第14話「衛星軌道上での戦い」


 昼間になり、宇宙船はゆっくりと徐々に飛び上がる。

 ヘリみたいに暴風が吹き荒れることはない。

 

 神月町にいた角谷陸将、五十嵐一佐、佐竹二佐などの自衛官は敬礼。

 そして町の救世主である神月町の住民からは大手を振って送り出された。


 マスコミやマスコミのヘリもその様子を一生懸命テレビに流していた。

 世界各国も固唾を呑んで、様々な想いでその様子を眺める。


 どんな結果になるにしろ、地球の歴史は大きく動くのだから。



 宇宙空間にまで上がり、そして進路を東京上空を守るようにしてドーマの艦隊に立ち塞がり、新造した武器を向ける。


 ペガスの前方には五百隻の艦隊。

 駆逐艦が他の戦艦を守るように前面に出て、更にその前方を五桁に届くアームド・セイバーの姿があった。  

 

 両者の距離は離れているが両者の技術水準からすれば超近距離での殴り合いになる状態だ。


「君のような可愛らしいお嬢さんがこの船を任されていたとは、余程セインは人手不足だったと見える」


 と、敵の司令官であるケントニスがモニター越しにリミルに問い掛ける。

 リミルは当然不満そうだった。


『お黙りなさいケントニス。これから私達をどうするつもりですか!?』


「このまま君の船を我が母星へと連れて行く」


『地球人は、日本人はどうするつもりですか!?』


「ほう、この僅かな短時間のウチに情でも移ったかね?」


『例え何であろうと命の恩人です! 心配するのが何が行けないんですか?』


「ふふふ、高潔なセイン人らしい物の考え方だ」


『で、どうするつもりですか!? 奴隷にするか? それとも私の母星のように焼き払いますか!?』


「それはこれから決める事だ」


『見え透いた嘘を――既に決めているのでしょうに』


「鋭いな君は――正直私は地球などと言う辺境の地域国家の集まりなどどうでも良いのだがな。だが私は君の艦に積まれたディーナを最大限に活かせる地球人が欲しいと思っている」


『なんですって?』


「本来の所持者である君達ならよく分かる筈だ。ディーナは地球人の手に掛かればセイン人とは比べ物にならない程に強力な兵器を産み出せる。その理由が何なのか、地球に来て日が浅い我々には分からんがな――」


『貴方も気付いていたのですね・・・・・・』


「少し考えれば分かる事だ。もしも惑星セインでアレ程の戦闘力を持ったマシンとその乗り手がいたら敗北していたのは我々だっただろう――」


 その言葉に嘘偽りは無かった。

 もしもアレほどの戦闘力を持った軍勢が惑星セインに現れていたら、間違いなく自分達が敗北しただけでなく、恒星間国家としてのドーマの存続の危機になっていただろう。


「心優しい君達の事だ。どうせ自分達の技術を地球人に何らかの手で流しているだろう」


『そ、そんな言い掛かりはよして下さい! 大体その事をどうやって証明する気何ですか!?』


 突然の論理の飛躍にリミルは困惑した。


「ふん、君達に一人一人直接尋ねると言うのは些か効率が悪いな。それに君達で無くても日本は既に我々のアームド・セイバーを既に回収、解析し、やがては牙を向くやもしれん。それに我が同胞が蛮族の手に落ちている。交渉の前に少し痛い目を見て貰うつもりだ」


『最初からそのつもりだったんですか!?』


「君達がいけないのだよ。この惑星に逃げ込まなければ彼達は痛い目に見ずに済んだ。もっとも辺境の銀河とは言え、ここが我々の生存に適した星である以上はどの道滅びの末路を辿って貰うつもりだ」

 

