第27話 あの日の約束

...

遼〜起きて〜

おーい、起きろや〜

遼〜起、き、ろ

ん.....?

咄嗟に起き上がる俺

かむ...い...?

...え?

ここって俺の部屋...?

なんで...いつの間に...?

それに制服のままだ...

あれ、神姬は...?

俺が困惑していると横から声が聞こえてきた

担任「...おはよう」

俺「え...?」

なんで...先生が...?

後ろには小町も居た

小町「...今日は...眠れた?」

俺「...はい?」

俺が困惑していることに気付いた担任と小町は落ち込んだ顔をする

俺には未だに何が何なのか分からない

そうだ...

俺「神姬は...どこにいるんですか?」

担任小町「...え?」

俺「さっき神姬の...声が.....」

...

全てを思い出した

あの日見た光景も全て思い出した

思い出したくないのに

それが俺を無口にさせる

小町「遼君...最後に叫んだ途端に倒れたの覚えてる?」

俺「...え?た、倒れたってことは...さっきまで寝てたのは...」

担任「そうだ。お前の両親に事情を説明して家に上がらせて貰ったんだ」

小町「私達は遼君の看病で1日泊めて貰ってたの」

俺「...」

未だに状況が掴めない

それよりも俺は聞きたいことがある

俺「...神姬は...生きてるんですよね?」

担任小町「...」

俺「光達も...優希達も凛も佐奈も生きてるんですよね...?そうですよね...?」

俺がそう聞くと小町が泣き始めた

担任「...遼。落ち着いて聞いてくれ、あの後...俺と小町は三日月達の家のある所に行ったんだ...そしたら...」

俺「...そしたら?」


担任「...そこに家が無かったんだ」


俺「...え!?」

小町「澪ちゃんと光ちゃんと愛ちゃんと善子ちゃんの所にも行ったけど...何も無かったわ...それと...神姬ちゃんの家も...」

俺「...」

何だろう...

もう...何も無かったかのように全て消えたって事か...?

俺「...先生」

担任「どうした?」

俺「...独りにしてもらっても...いいですか?」

担任「...あぁ、分かった。お父さんお母さんは家に居るからな」

担任と小町が俺の部屋から出て部屋には俺1人になった

こういう日が3日程続いた

そしてある日

俺はいつも通り1人で部屋の中でただただぼーっとしていた...はずだった

......

ガタン...ゴトン...

ん...?

あれ...?ここは...?

気が付けば俺は駅に居た

尾鷲...じゃない...?

目の前にあった駅名標を見ると...


は...はだす..."波田須"!?


何で...何で俺がここに居るんだ!?

気が付けば波田須に来ていた

いつから...?

全く記憶が無い

それより...

...もう...こんな所に来たって...

...

無意識に足が動く

その無意識に身を任せてスタスタと歩く

そしてとある場所の前に着いた

そこには...何も無い

...

そこを見ると悲しみがこみ上げてくる

いや、泣いていた

なぜならそこは元々神姬の家があった場所だったからだ

本当に何も無い

草木も生えていない

見ているだけで悲しみを思わせるような雰囲気を漂わせている

...本当に...無くなったんだ...

何だろう...本当に何も無かったかのように全てが消えた感じだ

.....んん...?

また気が付けば別の場所に居た

ただ...ここは知っている場所だ

見慣れた構内

...熊野市駅だ

スマホで時間を見ると18時を回っていた

場所に気付いた瞬間また足が無意識に動く

誰かに動かされているように

トコトコと歩いて行く

そして歩いた先には...俺達の通っている熊野学園の正門がある

後ろを振り返ると最近まで皆と一緒に歩いた通学路が見える

ここで神姬と抱き合った日もある

眩しい夕日が俺を照らす

そしてまた歩いて行く

下の方に歩いて行くと俺達が学校帰りに寄っていた駄菓子屋がある

ここで皆とガヤガヤ喋って楽しんでいた

また皆と喋りたいな...

...もう...戻ってこないけど

そのまま駅に向かって列車に乗って尾鷲駅に戻った

そして家の前に着いた時だった

家の隣に引越し屋が来ていた

まぁ...普通か...ん?

その家の窓から誰かがこっちを見ている

誰だ?女の子...?まぁいっか

俺は特に気にすることも無くそのまま家に入った。


そして家に入った

中には親が居た

母「おかえり、遼」

俺「...ただいま」

母「晩御飯...作ってあるからね」

俺「うん...」

とりあえずおご飯を食べて風呂に入る

そして自分の部屋に戻る

...

何故だろう

今までの神姬と居た景色が頭の中でぐるぐる出てくる

このベッドもそう

神姬と俺で...初めてヤったベッド...

それにこの部屋も神姬達と一緒に色んな事した部屋

ふふっ、そう考えるとこの家も神姬達との思い出がいっぱいだな...

...

