捜査記録02:捜査員までも——、消えた。

*——「過去への入り口」——*

No.16「茜が消えた」

 あくる日の朝、全員が揃ったところで、捜査報告会議が開かれた。


 ——皆も、知っての通り、昨夜、人が消えた

 千葉は、自分が部下に報告していることが、なんとも奇天烈キテレツな表現だと思いつつも、そう言わざるを得なかった。


 ——申し訳ない


 半蔵が皆の前で肩を小さくして頭を下げた。茜も同じく頭を垂れている。


 ——罪人を取り逃がしたわけじゃないんだし……


 橙子が、気まずい雰囲気を察して口を挟むが、場の空気は重いままだった。それを打ち払ったのは、倉科加奈子だった。


 ——ものは考えようですよ、皆さんッ。だって、ソコでずっと張り込みしてたら、なんか手がかりが掴めるかもですよ? ソコに一晩いたら、どっか行けるかもだし……


 右近は、加奈子のポジティブっぷりにあんぐり口を開いていたが、半蔵が真面目な顔をして頷いているのを見て、口元を手で隠した。


 ——半蔵、試しに今晩、やってみるか?

 茜もまた、真剣な目で言う。


 ——おうっ、汚名挽回だ。この身はどうなってもよい

 ——よし、私も付き合うぞ


 千葉は、半蔵のプロレスラーのような太い首がぽっと、赤らむのを見逃さなかった。


 ——昨晩、男が消えた時間は、確か、午前0時ごろだったな。

 ——はい、日付を跨いで、数分前後の事だと

 ——よし、やってみるか。俺と右近は、横道の入り口で見張る事にしよう、いいな右近

 ——了解です


 その日、午後11時を過ぎて、皆がやって来た。橙子も来ている。


 ——よし、では、半蔵と茜は中で待機してくれ。

 半蔵と茜は、千葉に黙礼をして、闇の中に消えた。できるだけ再現性を高めるために明かりは持って入っていない。


 ——半蔵ッ、茜に変なことすんじゃないぞーーっ!


 橙子はが無いことをいいことに、半蔵をイジる。


 ——無礼なこと言うなッ


 横穴の奥から、野太い半蔵の声が飛んできたが、幾分震えているのを、橙子はニヤニヤして聞いていた。

深夜の地下道は冷える。三人の息遣いだけが静寂のなかを流れていく。

 やがて、深夜0時が近づいてきた。


 ——そろそろ、だな。


 右近が腕時計に目をやった。

 秒針が、カチカチと時を刻み、やがて12時の位置に差し掛かった、その時——。


 ——茜ッ!!


 半蔵の悲痛な叫びが、闇の向こうから届いた。

 地下道に反響したその声は、何かの異常があったことを、横道の表にいたものに伝えてきた。


 ——どうしたッ!、半蔵ッ!

 ——茜がッ!!、茜が、消えたーーっ!


 右近と橙子は顔を突き合わせた瞬間、すわっ、とばかりに横道に飛び込んでいった。

 千葉も懐中電灯のスィッチを入れて、二人に続いて入っていった。


 

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