額からファイガービーム。

 スカルガーは頭部のツインアイからビームを放つ。

 直撃して更に爆発。

 

 まだ撃沈しないがそれでも艦の勢いは着実に落ちてきている。


 続いてバクファイガー頭部のアンテナ、スカルガーは角から電撃を放つ。

 敵の旗艦の各所の爆発の勢いが止まらない。

 効いている。


『まだだ!! まだ沈むワケには――』


 それでもエーゲルの意地が働いているのか、辛そうな声で必死に自分を鼓舞する。

 確かに相手は敵だ。

 憎い敵。

 町を焼き払った敵の一人である。

 

『「・・・・・・」』


 だが怜治と万城の二人には何故だか奇妙な感覚が、相手を尊敬する精神のような物が宿っていた。

 しかしこのまま見過ごすわけには行かない。

 今も尚、敵はペガスに特効を仕掛けようとしている。


『・・・・・・トドメだ』

  

「あ、ああ!!」 


 バクファイガーは目を覆うゴーグル。

 スカルガーは胴体を形成する白いドクロの口に赤いエネルギーが集束する。 

 

「ファイガーブラスト!!」


『スカルファイヤー!!』


 バクファイガーの極太のエネルギー光線が。

 スカルガーの超高温火炎弾「スカルファイヤー」が放たれる。

 二つの別種のエネルギーが叩き込まれ、とんでもない規模の大爆発が起きる。

  

 敵の旗艦は跡形も無く消滅した。

 

 同時に両者の機体もエネルギーの使い過ぎで一時的に機能がダウンした。


 そんな中で二人は思った。

 ここまでする必要は本当にあったのか?

 自分達が戦っているドーマ人とは何なのだろうか?


 そんな疑問が湧き上がった。


『発射準備完了! 射線上にいる味方は退避して下さい!』


 そしてペガスの艦首(艦の先端部分)に搭載された主砲が解き放たれようとしていた。

  

『主砲発射!』


 そしてペガスから主砲が放たれた。

 前人未踏の38万kmを超える超長距離狙撃。

 主砲は敵のマスドライバーキャノンだけで無く、敵の前線基地さえも破壊した。

 碌に試射もしていないのにこの成果は大快挙である。


「敵が退いていく――」


『終わったのか?』


 敵は引いていった。

 先程までの激戦が嘘の様だ。


 戦闘宙域には戦艦やアームド・セイバーの残骸が大量に転がっている。

 一体どれだけの人数が死んだだろう。

 此方は奇跡的にも一人も欠けてない。


 結果だけを見れば一方的な殺戮にも見える。


 だがヘタをすればドーマの大量虐殺を許す結果となっていた。


 つまり終わったのだ。

 この地球の命運を賭けた戦いは。


「こう言う時、捕虜とかはどうするんだ?」


『さあな――リミルの嬢ちゃんの采配だろう』


  

 戦後処理は大変だった。

 捕虜や宙域に残っていた敵の救出などをし、日本政府などと交渉して受け入れ先を提供するなど政治的なやり取りを行ったりもした。


 捕まったドーマ人を収容所扱いにしているドーマ艦に引き渡したりなどの工夫なども行い、出来うる限りペガスには居れない工夫をしていた。

 これはユーイチの采配でセイン人がドーマ人に対して私的な虐待、暴行を行うのを阻止する為だ。


 また――リミルと敵の総司令官であるケントニスとの会話が想像以上に効果があり、世界各国や国内から猛バッシングで市民のデモに更に火に油を注ぐ結果となり、左田内閣はこの三度目の失態で国内外からもうバッシングを受け、内閣総辞職する事になる。

 

 その傍ら臨時政府――防衛省などの人間から特例として神月町の降下許可を許された。

 態々どうして神月町なのかと言うとリミルが拘ったからだ。


 ただし今度は学校から離れて着陸するように念を押されたが。


 月に居たドーマ艦隊は地球に派遣された残存艦隊と合流した後、再度仕掛けてくる様子は無く、そのままワープして地球圏から立ち去った。

 これはユーイチの見解になるが恐らく戦略兵器を破壊されると同時に此方側の戦略兵器を見せつけられて戦闘を維持する士気が無くなったと推測している。


 あくまで推測であるが怜治は強ち間違いではないと想った。


 余談になるがペガスの主砲はフルチャージで撃てば月を破壊できるには十分の威力があるため、核兵器同列の扱いにすると述べた。次々と敵の戦艦を轟沈させた複数の三連砲塔と良い、主砲の威力といいモデルは宇宙戦艦の方のヤマトだろうか。


 結局帰って来た頃には夜になり、そして神月町、自衛隊、マスコミ、駆け付けて来た県外からの住民――中には反戦を掲げる市民団体とか余計な連中が混じっていたが多くの人間に迎えられつつ神月町に降下した。

 

 これは束の間の平和なのかも知れない。


 しかし今だけはその平和を楽しもうとペガスにいる皆は思った。

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