*——半蔵の捜査記録——*

No.26「未来人の予言」

 半蔵と、右近はネットで予言を書き込んでいた、ハンドルネーム「未来人」に会うために五反田の彼のアパートに向かっていた。

 右近が握るハンドルの横で半蔵は物思いに耽っていた。


(茜は無事だろうか——)


 ——半蔵、考えても仕方ないぞ。茜ならきっと大丈夫だ。

 ——どこにそんな根拠があるんだよっ


 右近は低く沈んだ半蔵の声音に、自分が軽々しく吐いた言葉が今の半蔵には何の気休めにもならないことを知った。


 ——俺だけなんで消えなかったんだろうな

 ——さぁーな、なんか条件があるんだろうな、消えるには……

 ——満月の夜、十二時か……、来月もう一度やってみるぞ、俺は


 右近は、半蔵の独り言にも近い言葉には敢えて反応しなかった。


 五反田の「未来人」のアパートに着くと、二人は錆びきった鉄の階段を音を忍ばせて登った。

 右近がドアをノックする。

 中からの反応は無かった。

 ——留守か?

 半蔵は、ドアに耳を当て中の様子を伺っている。右近がもう一度ノックしようとした時、中で人の気配がして少し歪んだ木製のドアが開いた。


 ——山本章雄さんですね?


 右近が警察手帳を見せてと問いかけると、その若い男は訝しいげに二人の顔を交互に見て応えた

 ——そうですけど……

 ——ちょっと、あなたのネットへの書き込みについて、お話を聞かせて欲しいんですけどね……

 ——書き込み?


 その若い男は、一瞬間が空いたが、すぐに翻意して中に二人を招き入れた。


 ——書き込み、ってあの「未来予言」のですね?

 ——ええ、「東北大震災」を予言されてますね。しかも貴方はご自身が「未来人」であることも書き込みされてますね

 ——ええ、まぁー……

 ——あれは、単なる予測ですか? それとも、悪戯かなにかですか?


 男は、目を伏せ何かに迷っている風であった。


 ——場合によっては署に来てもらうことになりますよ?


 半蔵の重く低い声が男を揺さぶったのか、顔を上げ二人に向き直った男が吐いた言葉に、二人は期せずして顔を見合わせることになる。


 嘘でも、イタズラでもないですよ、あれは未来からの警告ですから———。


 男は静かながら、しっかりした声音で言った。


 ——じゃ、貴方は本当に未来から来た、、、とでも?


 右近が鋭い刑事の目つきで男を詰問する。


 ——いえ、私は現代の人間ですよ。ただ………


 男は虚空を睨むようにしてそのまま黙り込んだ。


 ——ただ、、、なんですか? そこが大事なのですよ?


 ——私は、自分の子孫から警告を預かって、それをネットに流しただけなのです。

 ——子孫が………警告を? どういうことですか?


 右近は警察手帳に書き込む手を止めて男の次の言葉を待った


 ——不定期なのですが、夢に出てくるんですよ、私の子孫が……


 右近は、倉科加奈子の言っていたのを、思い出した。加奈子もまた自分の子孫から予言めいた言葉を預けられると言っていたのを——。


 半蔵も目の前の男がその場逃れの嘘をついているとは思えず、男の言っていることに疑いを持たず、さらに問いかけた


 ——今、人がこの世から消えたり、過去の世から飛んできたりしている……そのことについて何か心当たりはないか?


 男はぎょっと目を見開き、短い言葉を吐いた


 ——そ、それは! 歪みです!

 ——歪み?


 時空が、、、今、歪んでるんです、きっと———。

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