第2話 ナイト・スクープ!転校生は巨大ロボ!?
教室の窓に射し込む光が赤い。
少し前まで生徒達の声が弾んでいた廊下は静寂。校庭で練習をする運動部の掛け声もそろそろ聞こえなくなってきた。
下校時刻が超過したとき、怪奇現象調査倶楽部の活動は開始する。
*
「さあ、まずは勝手知ったる2階からいこう!」
音頭をとるのは舞。
左手にはペンライトを持ち、腰に括りつけたポーチからは筆記具、ピンセット、物差し等が頭を出している。
自分達の教室から出ると、舞は天井に通路の片隅、果ては窓のサンに至るまで視線を滑らせながら歩いていく。
少女は本気で『学校の怪奇現象』を発見しようとしているのだ。
張り切って先行する舞の後ろに、基と光がぞろぞろと続いた。
「ねえ舞、さすがに職員室はムリだよ」
三階建ての校舎の隅々を(主に舞が)つぶさに見て回った一行であったが、最後の一ヶ所を前にして壁に突き当たった。
下校時刻からは一時間以上経過し、今や校内に残った生徒は舞たち三人だけであろう。
しかし、職員室には残務処理を続けている教師が数名居るのだ。
「ガクエンの平和のためだから!先生だって話せば分かってくれるよ!さあ、行こう行こう!」
「……どうして僕を先頭にするのさ」
威勢よく言うと同時に自分の背後に回った幼馴染に、基はため息をつく。
「基は先生たちからノーマークじゃん!」
「すると、舞はマークされているのか」
新人の光が素朴な気付きを口にする。
「いつもこんな事やってるからね」
いつも付き合わされている幼馴染の少年が肯定する。
「自他共に認める問題児、といった所なんだな」
「うー!礼座くんヒドーい!基はズルーい!いっつも私だけお説教だし!」
光は「さもありなん」とコメントしようかと思ったが、目の前の少女の目が少々潤んでいたので言葉を引っ込めた。
*
「……よし、ドアをそっと開けて覗く作戦でいこう!」
結局、入室を思い止まった舞が対案を出す。
「その方が遥かにマシだろうね」
基が頷く。実際の所は、下校時刻を過ぎて職員室前をウロウロしている現在の状況そのものがアウトであったが。
「いや、無理がないか?」
成り行きを見守っているかに見えた光が口を挟んだことに、舞と基は少々驚きながら彼の方を見た。
「探しているのは『糸』なんだろう?扉から覗き込んだ程度では発見できないんじゃないか?」
見たところポーチに必要以上に小道具を詰め込んできている舞だが、虫眼鏡や望遠鏡の類は手にしていない。
職員室は通常の教室二つ分の広さがある。
扉からできることと言えば、せいぜいその空間を見渡す程度であろう。
光は、そのような非現実的な方針に、常識的な思考をすると思しき基まで頷いていることに違和感を覚えた。
(マイに適当に話を合わせている可能性もあるが……いや、そうであれば、そもそもここまで付き合わないだろうな)
「あ、そうか。礼座くんは知らないもんね」
はたと得心した様子の基に、光が疑問符を浮かべたところで舞が言葉を継ぐ。
「私は目がとっても良いの!」
「目が良い?」
「そうそう!だから双眼鏡とか必要なし!」
「昼間なら空の上の方を飛んでる鳥の羽毛まで見えてるらしいよ」
「気合を入れれば1キロ先だって見えるもの!ここから糸を見つけるなんてよゆーよゆー!」
「そ、そんな能力があったのか、君は……!」
舞は、光の驚いた表情を見て得意げに胸を張る。
(それが本当なら、市街地で生活する少女に備わる視力ではない……『千里眼』か)
舞は、中の教師達に気付かれぬようそっと扉を開け覗きこむ。
光は、その姿を注視する。彼の視線は、彼女に流れる経絡――精命力の流れを観察する。
(やはり。視覚を強化する
かつて活躍した退魔士達の中には、身に奔る精命力の流れを操作することで超人的な力を発揮する者達が居た。
今は亡き国主明彦が地底にて見せた身体能力もその一端である。彼は退魔士の末裔であった。
