*——茜の捜査記録——*
No.20「半蔵門の謎」
闇の中に薄っすらと見て取れるものが何なのか、茜にはすぐわかった。
それは、城の石垣に違いない。
茜は、古井戸の囲いに姿を隠しながら、注意深く辺りの状況を探った。もし、自分が現代の世にいまだ居るとしたなら、深夜といえどもネオンや電灯の明かりの一つや二つは視認できるはずである。しかし、三百六十度、ぐるりと視線を巡らせてもそれらしきものは発見できなかった。やはり自分は、「過去」の世界に戻ったに違いない。しかし、それがいつの時代なのかは、まだ知る手掛かりがない。
今、自分が纏っている衣服のままでは、きっと怪しまれ、ともすれば捕縛されることも考えられたので、茜はじっとそこを動くことなく探索に出る機会を伺っていた。
やがて空が白みだし、視界が開けてきた。
——やはり、あれは江戸城
今、茜が「江戸城」と視認したものが、現代の世の「皇居」であったとするなら、ビルや車の影があってもしかりだが、それらは何一つ見えない。見えるのは天守閣と石垣と、瑠璃色の空だけであった。
茜は、女人用の着物を何としても手に入れねばならないと考え、少しずつであるが、現在居る場所から移動していった。但し、すぐにでもそこに戻れるように、見えている石垣の形状と太陽の昇ってくる方向との位置関係を手帳に書き記しておいた。
距離にして、五百メートルほど移動したかもしれない地点で、急に目の前の視界が開けた。そこは、水堀の石垣の上で、その堀の向こうには木造の平屋の建造物が密集していた。
——間違いない、此処は、江戸城の半蔵門から入った城の中だ
茜は太い松の木に身を隠し、じっと様子を伺っていた。半蔵門の前では門番と役人が何人か行ったり来たりしている。
——やはり、此処は現代の世の「半蔵門」と繋がっていたんだ。ということは、先ほどあったあの古井戸が「現代」と「過去」を繋ぐ道になっているのか?
そんな憶測が浮かんだが、それを証明するには、あそこからもう一度「現代」に戻れることを確かめねばならない。
茜は、もう一度、あの古井戸のある場所に戻った。
そして、井戸の中がどうなっているのか確かめるべく、拳くらいの石を落としてみた。水が石に弾ける音が戻って来た。古井戸とはいえ、まだその井戸は生きていた。
その時、松林の向こうで女人の声がした。茜は古井戸の囲いに身を隠し様子を伺っていると、その女人は城で下働きをする女中の出で立ちであるのが見て取れた。二人して何やら話をしながら城の奥へと歩いていく。
茜は今しかないと、忍びの足使いで二人の背中に回りこみ、気づいた女中の腹に当身を食らわせ、意識を奪った。
二人の女中が纏っている着物を、ほぼ半分ずつ奪い取ることで、残された女中が肌を晒す恥辱のないよう気遣った。
しかし、髪型だけは何ともし難いので、女中から手拭いを奪い、それで隠すように頭を覆った。
女武者の姿が理想であるが、まずは町に出ることが先決と考えたのだ。
懐に警察手帳とスマホ、そして後ろ帯の中に拳銃を隠しその場から消えた——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます