第12話「戦闘準備」
ユーイチはブリーフィングルームに主立った面々を集めて解説を始めた。
すっかり参謀役が板に付いている。
ブリーフィングルームには座席が大量に置かれ、その一つ一つに怜治達やセイン人達が座り、その眼前には教室の黒板のように横長のモニターが置かれ、そこに様々なデーターが表示されていてユーイチはそのモニターの前に立って作戦の説明を行っていた。
「今回の作戦は正直あってないような物だ。正直ドーマと戦う為の大義名分を得るための賭けの要素が強い。これから行う作戦会議は賭けに勝った後、奴達に勝つための物だ」
そう言って衛星軌道上にいるドーマ艦隊がモニターに映し出される。
「様々な種類を含めて五百隻。月にはまだ千五百隻ほどが控えている」
「そんだけいたのかよ・・・・・・」
万城の言葉は皆の気持ちを代弁していた。
「相手は恒星間国家だからな。これでもまだ少ない方かも知れん。東京の真上にいる敵のアームド・セイバーの数も前回とは桁違いだ。少なく見積もっても五桁以上いるだろう。最悪六桁近くいるかもしれん」
と、ユーイチが補足する。
「五、五桁ですか!?」
ハジメはその数にビックリした様子だった。
レイカは口に出して計算を始める。
「前回の戦闘に出て来た大型戦艦一隻に護衛の艦四隻、戦闘特化の艦が七隻で全十隻、それでアームド・セイバーの数は百体以上だったから軽く五桁近くいても不思議じゃ無いわね」
ザワザワと騒ぎ始める。
ユーイチはその説明に再び補足を付ける。
「全てがアームド・セイバー運用母艦じゃない。戦闘特化型の駆逐艦や各種物資を積んだ補給艦も含めての五百隻だ。それにアイツらも地球に観光しに来たわけじゃないんだ。あいつらはペガスのワープを追ってそのまま地球にやって来た。補給物資も十分じゃ無い。その補給物資が尽きる前に勝負を仕掛ける筈だ。逆にそれが奴達の弱点でもある」
その一言に皆ハッとなった。
「じゃあ全部倒す必要は無いんだ」
怜治はユーイチの言わんとしている理解して声に出す。
「ああ、一先ずそれが出来たら地球から一時的に撃退は可能だ」
「うん? 一時的?」
「惑星セインの戦争に至るまでの経緯を聞く限り、必ず報復に来る。後手後手に回ったらもうジリ貧だ。太陽系の惑星から巨大な隕石を牽引して大量に落下させたり、遠い場所からミサイルを乱射されたり、砲台を建造されで惑星を狙い撃ちされでもしたら厄介だ」
皆ゾーとなった。
部屋の気温が一時的に下がった気がする。
特にセイン人の皆はユーイチの思考回路にドン引きしていた。
もしもドーマにユーイチがいたら間違いなく手も足も出ずにセインは滅ぼされていたんじゃないかと予感した。
もっともユーイチぐらいの考えに思い当たる地球人は大勢いるだろうが・・・・・・その辺り知らない方がセイン人は幸せかもしれない。
「わ、私達の戦争の時はそんな事無かったですけど・・・・・・」
と、リミルが言う。
「別にそんな事しなくても勝てたからしなかったんじゃないのかな?」
「そ、そうですか・・・・・・」
セインの為に戦った人間の誇りとかを全否定する容赦の無い言葉だがユーイチは気付いているのか気付いていないのか話を進める。
「まずこの移民船に武装を搭載する」
「武装ですか?」
リミルが疑問をぶつける。
「そうだ。元々この船体もディーナが一から作り上げた物らしい。だからディーナを通してある程度武装を配置出来る」
「そんな事が可能だったんですか?」
リミルも初耳だったようだ。
「と言うよりもディーナはあえて伝えなかったんだ。ディーナには想像以上の恐ろしい能力があるみたいだからな」
「ユーイチ? 恐ろしい能力ってなんだ?」
皆を代表して怜治が尋ねる。
「俺達はディーナでロボットを作ったよな? その作られたロボットを全部詳細に調べてみたが、装甲素材や動力炉、そして未知のシステムなどが搭載されていたり――共通点が殆ど無かった。全てが同じ鉱物で製造されたとは思えないロボットだった。ほぼ全く別の技術体系で製造されたかのようだった」
「え、それってどう言う事?」
「本当なのそれ!?」
レイカが立ち上がった。
「ああ。本当だ」
「ちょっと待てレイカ、どう言う事だ?」
怜治は何を言っているのか分からず、レイカに尋ねた。
「正直とんでもない事よ。ドーマが必死になって狙うわけだわ。私達は使い方次第でただ強力な兵器を産み出せるマシンだと思っていた。エネルギーを物質化させるだけでもとんでもない事だけど問題なのはそこじゃないわ」
「何が問題なんだ? その気になれば核ミサイルとか作れるのはヤバイと思うけど」
「確かにそれもあるけど・・・・・・何て言って良いのかしら・・・・・」
答えに困っている所に助け船を出したのはハジメだった。