光も、退魔士たちの能力は知っている。故に、無邪気に超常の力を使いこなす少女の姿に驚いたのだ。
「舞、何か見えた?」
扉の前に屈みこんで小さく唸りながら職員室を覗く舞に基が話しかける。
短めに丈をつめたスカートから覗く肌色は極力視界に収めないようにした。
「んー、んー……ん!?何だろアレ?アレのことなのかなあ」
「マイ、俺たちにも分かるように説明してくれないか」
「壁にかかってるホワイトボードの裏から、キラキラした『糸』みたいなのが見えてるの」
ホワイトボードは、舞達の居る地点からちょうど対角線上に位置する壁に掛けられていた。
「変な揺れ方だなぁ。なんかアレ勝手に動いてない?」
「いや、僕たちには見えてないから」
「よぅっし!手がかり発見したし、誰も居なくなってから回収しよ――お?」
目を輝かせながら基たちの方へ振り返った舞の表情と動きが固まる。
彫像のように硬直した顔面に冷や汗が伝った。
「あなたたち、こんな時間に何やってるの?」
基と光の向こう側に、担任教師・片桐真心が腕組みをして立っていたのだ。
*
「下校時刻を過ぎてからの活動は許可をとらなきゃいけないの。理由わかるわよね?」
「はい」
「言ってみて」
「ええと……危ないから」
「どう危ないのか分かってる?」
「一反木綿とか?」
「イッタンモメン?」
「妖怪」
「もっと現実的な想像をしなさい!」
教師の説教は一時間に及んだ。いつも通り舞が集中的に絞られている。
「……はぁ、もう暗くなってきたし、今日の所はさっさと帰りなさい」
「先生、でも、でも」
いつもであれば平謝りして翌日には何処吹く風な舞であるが、今日は食い下がる。
「見つかりそうなの!このチャンスは逃したくない。お願い、先生!」
「今回は本当に何かが見つかっているんです。だから舞はどうしても調査を続けたいんですよ」
基が幼馴染の言葉を落ち着いた調子で補う。
年若い女教師は、自分の方をまっすぐ見つめてくる少女の視線に、眉の端を下げた困り顔をつくった。
彼女とて、教え子の熱意が本物であることは感じられる。
「だけどねぇ。さっきも言ったけど、もう遅いし」
「先程言っていたといえば……片桐先生。この時刻であっても許可が得られれば良いんですよね」
会話に割り込むタイミングをはかっていた光が、教師との交渉を試みる。
「俺達の部の顧問の先生に、事情を話して貰えませんか?今日会ったばかりの俺にも、マイが一生懸命なのはよくわかる。協力したいんです」
光の言葉を聞き、明るい顔で膝を打つ舞に基。
一方、真心は引き続き困り顔である。
「礼座君、僕達の顧問は片桐先生なんだ」
「それなら話は早い。お願いします、先生」
光が美少年スマイルで揺さぶりをかける。
「で、でも、夜遅くに子供達だけじゃ……家の人だって心配してるでしょう」
「連絡済みです」
すかさず基が答えた。
「私達だけじゃ危ないのなら、先生も一緒に来て!おねがい!この通り!」
舞は今にも土下座を始めそうな勢いで頭を何度も下げる。
後ろに控える二人の男子生徒も、真剣な眼差しをこちらに向けてくる。
もはや、頼みを無下にできる空気ではなかった。
「え、えぇー……」
眼鏡越しに視線を窓の外へ泳がせる。既に日は暮れ夜空に星が瞬いている。
自分以外の教師もほぼ退勤し、校舎の中はいよいよ不気味な静寂が包んでいた。
新人教師・片桐真心は、一言で言えば怖がりであった。
夜の校舎が放つプレッシャーと、教え子の期待が彼女を板ばさみにする。
「……一時間だけよ」
散々悩んだ末、遂にうなだれながら教え子の活動を許可。
続けて呟いた「それ以上は私が限界だから」という言葉は、教え子の歓声にかき消された。
*
「ねえ、真っ暗よ……照明つけちゃダメなの?」
「刺激したら逃げるヤツかもしれないし。私は夜もバッチリ見えるから大丈夫」
「
