No.27「半蔵の恋」

 時空が歪んでいる———。


 それは、この男の説明を借りて言うならば、なんらかの力や変化で通常の「時空」バランスが崩れ、それぞれの「時空世代」にスポット(穴)が空いてしまっている状態だという。したがって、たまたまその「穴」に近寄ったり引きずり込まれると、違う「時空世代」へと飛んでいってしまう、と言うのだ。


 ——じゃ、そのスポットさえ探し当てたら、違う世代へジャンプできるのか?

 ——いや自分が試したわけではないですけど、私の子孫が言うには、それにはいくつかの条件が重なる必要があるらしいです。

 ——なるほど。で、条件さえ整えば、その行く先を選ぶことはできるのか?

 ——それは、我々、現代人には無理なようですね。ランダム、、、らしいです。


 制御できない——、それでは茜を探しに行くことはできない。

 半蔵は重い息を吐いた。


 ——で、君の子孫という人に、君は夢の中だけでしか会えないのかね?

 ——ええ、今んとこは……ただ、、、

 ——ん?

 ——ただ、、、彼が言うには近くこの時代に来るって行ってました。何か重要な警告をするために

 ——ほぉー、また何か大きな災害でも起こるんだろうか

 ——それは、わかりません。ただ、彼らには「時空世代」を行ったり来たりできる能力っていうか力があるみたいですね


 半蔵は顔を上げ、男に問いかける。


 ——あんたの子孫なら、今この世から消えている「迷い人」を探しだすことができるか?

 ——そ、そんなこと、急に言われても……私だって実際に会ったわけじゃないんですよ

 ——わ、わかった。じゃ、もし彼が現れたら真っ先に訊いてくれ、いまこの世ではどっかに消えちまった人間が多数居る。その人たちを探し当てる術があるかどうかを


 ——はぁ、わかりました


 右近と半蔵は連絡先の名刺を置き、山本章雄のアパートを後にした。


 右近は車のハンドルを握りながら半蔵に声かける。


 ——ちょっと光明が見えてきたかもしれんな

 ——うむぅ。ただ、どっちにしても待ってるばかりだな。こっちから動ける手立てが殆どない

 ——確かに……

 ——来月の満月の夜は十七日だ。それに賭けるしかないな


 半蔵は眉間にしわを作り、ごつい腕を組んだ。


 ——半蔵っ

 ——? 

 ——お前、惚れてんだろ、茜に……

 ——ば、馬鹿なっ、幾つ齢離れてると思ってんだっ、親子ほど違うし……

 ——ほぉー、じゃ、俺が狙ってもいいな?


 半蔵がむくりと腕組みを解いて右近の首に掴みかかる。

 ——お、おいっ!、やめろ、危ねーだろっ!!

 ——て、てめぇー、茜に惚れたのか? あ? 

 右近は慌てて路肩に車を停めて、半蔵のごつい腕を振るい払って咳き込んだ。


 ——ごほっ、ごほ。、、、ったく、馬鹿力だな、おめぇーは。っていうか惚れてるのは半蔵だろ? 別にいいじゃないか、歳の差なんて


 ——いい、、、のか?

 ——まっ、相手が了解すれば、、、の話だけどな。ははははっつ………

 ——右近は、どう思う? 脈ありそうかな?

 ——さぁーな。けど、茜は強い男が好きだろうから、その辺はOKだろ、あとは知らんが……


 そっか、そっか———、と半蔵はまんざらでもない笑を浮かべて独り頷いている。


(顔は怖いけど、可愛い男だな……)

 右近は、サイドブレーキを解いて、車を発進させた———。

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