 つまり、どっち道この星を攻撃するつもりなのだ。


『あなたたちはどこまで卑劣なんですか! 結局日本を焼け野原にするつもりなんですか!』


「私がやらなくても何れ我々の同胞の誰かがやる。それに我が軍は破壊と殺戮を好む連中が多くてな。日本が火の海に包まれるのも早いか遅いかだけだ」


『なら私達は徹底抗戦します!!』


「ほう、この状況下で日本を救うためにか? よろしい好きなだけ付き合ってや『意外とお喋りで助かったよ』なに?」


 突然艦のモニターに黒髪の地球人の少年、怜治が現れた。

 当然ケントニスは誰だか分からなかった。


「貴様は誰だ?」


『セイン人に手を貸してる気まぐれな地球人さ。それよりもアンタらの会話は地球でも必死に傍受されてるだろうし、念の為こっちからもネット上に拡散して置いた』


「まさか・・・・・・」


『分からないのか? 日本人だけじゃない、地球人はお前達を大手を振ってぶっ潰せるって事だよ!』


 ケントニスは不適に笑みを浮かべる。

 まさかこの様な策を用いるとは。

 ただセイン人と一緒に戦う為の大義名分を得るために。

 楽な戦争が続いて自分も少々気が緩んでいたらしい。


「その選択を後悔するぞ? 我々に飼われて生き延びると言う選択肢もあっただろうに――全艦、機動兵器部隊攻撃開始させろ。」


 そして攻撃命令を発令させた。

 モニターに地球にいる攻撃部隊の総司令官であるエーゲルが映し出される。


「エーゲル君。君の作戦を台無しにして済まない」


『いえ、汚名を晴らす良い機会です。それに見せしめにあの移民船を叩き潰して再度交渉に持ち込むと言う手もあります――』


「だがそれも勝った後の話だ。月から勝利を祈らせて貰う」


『ハッ! 必ずやご期待に沿えて見せます!』


 エーゲルは力強く敬礼した。


 こうして地球人類史初めての宇宙戦が始まった。



『あの移民船、以前とは戦闘力が段違いだ!』


『此方地球攻撃隊! 敵に阻まれて降下出来ない!』


『駆逐艦、被害拡大! 敵艦の砲撃強大なり!』


 アームド・セイバーや艦隊の前線にいた駆逐艦が次々と撃破されていく。

 ペガスに搭載された三連装砲門二門、迎撃レーザー、ミサイルなどが火を噴く。

 元々移民船とは思えない程の大火力で次々と流れ作業で敵艦を沈めていく。

 特に三連装砲の威力は某宇宙戦艦を連想させる程の破壊力で駆逐艦を貫通して戦艦を大破させる程だった。 


 これにはぶっ放したセイン人もビックリする程だった。

 損傷した艦や敵の中には地球の引力に引かれて大気圏で燃え尽きる姿を晒す、哀れな敵もいた。


 マコットのベアルファイター改も負けてはいない。


『セインのオンボロの宇宙戦闘機ごときが!!』


「僕達のために頑張ってくれたユーイチの分まで頑張るダ!」


 ベアルファイターとドーマのアームド・セイバージェムは性能差は歴然であり、余程大多数のベアルファイターから集中砲火を受けない限りは撃破されない――筈だった。

 

 マコットの機体を含まれたベアルファイターが編隊飛行しながらアームド・セイバーの部隊に近付き――


『撃てぇ!!』


「了解ダ!!」


 機体に取り付けられた機銃を一斉射する。

 

『なっ――』


『えっ?』

 

 攻撃を受けたアームド・セイバーの装甲が紙屑の様に撃ち抜かれて次々と爆発四散していく。

 人型機同兵器の利点を活かしてスグに反転し、追撃しようにも早過ぎて付いて行けない。


『未開の蛮族の玩具如きになんで!?』


『クソッ!! 追いつけない!?』


『やめんか!! 機体が保たんぞ!!』


『ですが・・・・・・うわぁああああああああああ!!』


『一体何が――ああああああああ!!』


 機体に無理させてまで追い掛けようとしたアームド・セイバーまで現れたが機体の構造限界を超えた付加が掛かって爆発する機体まで現れた。

 