先頭に立ち改めて職員室の隅々を探索する舞。
その後ろに続く基と光に、真心がおっかなびっくりついていく。
「ひっ!な、なにか足を撫でた!?」
真心が精一杯の小声を保ち悲鳴を上げる。
「見せて見せて……ただのケーブルじゃん」
彼女の視線の先を確認した舞が、デスクの端末からはみ出した電源コードの端を振り子のように揺らした。
「まこせんせー、ホント怖がりなんだね」
「うう、先生からせんせーに戻ってるし……」
「片桐先生、もうちょっとで終わりですから」
基に励まされ、真心はいよいよ自身の頼れる大人像が崩壊していくのを感じた。
「頼りない顧問でごめんね……」
目的地である壁のホワイトボードまでは、僅か数メートルの道中。
その間、真心は紙束の擦れる物音やペンに反射した月明かりなど一つ一つに怯えていた。
「糸が無い……」
舞が目的のホワイトボードの裏側や周囲を目を皿のようにして確認する。
「み、見間違いだったんじゃないの……?」
「舞に限って、見間違えることは無いと思いますよ」
「絶対ここにあるハズだよ。私、諦めない」
舞の大きな目が潤んでいる。
なにもないのであればそれに越したことはないと思っている真心だが、舞の純粋さも出来る限り尊重せねばと葛藤した。
暫しの沈黙を破ったのは光である。
「マイ、君は夕方に糸を発見したときも、動いていると言っていたじゃないか」
「はっ!そういえば!」
大袈裟な動作で反応を返す舞。これが彼女の自然体だ。
「移動しているなら、いつまでも同じ場所にとどまっているとは限らない。問題は、それをどうやって探すかだが…」
「ひぁっ!?」
光の言葉を遮り、真心の悲鳴が暗闇の職員室に響く。
「今度は何、まこせんせー」
舞が呆れ気味に真心を見やった。
しかし、悲鳴をあげた真心が気を失い倒れそうになっているのに気付き血相を変える。
「マイ!あの辺りに何かがいないかッ!?」
仰向けに倒れる真心の身体を抱き止めながら、光が一メートルほど先の床を指差す。
舞は、指し示された床材の隙間に白い『糸』が吸い込まれるようにして引っ込んでいくのを見た。
「い、糸!糸が逃げていったー!!」
光が糸の存在に気づけたのは、
突如として片桐真心の精命力が
舞が発見した
光は、怪異の正体は『魔族』であると確信した。
「ど、ど、どどどどど」
ついに見つけた怪異の主、そして倒れた教師。
二つの一大事は舞の許容量を超え「どうしよう」の一言すら口に出せない。
(まずい、かなり精命力を吸われている!)
光は腕の中で気絶している真心の状態を確認。
いずこかへと逃げ去った『敵』を討ち果たさねばならぬ。
だが今は守るべき人間の生命の危機を取り除くことが先決であった。
「舞、落ち着いて。礼座君、まずは先生を保健室へ運ぼう!」
怪異を目の当たりにしても冷静さを保つ基が、状況を判断し光に声をかける。
「ああ、案内してくれ!」
*
「まこせんせー、しっかりして!」
保健室のベッドに寝かせた真心に舞が涙目になり呼び掛ける。
「先生、どうして突然倒れたんだろう」
取り乱してはいないものの、基の表情からも緊張がにじみ出ている。
二人の注意が目を閉じたままの女教師に向いていることを確認し、光は密かに真心の足首に触れた。
光の指先から、真心の径絡に精命力が流し込まれる。
やがて蒼白だった真心の頬に血色が戻り、眼鏡の奥の瞼が開いた。
「せんせー!大丈夫!?どっか痛くない?気持ち悪くない?」
大きな瞳からついに涙をこぼしながら、舞がすがりつくように問う。
「え、と、鍔作さん?どうなってるの?え?」
覚えなく保健室のベッドで目を覚ましたかと思えば、胸に顔を埋めぴいぴいと泣く生徒の姿。
真心の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。
「先生、職員室で気を失ったんですよ」
「ええ!?」
