第7話「襲来・再び」


 先の襲撃から少しばかりの時間が経過した。

 避難作業も一段落した。


 怜治とユーイチの二人はペガスで避難した生徒達や艦の住民達と一緒に食事をしていた。

 移民船であるせいかまるで巨大なレストランの様な場所だった。

 

 ちなみにリミルによるとこう言う食事処などの同じ施設は艦内の至る所にあるようで食料の配給もある程度無人化している。


「セインの食事も結構いけるんだな?」


 怜治の言う通り、口にもあった。

 セイン人も人型異星人であるせいかある程度食器なども共通している。

 皆、おそるおそるだが徐々にセイン人と打ち解けている。

 リミル意外にもある程度の女性や男性のセイン人は居たようであり、年齢もバラバラだ。

 クマ型のベアル人や他の種族もいる。


「そうだな・・・・・」


 ユーイチもそう言いつつ飯を口に含む。


「怜治君こんな所にいたの!?」


「あ、先生――」


 まだ新任の女性先生がやって来た。

 名前は松坂 ヒロミ先生。


 怜治やユーイチ達のクラスの担任である

 メガネを掛けたショートカットの先生で胸が大きいのが特徴だ。

 リブ生地の上着にズボンを履いている。

 どうやらこの艦に乗り込んだ生徒達を追い掛けてここまで来たようだ。


「ユーイチ君もスグに帰るわよ」


「どうして? またあいつら来るかも知れないけど?」


「あいつらって」


 そうして警報が鳴り響いた。

 食堂内に動揺が広がる。


「また来たのか!!」


 愚痴る怜治。


「まあ正直遅すぎたぐらいだけどな!」


 ユーイチも格納庫へと走る。

 ヒロミ先生が何かを言っていたが無視した。



 バクファイガーとファイアダイバーで出撃する頃には既にレーダーにドーマの機体が確認出来た。


 とにかくとんでもない数だ。

 

 敵のアームド・セイバー、赤い一つ目の機体のジェムやその系列機だけでも百は超えている。

 更に後方には戦艦や揚陸艦、駆逐艦の姿もあった。


『この様子だと地球の衛星軌道にいた連中が全員降下して来たんだろうな』

 

 ユーイチの言う通りなのだろう。

 でなければこの物量は説明出来ない。


「なあ、勝てると思うか?」


『さあな! お前に賭ける! こんな事なら呑気に飯食ってないで新しく機体を新調しとくんだった!』


 と、嘆きが聞こえる。

 ユーイチの気持ちも分からんでもない。

 

「そう言えば自衛隊は何をしてるんだ?」


『来たところでアテになるかどうか微妙なんだけどな・・・・・・お、レーダーに反応。ドーマ達から反対方向だ』


 すると航空自衛隊の戦闘機が二機やって来た。


『此方航空自衛隊。両者とも即刻戦闘を停止し、日本政府からの会談を受け容れて欲しい。繰り返す。会談を受け容れて欲しい』


 二人はこれを聞いて「ハァ!?」となった。

 眼下に広がる廃墟が見えないのだろうか。

 それよりもここで数時間前に何が起きたのか知らされてないのだろうか?


『遅れてすいません――あの飛行機械は日本の軍隊・・・・・・ですよね? 何を言ってるんでしょうか?』

 

 遅れてリミルやセイン側の飛行円盤が来た。


 今回は他にも青いアームド・セイバー達が出撃している。惑星セインの主力機であるフラウと呼ばれている機体である。ツインアイ以外はジェムとデザイン上で共通点が多い機体だ。それもその筈で敵のアームド・セイバーであるジェムに対抗する為の急造機的な機体であり、性能もジェムには劣る。

 パイロットは前回機体が破損していたり負傷したりで出れなかったパイロットや志願者もいる。


「解説お願い、ユーイチ」


『はあ・・・・・・つまり戦うのが嫌だから交渉したいんだよ、ウチの国の連中は』


 ユーイチはため息を吐きながらリミルにそう告げた。


『二人の説明でよもやと思いましたが本気で実現できると思ってるんですか!?』


 ある程度日本の国内事情を二人から説明を受けていたが間近で見ると信じられないと言った感じだ。


『大方お偉方は平和的解決を祈って固唾を呑んで見守ってるんだろうさ!』


『祈ってて――どうして戦わないんですか!? 私達にも責任があるとは言え、ここまで街をメチャクチャにされてるのに!!』


「とにかくどうするユーイチ? 無視して攻撃するか!?」


『それも一つの選択肢かもしれんな・・・・・・強力な武器で出来る限り数を落としてくれ! それと敵の大将格の戦艦を優先的に叩け! 撤退に追い込むだけでもいい! もたもたしていたら敵の艦砲射撃でこの街は火の海どころか瓦礫も残らんぞ!!』


「わ、分かった」


 普段のユーイチから想像も出来ない有無を言わさない物言いに軽く引きながらも怜治は攻撃準備を行う為に武装を選択する。

 

『此方航空自衛隊、双方直ちに後退し――うわぁ!?』


 ドーマの光線兵器が戦闘機に集中する。

 百隊以上からの集中砲火だ。

 二機ともあっと言う間に爆発四散した。

 パイロットは生きてはいないだろう。

 

 だがこれで少しばかりの時間は稼げた。


『この分だと本当に平和的に解決するしか頭になかったらしいな。周辺に自衛隊の部隊は展開してない! 自分達だけでやるしかねえ!』


「分かった、出力最大――ファイガーブラスト!!」


 軽く絶望的な状況説明を受けながら怜治は全店周囲モニターのコクピットから武器を選択して操作して叫ぶ。

 バクファイガーの頭部から少しはみ出るぐらいの大きなゴーグル部分から極太のビームが飛び出る。半径だけで機体の上半身を包み込む程の大きさだ。

 それを左から右へ薙ぎ払う様にして頭部を動かす。

 

