No.6「Code No.004 柳生 茜」
「半蔵門分署」の地下事務所の工事は五月末で終わり、千葉、右近、半蔵の三人は新しい事務所に入った。六月の三日のことだった。
事務所へは「警察庁」の地下駐車場脇の分厚いドアから出入りする。「指紋認証」によるオートロック式であった。戦時中の地下道を再利用したものなので、事務所に行き着くまでには暗く、湿気臭い道を行かねばならいのは、千葉以下誰もが不満を口にした。
千葉と、右近が、所内の設備を確認していると、場違いなキャンキャンした女の声が事務所に響いた。
——コンニチワー!
千葉は、右近が能面顔に眉をピクつかせて固まっているのが可笑しくて、素早くスマホで隠し撮りをしておいた。
——今日から、お世話になります、
倉科加奈子は、篠田局長の姪っ子で、「警察庁広報企画課」に所属していた。
有り体に言えば「警察組織の広告塔」というやつで、「チヨダのアイドル」らしい。篠田局長ご指名の直接人事なので千葉もムゲには断れなかったのだ。
篠田局長曰くは、そろそろ「人寄せパンダ」から引退させて、婿選びをしてやらんといかんという叔父心らしい。
——ああ、よろしく、頼むよ。机はアレ、つかってくれていいから
千葉は、右近の斜め前の席を指して、何故かニヤッとした。
右近の固まった能面顔は、ヒビが入りそうな勢いでピクピクと引きつっていた。
倉科は、千葉と右近に満面のアイドルスマイルを振りまきペコリと頭を下げた。
——彼は、島班長だ。
また、千葉は意地悪く、右近に振る。
——倉科デス、よろしくお願いしマス。
加奈子はさすがに人扱いに慣れているようで、「島 班長」に一歩近づいてもう一度ペコリとした。
——し、しま、ダ。
その一言を吐いて、右近はトイレに駆け込んだ。
ちょっとぶっ飛んだ感のある倉科加奈子だったが、殺風景な事務所が一度に華やぎ、さっそく煎れて呉れた珈琲の味も悪くなかった。
加奈子が千葉から「Code No.00?」を与えられるようになるのはまだ先の事だが、加奈子の持つ「特殊な能力」が大きな戦力となったのは、この時には誰も予想すら出来なかった。
——後は、半蔵か………
半蔵は千葉が手配した都内のマンションに引っ越しをしたばかりで、慣れるまでしばらく時間を呉れと言っていたが、そろそろ来てもいい頃だった。
——ういっす
——キャッ!
今度は、加奈子が飛び跳ねた。
スキンヘッドの半蔵が、着慣れないスーツ姿で加奈子の後ろに立っていた。
パッと見は、武闘派ヤクザの風体である。
今時、ヤクザも履かない白のエナメルの靴には流石の千葉も苦笑いである。
千葉は、二人に半蔵を紹介し、右近の斜め右の席を半蔵に用意してやった。つまり、半蔵の前は加奈子が座ることになる。
千葉は三人がそれぞれのデスクに座っている様子を見ながらニヤニヤとしていた。
右近と半蔵の反応が可笑しくて——。
千葉には倉科加奈子以外に、あと二人、篠田局長から履歴ファイルを渡されていた。
そして、そのうちの一人が、音もなく静かにやって来た。気配を全く感じさせないのは半蔵や加奈子のキャラが立ちすぎだったこともあるが、半蔵以外の三人にはその女がいつ来たのか全く気づかなかった。
その女は静かに千葉のデスクの前まで歩み出て言う。
——
「Code No.004
半蔵が固まって動かなくなった。
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