「僕達にもよく判りませんでしたが、何か強いショックを受けられたようですね」
光の曖昧な言葉に、怖がりの女教師は再び卒倒しそうなほど青ざめる。
「やっぱり、何か出るってこと……?」
「いえ、そういう訳では。いたずらに不安を煽るようなことを言ってすみませんでした」
「あなたが頭を下げなくてもいいのよ、礼座君。本当にごめんなさいね。あなたたちの足を引っ張っちゃって」
謝罪の言葉は、特に胸元でようやく泣き止みつつある舞に向けられた。
*
「マイ、ハジメ。これ以上は本当に危険だと思う」
光の言葉に、基が頷いて同意する。
あれほど調査に拘っていた舞も、目の前で真心が倒れたことにショックと責任を感じ、何度も首を縦に振った。
「そうだね、じゃあ今日はもう帰ろうか。舞も、それでいいよね?」
更に首を縦に振る舞は、ちょっとした眩暈を感じている。頭を振り過ぎているせいだ。
「ハジメはマイと一緒に帰るんだな?それでは、俺が先生を送っていきます。まだ少し体調が悪いでしょう?」
「えっ、ええ、そうね、まだちょっと調子、悪いかも!」
精命力の流れを読み取りながら問いかける光に、真心は上ずった声で返事をした。
体調がすぐれないのも実際である。
しかしどちらかといえば、思いがけず美少年のエスコートを受けられることに僥倖を感じていた。
*
朝とは逆の道のりで舞を自宅へ送り届けた基は、自分の帰途につく。
そして朝と同じように、途中で金髪の少年を見かけた。異なる点と言えば、光は迷う様子なく走っていることである。
「礼座君、まさか」
夜闇に駆けていく転校生は、学校へと引き返していた。
基は、成り行き上付き合っているのかと思いきや積極的に調査に参加していた光のことを思い起こす。
彼は、危険の中へ身を投じようとしている。
そう直感したとき、基も駆け出していた。
学校に戻った光は、敷地の四隅に次々と走り、掌から生じさせた光球を埋めていった。
『敵』を逃がさぬ為の結界を張ったのである。
「さあ、出てこい。『
教師・真心が糸に襲われた職員室へ再び侵入し、何処ともなく呼びかける。
同時に、自身の体内を巡る精命力を活性化。
(
魔族は精命力を喰う。
光は自らを囮として敵を呼び寄せようとしていた。
その蜘蛛捕りの罠に、もう一つ精命力の塊が闖入してきたのは光の誤算であった。
「礼座くん!」
「ハジメ!?どうして……」
息を弾ませながら職員室の扉を開いた少年に、思わず驚きの声をあげる。
結界の中に自分と共に“閉じ込めて”しまったこともさることながら、目の前の少年から先刻には感じられなかった精命力の滾りが見られるのだ。
舞の『千里眼』と同じく、基も無意識に何らかの『力』を発現させているのかもしれない――
そのような分析の思考は、密室の隅々から伸びてきた『糸』の襲撃によって打ち切りを余儀なくされた。
「ハジメッ!」
自身へ迫る糸の先をかわすと同時に、突然身に迫った怪異に立ち尽くす少年を抱きとめ廊下に飛び出した。
「ちょ、ちょっと…!」
目の前に糸が現れ、意志を持つように動いたかと思えば、少年に突然抱きしめられる。
基はさすがに戸惑った。
「走るぞ!」
二人は勢い余ってそのまま床に倒れるが、光が受身をとり即座に逃走体勢を整える。
糸は瞬く間に数を増し、廊下を埋め尽くさんばかりの束になって二人を追ってきた。
「い、糸が!?」
「あれが『学校の怪談』の正体だ!」
廊下を全力疾走しながら最低限の言葉を交わす。
「ハジメ、外へ出るぞ!狭い場所では奴の方が有利だ!!」
基が言葉の仔細に疑問を持つ暇もなく、二人の少年は校庭まで走り抜いた。
*
光は月明かりが照らすグラウンドの中央に陣取り、息を切らせる基を背に庇う。
校庭のど真ん中で、何かを警戒して後者の方を睨む転校生に、ようやく喋れる程度にまで呼吸を整えた基が疑問を口にする。
「礼座くんはあの『糸』が何なのか判ってるの?」
