No.28「加奈子の子孫」

 事務所に戻った二人を、倉科加奈子が待っていた。


——どうでしたか? 未来人さん


 右近は、事情聴取の内容を掻い摘んで加奈子に話てやった。


——へぇ、私と同じような経験をしてる人って居るんですねぇ

——うむぅ。その後、君の子孫って現れたの?

——それが……


 加奈子は俯き身体を捩りながら黙っている。

——なんなんだよ、なんかあるなら言えよ


 半蔵が痺れを切らしたように加奈子を問い詰めると、加奈子は露骨に嫌な顔を半蔵に向けて言った。


——女子には男の人には言えないこともあるんですッ!


 そこに橙子が割って入って


——わかった、んじゃ私が聞くわ。あっち、いこっか


 橙子は小会議室へと加奈子の背を押すようにして連れ出した。


——で、どうしたの?

——それがですよぉー、橙子さぁーん。実はですねぇー

 橙子も同じ性別ながら加奈子の間延びした声音にちょっとイラッとしながらも辛抱強く加奈子の言葉を待った。


——似てるんですよ 右近さんに……

——右近……あ、いや主任に似てる?って……

——わたしね、思うんですけどぉ……、島主任とわたしって、たぶん結婚するんじゃないかって思うんです。あの子見てたら……

——そ、そんじゃ何か? 夢に出てくるキミの子孫って、主任との間に出来た子供って言うの?

——子供かどうかは……孫かも……。目元がそっくりなんですよぉー、主任にぃ

——ふぅーん、あ、っそ


 橙子は会議室の天井に投げやりに視線を移して息を吐いた。

——ね? 橙子さぁーん、こんなこと本人の前で言えないでしょ? ねッ?

——ああ、そ、だな


 橙子は自分がどんどん不機嫌になるのが分かり、その理由を押しのけるようにして加奈子に向き直って問うた。


——で、さぁー、その後、その子はなんか手がかりになるようなこと言って寄越して来たの?


——あ、そうそう、それッ! 近々、来るんですって!、この時代にッ!

——それを、早く言えよ。その「未来人」とやらに会えば、ひょっとしたら違う時代に飛ぶ術が分かるかもしれないじゃんっ!


——あ、ごめん、なさい。だってぇー、半蔵さんが怖い顔でぇー……

——ああ、もうわかった、わかった


 橙子はイライラが頂点になる前にココを出た方がいいと思い、加奈子を置き去りにして会議室を出た。


——「未来人」が来るそうですよ、近々に

——も、同じようなこと言ってたよな


 半蔵は右近に確かめるように視線を向けた。


——うむ。その時だな……、その時がチャンスかもしれないな、何か糸口を掴む

——で、アイツ、なんか男には言えないようなこと言ってたか?


 半蔵が奇異な目で橙子に問う。


—ーさぁーね。あたし、女子力皆無なんで、わかりませーんっ!


 いつの間にか、右近の姿は消えていた——。



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【時空の摂理】《GーC=±0》プラマイ——0 千葉七星 @7stars

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