『何だ!?』


『一体どれだけの機体出力を――』


『回避しろ!!』


『この星の機動兵器か!?』


『ま、間に合わな――あああああああああああ!!』


 傍受した通信越しに敵の悲鳴が響き渡る。

 光の奔流が敵の機体を包み込む度に敵の機体が爆発四散した。

 ついでに敵の戦艦にも少なからずの被害が出ているようだ。


「エネルギーを使い過ぎた――幾ら永久機関でも回復まで時間が掛かるぞ!」


『いや、十分だ!! 俺達は避難民――特に病院や学校は必ず守り切れ! リミルは学校に立て籠もっている連中を宇宙船に避難させるように呼びかけろ! 学校にいるよりかは安全だ!』


『は、はい!』


 こうして戦いの火蓋は斬って落とされた。

 


 首相官邸では最悪の時代に呆然となっていた。


 自衛隊の隊員からは猛批判が来たが所詮は宮仕えの組織であり、無理矢理「和平交渉させる。敵から攻撃を受けても攻撃するな」と言うメチャクチャな任務を与えた。


 国外からの圧力もあったが、逆にそれを利用する事で政府は自衛隊にこのメチャクチャな任務を与える事が出来たのだ。

 

 だが結果は最悪な形だった。

 戦闘機も問答無用で撃墜され、以前よりも想像を絶する規模での戦闘が始まった。

 

 その様子はマスコミの手で、よりにもよって生中継でテレビに流されている。


 また、戦いに巻き込まれて撃墜された報道ヘリもあった。

 

 このままでは日本は宇宙人と地球との戦争を開いたキッカケを作った国家になりかねない・・・・・・と考えていた。


 実際既にもう戦争に突入しているのだがこの後に及んで国民よりも自分達の政治生命や本来の飼い主の機嫌取りの方が優先であった。

 

 左田総理を含めた首脳陣、それを支える官僚達はどうすれば「平和的かつ穏便に解決できるのか」頭を抱える。


 その傍らで自衛隊の手綱を握らせている四十代ぐらいの恰幅良さそうな女性議員、真澄(ますみ)防衛大臣はとにかく「武力を使わずに停戦して平和交渉しろ」と精神が異常をきたしたかのように喚き散らしていた。

 

 この場に踏み込んだ自衛隊を統括する人達は素人目でも分かるぐらいに怒りを堪えているのが分かる。

 眉間に皺を寄せ、目付きも射殺せん勢いで睨み付け、拳が血が出るぐらい握りしめ、体全体を振るわせている。

 

 この場でクーデターが起こしそうな勢いだが左田総理は無視して事態の経過を見守る。

 


 神月町での戦いは激しさを増していた。

 ペガスに避難した人々や元々のセインからの避難民は肩を寄せ合いながらも必死に恐怖に耐える。

 リミルの呼びかけで学校から次々と避難民が乗り込んで来ていた。

 生徒だけでなく、一般人――生徒の親族や教師、警察までも含まれていた。


 最初は「その船に乗ったら逆に狙われるんじゃ?」と思っていた人間が大半だったが学校近くでも戦いが始まったせいで逃げ込まざるおえなくなったと言うのが実情である。


 とにかくドーマ側は一般人と戦闘要員との区別も付いてないのかと言うぐらい攻撃対象がメチャクチャだ。破壊その物が軍事目的かと思えるぐらいである。

 再び街が火の海の中に沈んでいく。


「皆――戦ってるんだよね」


 そうした修羅場の中で犬宮 ハジメが呟いた。

 セイン人達に案内されて避難用の場所に閉じこもっている。

 外の様子はモニターである程度確認できた。

 傍目から見ても苦戦ししているようで皆不安そうな顔をしていた。 


「どうしたんだ急に?」

 

 同じく案内された早乙女 レイカも不安げに問い掛ける。


「僕も戦う」


「あんたバカ!? 遊びじゃないのよ!? 本気の殺し合いなのよ!? こう言う時のために税金払ってるんだから自衛隊に任せときゃいいのよ!?」

 

 レイカは正論を唱えるが――


「だけど、どうして自衛隊は来ないの!? もうとっくに災害救助活動とかで来ても言い頃なのに――ユーイチ君の言う通り、政府は戦争なんかしたくないんだよ。僕達の命なんか政府はどうでもいいんだ」   

 

「だからって戦わなきゃいけない理由は――大体こうなったのもセイン人がここに不時着したから」

 

 と、しどろもどろになりながらレイカは反論するが――


「セイン人も確かに悪いけど! けど、だからって全部の責任をセイン人に背負わせるのは間違ってるよ! 自分達の街がメチャクチャにされて戦う力があるのに黙って見ている自分達は何なの!?」


 強気にハジメは言葉を返した。

 

「でも――」


「レイカ、お前の負けだ。それにその坊主の言う通りだ」


 すると後ろから野性味溢れる三白眼の坊主頭の生徒が呼びかけた。

 同じく最初の頃から一緒にここまで避難して来た生徒の一人「東 万城(あずま ばんじょう)」だ。  


「確かにレイカ、お前の言う通りなんだろうさ。だがハジメの言う事も最もだ。腹は決まった。俺は行くぜ。ハジメ――お前も来るんだろうな!」


「うん!」


「よっしゃ、いい返事だ! んじゃあ行くか!」

 

 そして二人は駆け出した。

 ハァと呟いてレイカも後を追う。

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