「つまりその気になれば何でも思い通りに、アニメや漫画、ゲームのロボットを完璧に再現出来ちゃうんです。劇中のスペックをそのままの通りに。装甲素材から動力炉までもを・・・・・・」
「ハジメの言う通りだ。そしてそれこそが俺達が強力なロボットを産み出せた鍵になる」
「おいそれって本当かよ・・・・・・」
怜治を始めとしたユーイチを除く地球人組は何を言わんとしているのか理解してゾッとした。
セイン人達はただただ困惑していた。
「つ、つまりどう言う事なんですか?」
リミルは怜治に尋ねた。
「どう言う原理かは分からないが、ディーナは物語に出て来るロボットを完全に再現する事が出来るんだ。それこそ惑星一つを簡単に滅ぼせるロボットまでもな」
「そ、そうだったんですか?」
奇妙な事であるがセイン人ですら知らなかったようだ。
だがこれも無理もない話である。
以前も語ったがディーナを深く理解して強力な兵器を産み出していればそもそも地球にまで逃げて来なかったのである。
この反応は当然だろう。
「ああ、それには条件があってその架空のロボットの知識がある程度必要なんだ。そして俺達地球人はその条件を漫画やアニメ、ゲームの文化に触れて日常生活を過ごすウチにクリアしてしまっていたんだ。だから強力なロボットを作れたんだ」
「成る程・・・・・・つまりオタクであればある程、強力なロボットを作り出せると」
「怜治の意見はアレだがその認識で正しい。ディーナはその辺り漠然とだがリミッターを搭載しくれているのが幸いだが――それでも人類どころか全ての文明にとって過ぎた代物なのは変わりない。ドーマに悪用させるのは論外だ」
あんまりな真実に皆シーンとなった。
セイン人も想像以上にとんでも無い機能だったと言う事は理解したようだ。
それでも尚、ユーイチは口を開く。
「この戦い、どれぐらい続くかは分からない。だが生き残るためにも、この星を救うためにもディーナの力は必要不可欠だ。だが同時にディーナの力ばかりに甘えてはならないと俺は思う」
と締め括った。
「そうね。ユーイチの言う通り、ディーナを頼るのは危険だわ」
「ディーナの力が無ければ勝つ事は出来ないけど――確かに危険だよね」
「難しい話だが、言いたい事は良く分かったぜ・・・・・・」
エリカ、ハジメ、万城の三人は口々にそう結論に至った。
「さて、話を戻そう。ディーナをどう扱うにしろ、俺達は勝たねばならない。その前に重大な話がある」
「まだ何かあるのか?」
怜治は戦々恐々としながら尋ねた。
「この艦の代表者を決めて欲しい」
「だ、代表者ですか?」
意外な話の流れだが重要な事だった。
一応セイン人はリミルが中心となって纏め上げていた。
だが場の流れでそうなってるだけで正式に決まったわけではない。
「一応リミルさんがそうならそれで構わないが・・・・・・」
「わ、私で良いんでしょうか?」
リミルはセイン人を見渡す。
「私達を此処まで引っ張ってくれたのはリミルさんだから私は文句ないな」
「そうなのだ!」
「自分も賛成です」
と、概ね文句は無さそうだった。
「では私がやらせて頂きます。艦長も私が――」
「じゃあこの艦のアームド・セイバー隊の隊長は私ね」
「貴方は?」
金髪でお下げの白いレオタードスーツを着た明るい元気そうな可愛らしい少女だった。
「私はリミルと同期の軍人でアンシェル・バーム。役に立つと思うよ。リリィ(リミル専用のアームド・セイバー)使わせて貰うけどいいかな?」
「構いませんけど――」
「てな訳だから地球人の皆、よろしくね♪」
とても可愛らしい笑みを浮かべた。
「この艦のアームド・セイバーについても出来うる限り強化、改造を施すつもりだからそのつもりで」
「君達のロボットの実力は知ってるからアテにさせて貰うよ。それにドーマに一泡吹かせられるんなら私は構わない」
「善処しよう。細かい話は色々あるが取り合えず解散だ。追って知らせる」
☆
怜治達は艦内を進んでいた。
戦闘態勢の準備の指令が飛んでいるのだろう。
セイン人は皆慌ただしい。
ちなみにこの艦には現在怜治達以外の地球人は乗っていない。
警備システムもフル稼働していて、万が一日本政府から何らかの妨害工作が働いても対処出来るようになっている。
「しかしユーイチの奴、すっかりこの艦に馴染んでるな」
「ああ、それは俺も驚いた」
万城の言う通りすっかりもうこの艦に違和感なく溶け込んでる感がある。
怜治の知る限りユーイチはこんなキャラでは無かった筈なのだが。
「戦場を経験して覚醒したとしか言いようが無いわね」
「そうだな・・・・・・俺達も出来る限りの事はしよう」
そうして怜治達も戦いへと本格的に備えを始めた。
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