 視点変わってセイン人とドーマ人のアームドセイバー同士の戦い。

 改造されたリリィを中心として付け焼き刃ながらフォーメーションを組み、ユーイチの手で改修されたフラウが艦隊の防空支援を受けながら次々と撃墜していく。


 改修されたフラウにはバズーカやショットガンなど、これまで見られなかった武装を保持している機体まである。

  

(地球人が改修したリリィもフラウも凄いね・・・・・・)


 アンシェル・バームは流れ作業で敵を落としながらもこの状況が夢では無いかと思った。

 多勢に無勢で本来ならとっくに撃墜されてもおかしくはないにも関わらずだ。

 それがどうだ。

 次々と敵を叩き落として言っているではないか。


(特にこの機体、凄いとしか言いようがない――)


 特に自分が使っている機体は豊富な搭載火器により、遠距離戦~中距離戦まで出来る上に近距離戦も出来る。

 キャノン砲も強いが意外と頭部のバルカン砲や胸部のマシンキャノンなどが使いやすい。

 それでいて近接特化だったリリィの特徴を引き継いでいる。

 凄い機体だと思った。


 アンシェルの部隊達は現在、バルカン砲や胸部のマシンキャノンで敵を攻撃し、それで動きを止めた後にトドメを刺すと言うパターンを編み出して敵を倒していた。


『大火力で圧倒する!! 危なくなったら私の後ろに下がって!』


 更に近くにはペガスの盾となるためにレイカのエクスベリオンをモデルにしたロボット「ツヴァイザー」(名前が無いと不便なのでレイカが命名した)が六画形状のバリアを張りつつ、次々と手に持った大口径の火器――レールガン、ビームバズーカで敵戦艦を近くに居る奴から片っ端に狙い撃ちにしている。

 

 それは万城のスカルガー、怜治のバクファイガーも同じだ。

 

 この戦法により、ドーマの艦隊は瞬く間に数を減らしていき、士気が下がっていく。


『おらおら!! 根性ある奴から掛かってこいや!!』


 万城のスカルガーはペガスの左舷(船の左側)後方部分に潜り込もうとする敵を叩き落としていく。と言ってもペガスの対空砲火を潜り抜けるために隊列が崩された所を狙われているために見た事もない驚愕の強力武装が飛んで来る。


『敵の数は多いけど、やれない数じゃない!!』


 反対側にいるバクファイガーも敵のアームド・セイバーを大火力で蹴散らしながら隙あらば戦艦を狙っていく。

 どうも敵は散開して包囲殲滅、また地球に降下して此方の動揺を誘うおうと言う動きがあるために中々油断できない。


『僕も頑張らないと!』


 ペガス上面武ではハジメが頑張っていた。

 ハジメの機体「ノヴァ」はリリィの改修型のようにキャノン砲と

機動性を増加する黒色のウイングパーツを搭載していた。

 また両肩に急速旋回用のサイドブースターを搭載。

 右腕には実体弾のマシンガンを保持し、アストロシューターの物よりも火力が増強されている。

 左腕にはシールドを搭載。

 両腰のウェポンラックにはビームサーベル。

 背中のパーツ以外はこれと言って目立った部分は無いが、ノヴァは次世代のアームド・セイバーとして開発、設計がなされた機体であり、随所に地球のサブカル知識をぶっ込んでいる。

 

 フレーム構造による整備の簡略化、装甲素材やコクピット周りの操縦システムの新調、特に操縦者の精神を読み取って読み取るセンサーの試験的な試みも搭載されていた。

 

 またアームド・セイバーなのでアームド・セイバーの基本である大気圏離脱、突入、大気圏内の飛行、慣性制御推進、全身に張り巡らされたバリア、半永久機関なども搭載済みである。

 