ふとベランダに目を移す

そこには雲一つ無い綺麗な夜空が見えた

ベランダから空を見る

今日は天気が非常に良かったため星が綺麗だ

あぁ、本当に綺麗だ

...

気が付けばまた涙を流していた

ははっ...今日だけで何回泣いてるんだよ...

すると部屋の窓が開く

お父さんが来た

父「...大変だったな、遼」

俺「...」

お父さんと一緒に星空を眺めていた

父「ところで...1つおかしいって思う所があるんだけどさ。遼、よく考えてみろよ?おばあちゃんが儀式失敗したらどうなるって言ってたか覚えてるか?」

俺「え...?」

確か...


全て...姿形も...記憶も何もかもがなかったことのように消えてしまう


...はっ!?

確かにおかしい

神姬はあの日消えた

それなのに...それなのに...

俺の記憶から消えていない

俺の記憶から神姬は消えていない

それどころか皆の記憶も消えていない

確かに...確かにおかしい

...でも...でも...

俺は黙り込む

父「どうした?」

俺「神姬は...もう居ないよ...」

父「...何でだ?」

俺「...何だか...何だか分からないけど...うん...」

俺がまた黙り込む

するとお父さんが話し始めた

父「お父さんも...実と初めて会ったのは高1の時でな、俺から告白して付き合い始めたんだ。でも高校2年の時に俺が急に転校する事になって離れ離れになったのさ。でも俺と実の関係は崩れることは無くてな、ずっとずっと続いて今に至るんだ」

俺「...」

父「これで分かったのがな、願いってな、願えば本当に叶うもんなんだよ」

俺「...」

全く同じ言葉を澪からもくれた

「願えば叶う」と

父「だからな、遼。強く願え、距離は遠くなっても気持ちの距離は変わらないんだから、な?」

俺「...そんな...そんな話ある訳ねぇだろ...」

父「ん?」

俺「そんな簡単な事が出来たらこんな事になってねぇだろ!!!!」

父「...」

俺「澪にも...澪にも父さんと全く同じ言葉をくれたさ...もちろん俺は強く願ったさ...でも...でも神姬は...神姬はもう居ないんだよ...!!!俺の目の前で...俺の...目の前でっ...うわぁああああああああっ!!!」

俺は父さんに抱き着きながら泣きまくった

子供みたいに泣きまくった。


毎日寝る度に夢に神姬が出てくる

起きる時には毎回涙が溢れている

この傷は消えそうにない

いや、消えるはずがない

そして...8月17日

この日俺1人で熊野の花火大会に行く

会場に行くと若い人達が浴衣を着て楽しそうに喋っている

中には恋人同士と来ている人も居る

俺も浴衣を着て会場に居る

本当は俺も恋人同士と来る予定だった

でも...隣には誰も居ない

...もう...諦めかけている

日に日に絶望感に浸っていた俺はもう楽になりたいからか諦めるように考え始めた

もう...神姬は死んだ、と

もう神姬はこの世に居ない、と

心にそう植え付けていた

屋台で買ったたこ焼きを片手に海岸近くの高台から座りながら花火を待っている

割とほかの人も居る

時刻は19時

花火を打ち上げ始めた

何だろう、いつもより綺麗に見えるな

...やっぱり考えてしまう

もし、今俺の隣に神姬が居たら...と

最高の誕生日になるはずだったよなと

俺にとって今日はある意味最悪な誕生日だ

こんなに喜べない誕生日なんてあるものか

あぁ...本当に綺麗だ

その景色に見とれていた...まさにその時だった


...遼...?


...え?

今...誰かが俺を呼んだ...?

辺りを見回すが俺の知ってる人は居ない

気の所為か...?

するとまた声が聞こえる


...遼...どこにおるん...?


はっ......!?

この声...まさか...

いや...そ、そんな...嘘だろ?

するとその声がどんどん聞こえてくる

...今...ここにいるのか?

俺はその場から立ち上がって屋台のある通路を見回る

声がする方向へと走る俺

声はどんどん大きくなって行く


どこおるん...?わたしはここやで...!


絶対にそうだ...この声は...この声は...!!


あ、あのっ!!!


...!?

誰かに呼び止められた

その声の本人は...今...俺の後ろにいる

...まずい、泣きそうだ

涙を堪えながら恐る恐る後ろを見る

...

その姿を見て俺は絶句する

相手は俺を見てニコッと笑う

なぜならその相手は...


「...うぅっ...遼...!!!!」


神姬だからだ

泣きながら俺に抱き着く神姬

俺「...か、神姬...何だよ、な...?」

神姬「当たり前やんかぁ...うわぁああんっ...やっと会えたぁあ...!!」

子供みたいに泣き崩れる神姬

それを見て神姬の頭を撫でながら泣く俺

...神姬だ

本物の神姬だ

浴衣姿の神姬だ

なんだかよく分からないけど...本物だと思えた

すると2人の大人の男女がこっちに来た

???「おぉ、会えたのか」

???「こんばんわ、あなたが遼君ね?」

俺「え...?」

神姬「紹介するわ、わたしのお父さんとお母さんやで」

俺「え!?」

あれ...?

