第14話 日常のもとへ

「地獄王ド・ゲドー、そして穿地元との戦いは大螺旋のドリルにより終結した」


「戦いを終えた僕たちは、地底や地獄、それぞれの世界へ向かっていくあの人たちから役目を託された」


「私たちが帰るのは日常の世界。これまでと同じ場所で、これまでのように笑ったり泣いたりしながら生きていく」


「それが役目だ。変らぬ日常。自分達にとっての…自分をとりまく者たちにとっての。これからの俺たちは、そんな日常を護り生きていく」



魔族の棲む地獄界をかき乱す者達が排除されたことで、地上は以前の平穏を取り戻していた。


しかしながら魔族そのものが絶滅したわけではなく、見る者が見れば魔族の往来は未だ健在だ。


当然その中には、人類の居住区内へ侵入してくる者も居る。



「ねえ、青田さんがノックしてよ!」

「ええー!相談しようって言い出したの犀川さんじゃん!」

「だ、だって、き、き、き、緊張するんだもん……」


扉の前で制服姿の少女が二人、揉めている。

彼女達の関心は、扉を隔てた向こう側にあるらしいことはすぐに判る。


であるから、辰間基は名も知らぬ後輩たちに声をかけた。


「キミたち一年生だよね?どうしたんだい」

「あ、た、辰間先輩!」

「ホラ、言いなよ!」

「あの、え、えと……」


まごつく女子生徒の言葉を、基は急かしもせず聞き入れる姿勢をとった。

そこへ、廊下の端から少女の声が飛んでくる。


「基ー!その子たち、どうしたのー!?あ、入部希望!?もしかして入部希望なの!?」


ひとりでにテンションを上げながら駆け寄ってくる鍔作舞の声に急激なクレッシェンドがかかる。


「もう、ちょっとは落ち着きなよ舞。もう三年生なんだからさ」

「ね、ね、ね、部室ウチに用事でしょ!だよね!立ち話もナンだからまあ入って入って!さあ!さあ!!」

少年の声は既に耳に入っていなかった。



「なるほどね。わかった、調べてみるよ。教えてくれてありがとうね」


少女たちの持ち込んだ“相談”を聞き届け、基はやわらかに礼を言った。

という表現さえ当てはまりそうな顔立ちの少年が漂わせる大人びた空気。


入学して間もない一年生の少女達は、基に憧れの視線を注ぎ何度も頷いた。


「人間の血を吸う謎の怪物……まっかせなさい!私たちが!必ず!解決してあげるからねッ!」


唐突に椅子から立ち上がり胸を反らす舞に、三名は一様に苦笑するのであった。



夜の校舎は月灯りに照らされている。


普段は静まり返るグラウンドに、少女の声が響く。


「待ちなさい吸血鬼!どこまで逃げたって、私には視えてるんだから!」


塀に囲まれた運動場に、牙の生えた亜人が闖入。

巷を騒がす噂の主、吸血魔族チュパカブラである。


両脚で跳躍を繰り返し移動するチュパカブラを追って、舞と基も校門からグランドに到る。


「誘い込んだよ、ヒカル!」


基は、校庭の真ん中に立つ、金髪碧眼の少年に呼びかける。

チュパカブラの行く手を遮るように待ち構えていた礼座光は、両手に印契を結んだ。


「既に結界は完成した。もう逃げられんぞ」


彼ら以外は既に無人となった学校の敷地が、不可視の壁に覆われる。


退路を絶たれたことを覚ったのか、チュパカブラは逃走の脚を止めその場を踏みしめた。

そして膨張する精命力と共に身体も数倍に巨大化を遂げた。


「吸い集めた精命力を使ったか!」


巨大チュパカブラが後方へ向き直り跳躍。

口吻から槍の穂先のような棘を出現させ、追ってきていた基と舞に迫る。


「基、やるよ!」

「舞、わかってるから急ごう!噛み付かれちゃうって!」


二人が言葉を交わす間に、礼座光は既に身体を二つの光球に変じ少年少女のもとへ宿っていた。


「「光鋼鍛着アークビルド!!」」


基と舞の声がシンクロする。


夜の校舎に閃光奔り、吸血魔族の目が眩む。


視界を回復させたチュパカブラは足下に居た筈の人間えものを見失った。

首を左右に振って辺りを見回す魔族に対し、名乗りの声が飛び来たのは頭上からだ。


月光映える学び舎の屋上うえ


蒼い龍人と朱い翼人が、彼らの敵手を見下ろしていた。


「翔炎セイル!」


「電龍ドラグ!」


「「我等光鉄機!悪鬼、皆悉く催滅せよ!!」」

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