No.15「霞掴む希望」
「迷い人」が消えた——。
半蔵からの連絡を受け、千葉は深夜の首都高速を車で急いでいた。
(どういうことだ? あそこは行き止まり、密室のはず?)
「半蔵門分署」に着いたのは、深夜2時を過ぎていた。
——状況を説明してくれ
いかつい半蔵の肩がいつになく小さく見えた。
——小便したいって言うんで、手錠を解いて壁際で立ちションさせていたらいきなり来た道を逆走して、あそこの行き止まりの横道に逃げ込みやがった
——ん、それは確かか? あそこは行き止まりだし、抜け穴もないはずだ
——ああ、茜と血眼で探したけど、気配一つなく消えてたんだ
半蔵が言う、消えたという表現に千葉は違和感を感じなかった。
——時間は何時ころだ?
茜が半蔵の横から応えた
——たぶん、午前0時前後だと。「監守部屋」を出るとき、11時45分だったのを確認しています。
——そうか……
それっきり三人は黙りこくってしまった。
千葉は、もう一度その横穴に入ってみた。懐中電灯を灯して壁や地面を丹念に調べてみたが、怪しい箇所はどこにもなかった。
——この地下道は、事務所が行き止まりで、人が隠れるような場所もない。そう考えても、此処で消えたとしか考えられんな
——すまん。儂の不始末だ。小便など行かさなければ……
——いやいや、護送車の中で漏らされちゃ困る、お前さんの判断は正しかったんだ
茜が半蔵を勇気付けるようとそのゴツい肩に手を置いて言う
——キャップのいう通りだ、私とて同じ判断をしたに相違ない。それに……
茜が一呼吸置いて、続けた。
——もし、此処で消えたとなると、此処は特別な場所、ということになるのではないか? つまり、今ではない、どこか別の場所、時代……、そんなところへ通じる場所なのかもしれんぞ
千葉は、茜が言うことには一理あると思った。いや、それ以外考えられない。それは自分たちが此処で捜査をするキッカケとなった全ての事象に通じるものがあるからだ。
此処に居れば、飛べるかもしれない……。
千葉は、霞を掴むような目で、漆黒に沈む横穴の向こうを眺めた——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます