No.9「Code No.005 鷺森橙子」

 白のスキニーに深紅エンジのアーミージャンパーを羽織った女が戸口に立って、こっちを伺っている。


 今しがた、茜に惚れたと千葉にしたばかりの半蔵が、その女に視線を置いたまま動かない。


 ——ああ、こっち入って 

 ——失礼しまーす


 千葉は机の上に山積みされた書類の山から、篠田局長から渡されていたビニールの表紙のついた「履歴ファイル」を摘み出した。


 ——鷺森橙子さぎもりとうこです。、あ、いや、「組織犯罪対策課」から来ましたーっ。


 千葉は、ファイルのページをめくり「鷺森橙子」の履歴の頁を開いた。


 ——ああー。あの木戸課長んとこのね。


 鷺森橙子は「警察庁 組織犯罪対策課」の特命捜査員だった。しかし、その前の所属部署は、あの倉科加奈子が居た「広報企画課」に所属していて三代目の「警察庁広報キャンペーンガール」を務めた経歴が残っている。倉科加奈子は五代目のそれでこの鷺森橙子にすれば、後輩にあたる。


 ——ほぉー、三代目のか‥‥

 ——あーっ、遠い昔の話です。今じゃ、コレっスから


 そう言って、橙子は人差し指を自分に向けて自虐っぽく片方の口角を下げて言った。


 千葉は、鷺森橙子が「警察庁長官官房 総括審議官」の松平公平と不適切な関係、いわゆる「不倫関係」になり、それが発覚してに飛ばされた——、という内容のことをファイルの中の特記事項で確認した。

 松平公平氏は、将来を嘱望された警察官僚で、その不祥事がなければ今頃は「長官官房長」の椅子に座っていた人である。現実には、青森の片田舎の警察署長として「飛ばされて」いた。


 ——なるほど……、で、君、なんか特技ある?

 ——はぁー……、強いて言えばムエタイぐらいっスかね

 ——そうか、それは心強いな。


半蔵が口を挟んでくる


——ムエタイ、とは、なんぞ?

——キック、あ、いや、格闘技の一種だ。お前さんより強いかもな……


千葉は、茜と加奈子はランチに出ていて不在だったので、とりあえず右近と半蔵を橙子に紹介した。


——服部半蔵政就だ、見知りおかれよ

——はぁ?

——だから、オレは、服部ッ……


また、千葉が割って入ることになる


——あ、いや細かいことはおいおいに聞いてくれ、なんしろこの人は半蔵だ、服部半蔵

 橙子は、わけわかんない?——という視線を右近に向けた。途端に右近はその視線の外に逃げて言う。


——あ、いや、その……倉科くんに聞いてくれ


 そう言って、トイレに駆け込んだ。


橙子は、半蔵にも興味があったが、それよりも島右近とか言うイケメン歌舞伎役者みたいなのが自分の直属の上司と分かって、ちょっとウキっとした。


——さって、彼らが、帰ってきたら、始めるぞ。全員揃ったことだしな……俺たち、「00ゼロゼロ」のメンバーが


 半蔵がまた生欠伸を一つして、頷いた。



なんかなココ……、まいっか、アタシ向きかも——、と橙子は独りごちて喫煙室に消えた。



【鷺森橙子 Code No005 元マル暴デカ。 特技 ムエタイ 】

 

 千葉は手帳に鷺森橙子に関する特記事項として、意味不明なだけを書き入れた。そのは千葉本人しか知らない。


 こうして、「半蔵門分署」ー(時空捜査班)の6人が揃った。

 

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