「……ああ」
ためらいつつも光は頷く。
「教えてよ。あの『糸』が何なのか。それを知ってる“君”は一体――」
少年の言葉は急激な地震に遮られた。
そして、地表から這い出してきた異形の怪物の姿に二の句も呑み込んだ。
校舎の二階に届くほど巨大な蜘蛛。それが目の前に現れたモノの姿だ。
魔族『土蜘蛛』。
糸を自在に操り、人々の精命力を喰らう異類である。
光は姿を表わした土蜘蛛を睨む。
「奴は君を狙っている。君の精命力を吸い取るつもりだ。片桐先生のように……!」
背中越しに、呆然と見上げる基へ告げる。
基に内在する精命力は通常では在り得ないほどに練り上げられており、それを喰らう者にとっては甘露を差し出されているようなものであった。
「僕が、狙われている……?」
「そうだ。だが、君は俺が護る!」
「護るって……あんなのから……」
「ああ。必ず護ってみせる」
基がそれ以上何かを言おうとする前に、光は守護者としての行動を起こす。
両手を胸の前でしかと組み念じると、校舎の四隅に埋められていた光球が線へと変じ、光の壁――『
この時、結界の外側からは何の変哲も無い夜の校舎が佇んでいるようにしか見えていない。
「今からここで見ることは忘れた方が良い」
光の纏う雰囲気が、いっそう只の少年のそれではない『何者か』の気配に変わってゆく。
「覚えていれば、君は“こちら側”へ身を投じることになるだろうから――」
辰間基は見た。
目の前に立つ少年の全身から、眩い閃光が放たれるのを。
少年が、閃光と共に
*
「我は……
輝く鋼鉄の鎧。闇夜にあってもなお、輝く。
「悪鬼、
空にある筈の月光が、今は此処にある。
*
銀の巨人・光鉄機アイエンが戦闘の構えをとるや、土蜘蛛は跳躍。
頭上を跳び越し後ろへ回ろうとするが、アイエンの鋭い回し蹴りに胴を打たれ、結界の壁に激突する。
「ハジメ、校舎の影に身を隠すんだ!」
アイエンが足元の少年に呼びかける。
基はと言えば、目まぐるしく展開していく非日常の光景を呑みこみ切れていない。
避難を呼びかける声が礼座光のものであったため、辛うじて応ずることができた。
土蜘蛛が大きな壺のような腹の先をアイエンに向ける。
細い孔から空気が噴出す音と共に、幾条もの糸が吐き出された。
糸はそれぞれが意志を持つかのように動き、瞬く間に巨人の両腕を拘束する。
「ムォ!」
巨人が気合を発声すると、両腕が光を帯びる。熱量を生じる精命力により、蜘蛛の糸は焼き切られた。
「ハ!」
糸を焼き切ると同時に、アイエンが左の掌底を打つ。
土蜘蛛との間合いは数歩分離れており、掌の先が対手に触れる筈が無い。
巨人の掌底が空を切った次の瞬間、蜘蛛が悶絶。腹の先端、『糸』の噴射口が何かで焼かれたように潰れている。
アイエンが間合いを詰めぬまま、同様に右の掌を突き出す。
掌底から放たれたのは光弾。いわば
発射して即着弾し、今度は土蜘蛛の複眼を半分焦がした。
怒り狂った土蜘蛛が、光鉄機に圧し掛かろうと空高く跳躍する。
光鉄機アイエンは既に青白い閃光を両腕に蓄えていた。
「オーラ・フラッシャー!!」
掛け声と共に両腕を天に掲げる。
夜空に立ち上った光の柱が、魔族・土蜘蛛を跡形もなく焼き払った。
閃光の飛び交った校庭に、夜の静寂が戻る。
天を灼いた巨人の姿は既に無く、代わりに裸身の少年が校庭の中央に立っていた。
「礼座くん!」
もう一人の少年が駆け寄るのを、礼座光――またの名を光鉄機アイエンは右手を前に出し制止する。
「いいね、忘れるんだ」
言うや否や光は跳躍。夜闇の何処かへと姿を消した。
辰間基は、本当に誰も居なくなった校庭にひとり立ち尽くす。
「舞が居たら、追いかけられたのかなぁ」
未だまとまらない思考の中、その一言だけが口をついて出た
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