神姬の親って...

神姬の母「初めまして、月詠蕾と申します」

神姬の父「月詠武と申します。君が遼君か」

俺「は、はい」

父「いやぁ、色々とお世話になったよ。本当にありがとう」

俺「い、いやぁ...それ程でも...」

すると周りにいた人達が俺達を囲むように立ち止まる

ど、どしたんだ?

それと同時に祭り会場に放送が流れる

「...えー、只今花火の第一部をお送り致しました!皆さん!楽しんでいただけたでしょうか?」

ん...?この声...?

声と同時にsupercellのうたかた花火が流れている

「本当に綺麗だったな!澪!」

「ほんまそれやでな!おしみん!」

「ちょっと!花火もいいけど、それよりもおめでたい事があるでしょ?」

「話逸れすぎですよ!!」

「あ、忘れとったわ〜.....えっと...遼!聞こえてるか?ウチらや!名前言わんでも分かるやろ!さぁ、皆...行くでぇ...!!」

この声の正体はすぐに分かった

光達だ

それに優希達と佐奈、凛、陽矢も居る

するとその光達の放送と同時に周りの人達も口を開く


「Happy Birthday to you〜Happy Birthday to you〜Happy Birthday dear 遼〜!!Happy Birthday to you〜!!!!!!」


光達&周りの人達「おめでとう〜!!!!」


えっと...え?これは一体...?


「遼、16歳の誕生日おめでとう!多分お前は今ビックリしてるだろうけどこれはな、俺達が考えたサプライズだ!」

「そうよ!!あなたの御両親と担任と保健の先生が実行委員会に強く申し立てて実現したのよ!」

「感謝せぇよ!?」

嘘だろ...皆が...これを...?

「...遼、もうウチらとはお別れやけどウチらはずっと遼と神姬見守ったるからな!!」

「じゃあな、遼!!また飯でも行こうぜ!」

そう言ってメッセージが終わりに入ろうとしているのか、周りの人達が拍手を始めた

しかし、メッセージはまだ続いた

「あ、そうそう...忘れてた」

周りの人達はそれを聞いてえ?え?と動揺している

どうしたんだ?

終わりじゃ無いのか?

すると澪の声が流れる


「何回も言うようであれやけど...神姬と...幸せになってや!!!!」


......

メッセージが終わった

俺「...神姬」

神姬「ん...!?」

神姬を抱きしめる俺

それと同時にまた涙が頬を伝う


「...ありがとう」


俺がそう言うと周りから歓声と同時に拍手が舞う

神姬「...ふふっ、どういたしまして」

神姬は笑いながら抱き返す

神姬「ようし...遼!!来て!!」

俺「ちょ、えぇ!?」

父母「行ってらっしゃい」

神姬が俺を引っ張り始めた

結構早く走り始める

そして神姬が一番花火の見えそうな高台の上に俺を引っ張り上げる

神姬「わたしとわたしの両親が生き返ったんはな...佐奈ちゃんらがわたしらの魂を復活させてくれてん」

俺「そ、そんな事...出来るんだ...」

神姬「なんか...わたしらってさ、支えられてばっかやな!」

俺「...今度は俺達が恩返ししなきゃダメだな」

神姬「...せやね」

本当に幸せだ

俺は...1人じゃ無かったんだ

色々な人達に支えて貰っているんだ

そして皆は俺と神姬の幸せを願っている

こうなれは...成し遂げるしか無いだろう

神姬と出逢えてよかった

俺の幸せそのものが神姬なんだ

そう思えた

そして2人で肩を寄せながら花火を見る

綺麗な花火だ

さっきよりも余計に綺麗に見える

夏の空花、花火

これは一生の思い出になるだろう

そう確信した

最後の1発が上がった瞬間、俺と神姬はキスを交わした


「一生、支え合おう」


そう想いを込めて...。


そして祭りを終えて神姬と一緒に帰る

あれ?

神姬の家って波田須じゃ...?

そう思いながらベラベラ喋る

...気が付けば俺の家の前まで居た

俺「えっと...」

神姬「あぁ、まだ言うてなかったんやね...わたしの家ここやねん」

俺「え!?」

神姬の指差す場所を見るとまさかの俺の家の隣だった

引越ししてたのって...そういうことだったんかーい...

神姬「てなわけで、これからも宜しくお願いします」

俺「お、お願いします...」

神姬「何よその嫌がってる感じ」

俺「あ、当たり前だろ...お前みたいな痴女」

神姬「あ!?」

俺「すみません」

神姬「まぁ、せっかくやから...泊まっていかん?」

俺「え...?い、いいの?」

神姬「うん...記念やし」

そう言って今日の夜は神姬の新居に泊まることになった

今日は最高の誕生日になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る