No.8「取調室は特注仕様」
「半蔵門分署」のある地下事務所には、「迷い人」を取り調べる部屋を特設している。それはよく刑事ドラマとかに出てくるような机とパイプ椅子が置かれた殺風景な三畳くらいの部屋——、ではない。
そもそも、「迷い人」は異世界の人間であり、普通に対応しては警戒心を持たれて何も喋らないだろうという「警察庁」上層部の粋な計らい——(そう思うのは彼らだけだが)であったが、すでに彼らは富士山の「収容所」(この先、こう呼ぶことにする)では現代における容疑者扱いで普通に「取り調べ」を受けていたので、それはあまりにも滑稽すぎる仕様だった。
何故かといえば、時代劇よろしくな「お白州」仕様になっていたからで、最初に千葉がそれを右近と目にした時は、流石の右近も腹を抱えて笑っていたのだから、どれほど滑稽だったかは分かるだろう。
部屋は畳十畳はある大きさで、一面にお白州もどきの砂利が敷き詰められていて、二段ほど上がったところに、昔で言う「お奉行様」が裃に袴姿で偉そうに座る座布団まで敷かれていたのだから——能面ウコンが笑うのは無理もない。
そこで、今日も半蔵と茜は富士の「収容所」から移送されてきた「迷い人」を「取調べ」していた。半蔵は作務衣姿、茜は若武者姿に着替えての御出座であったから、これはこれでノリが良いのかもしれない。
「迷い人」はこの「取調室」に入るまでは目隠しと
——で、そのほうの在所はいずこ?
——へー、尾張は中村だぎゃ
半蔵が取り調べているのは、百姓姿で歳のころは四十過ぎかという、痩せた男であった。有り体に言えば、尾張(名古屋)の中村で田んぼをやっている所帯持ちらしい。
この取調室、お白州以外にも仕掛けがあって、四方は襖ばりで、灯りは蝋燭を使っているという凝りようだ。
——して、そのほうは、いかにして此処に参った?
——それが、儂にもよぉーわからんがだやー、畑仕事しとったら、ぐらぐら、っと足元が揺れよって、なんぞ黒い霧みたいなもんに担がれて飛んで来たっちゃ感じでのぉ……
半蔵と茜による、こんな真面目な「取り調べ」が一週間ほど続いた。もちろん、取り調べの最後には、千葉の妻の写真(スキャナーで取り込んで似顔絵風に加工したもの)を見せては問うた。
——この
千葉の妻が茶会か何かに出た時の着物姿の写真で、「迷い人」は一瞥をくれるも、どのものも、一様に力なく首を左右に振るだけであった。
そうして「取り調べ」が終わると、来た時と同じように目隠しに猿轡で手錠をされて富士の「収容所」に送り返されていった。
彼らの移送はいつも、深夜過ぎてからであり、半蔵や茜は「深夜残業」をずっとこなしていた。
——ふぅー、疲れるわい
——なんだ、服部半蔵ともあろうものが、だらしがないぞっ
そう言って半蔵は茜に叱咤され、あれほど嫌いだった珈琲を日に何度も飲むようになっていた。
千葉の前では生欠伸をしながら、零すように言う
——あいつは、化けもんか。七日もほとんど寝とらんぞ
——これといって、手がかりはないか?
半蔵は目を擦りながら応える。
——ない……な。ただ……
——ん?
半蔵は千葉の耳元で何かボソッ、っと呟いた。
——それは……
半蔵は何も言わず、ぽくり、と頷いた。
眠い
半蔵が、茜に惚れたらしい——。
——コンチわ
千葉が呆れ顔で声も出せないでいると、ドアを開けて何者かが入ってきた
どうやら、残る一人のメンバーがやって来たようだ。
見るからにキャラの濃そうな——、女だった。
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