 初めての宇宙戦の為に最初は動きがぎこちなかったが、時間が経つに連れてハジメが操るノヴァはドンドン動きが良くなっていった。 


「想像以上に事が上手く運んでるな・・・・・・」


 それをユーイチはペガスの格納庫からモニターで眺めていた。

 ユーイチは出撃拒否したわけではなく、ただ単に頑張りすぎでドクターストップが掛かったのだ。


 ユーイチが創造したファイアダイバーはセイン人の女性パイロットが持って行った。

 アストロ・シューターがクセが強い機体な上に操縦感覚もクセが強いので放置されている。


 正直戦況は圧倒的に優位だ。

 だが気になる事があった。

 

「どうかしたかビ?」


 その不安が顔に出て来いたのか、ウサギのマスコットの様な愛らしい二頭身ぐらいの外見の作業班に所属しているバニィ人の「キャル」が尋ねて来た。


「いや、月に居る連中がキナ臭くてな」


「でも月と地球は離れてるビよ?」


 ハハッと苦笑してユーイチはため息を吐いた。

 マコットもそうだったがどうも人間型以外の異種族は考えが足らないと言うか考えが単純と言うかそう言う部分があるようだ。

 

 確かにキャルの言う事は正しい。

 地球と月はおよそ「38万4400km」の距離である。

 地球の一周は約4万kmで、月に辿り着くには地球を九周半近くしなければならない距離である。


「だけど相手の宇宙船の速度ならスグに増援に駆け付けて来ても良いかも知れない――」


 そして人類は一度月に辿り着いているのが有名であるがそれは1969年、半世紀近く前の事であり、その当時の科学技術で地球から月に辿り着くには三日半後の期間を要したと言われている。(月面着陸は四日目である)


 何を言いたいかと言うと宇宙を旅する宇宙の船なら三日半どころか、その気になれば亜光速(光の速さに近い速さ。ちなみに光の速さは30万キロメートル毎秒で一瞬で地球を約7周半する速さで亜光速はこれに限り無く近い速さと定義付けられている)出して数分で駆け付けて来てもおかしくないのだ。


 現に十隻以上だった艦隊が一日も経たずに月から駆け付けて五百隻の大艦隊になったのだ。

 杞憂には出来なかった。  


「それに」


「それに?」


「相手の指揮官もバカじゃない――このままだとペガスを手に入れる前に大損害を被るのはもう分かってる筈だ――なのに増援を寄越してこない――」


 相手は二度も負けている。

 このまま大戦力を投入しておいて黙って三度も負けるとは考えられない。

 敵の狙いが分からなかった。

 

『そ、総員耐ショック姿勢! 月から巨大な熱源が接近! 回避運動!』


 ペガスの艦の艦長であるリミルから悲鳴に近い叫び声が聞こえた。

 慌ててユーイチは連絡用のモニターに向かい、ブリッジに繋げる。


「リミル、何が起きた!?」


『分かりません! 突然月の方向から何かが飛んできて――どうにか地球への着弾は間逃れましたが・・・・・・』


 そこまで聞いて敵の狙いが理解出来た。

 自分も言っていたではないか。

 もし自分がドーマ軍ならどうするかと。


「やられた!! それは敵の狙撃だ!」


『そ、狙撃!?』


「俺達が戦っている五百隻の敵は陽動だったんだ! どんな物かは分からないが、月に砲台か、砲撃特化の戦艦がある筈だ!」

 

 してやられたと思った。

 

「怜治達は戦闘で手一杯の筈だ。現在の状況を報告してくれ! 特に今戦っている敵の数を!」


『わ、分かりました! 敵艦隊、アームドセイバーは半分以上を既に撃破してます! 何か良い考えがあるんですか!?』


「最悪、月がバラバラになるが地球人類が終わるよりかはマシだ! あの兵器の封印を解く!」


 ユーイチはペガスに搭載した主砲の封印を解く事を決意した。

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