第6話 学徒動員!?我ら光鉄機!!
起床した基が階下のリビングへ降りると、父がモニターの公共放送を観ていた。
防刃対策までされた長袖のジャケットに、一通りの作業道具が収められた装備帯を身に着け、傍らには巨大な背嚢に野営用具も括り付けられている。
いつも目にする、開拓調査員・竜の旅姿であった。
「父さん、今日出発なんだ」
「ああ。今回も少し長くなる。その前に、どうしても基の顔を見ておきたくてな」
父は一拍置いて、モニターの中のニュースに目を向ける。
「週末の件、当局がどうにか誤魔化してくれたようだぞ」
他でもないドリル毛羽毛現の一件である。基もモニター上のテロップを目で追う。
「未開地帯の巨大菌類あらわる?」
「あのロボット、嵐剣皇との戦闘も、菌類の出した幻覚物質の仕業ということになったそうだ」
「何だか強引だなあ」
「ひとまずは一件落着……と言う訳でもないんだったか」
竜の視線の在り処は、形の変わった息子に贈った腕輪である。
「基。お前に言っておかなくてはならない」
父の言葉に、基も居住まいを正し耳を傾ける。
「お前が父さんに全てを話してくれているように、父さんも母さんには自分の知り得た全てのことを話している」
竜が話し始めると、ごく自然に母も家事を中断し、夫と息子の傍に立っていた。
「父さんは、お前の話を聞くときは必ず『覚悟』をしている」
「覚悟……」
「真実を見るのなら、覚悟が必要だ。ってね」
父の言葉を次いで、母が言う。
「いま母さんが言った言葉が、父さんと母さん二人の合言葉だ。そして、基、お前にもこの言葉を覚えていて欲しい」
「……僕はヒカルの真実を見たんだから覚悟しなくちゃいけない、ってことだよね」
「その通りだ。大切な人の
基は、尊敬する父の言葉を何度も反芻する。
言葉の意味は分かるけれど、充分に理解できたという確信は無い。
ただ、両親の願い通り、これは心の奥底に刻んでおかねばならないという思いはあった。
「……うん」
だから、少年はただ一言。深く頷いたのだ。
光の宿った左手首の腕輪が熱くなる。舞と離れていて言葉は交わせないが、竜と基との会話はどうやらきちんと聴こえているようであった。
*
父母と言葉を交わした後、いつものように鍔作オーパーツへ出向くと、長い黒髪の眼鏡女性――薙瀬夕の姿があった。
「おはようございます、基くん」
「夕さん!?お、おはようござい、ます」
竹箒で開店前の店先を掃く手を止め、夕が丁寧に頭を下げる。
黒髪から香る大人の女性の雰囲気に、少年の心臓が思わず高鳴った。
「あ!基きたきた!」
基の頭上、二階の窓から舞の声がして、十秒ほど間を置き店先に現れた。
「へっへー、驚いたでしょう!」
「ああ、うん。どっちかといえば舞がもう起きてたことに」
「え!?え、ええと、えっへん!」
混乱した様子で取り敢えず胸を張る舞を見て、夕から思わず笑いが漏れる。
「今朝は私が起こしてあげたからね」
「夕さん、どうして此処に?」
「杜眞理さんの好意で、暫くの間働かせて貰えることになったの」
「事情はだいたい聞いたで。部屋も空いておるし、住み込みでナ」
孫娘が騒がしくなったことで店先の来客をさとった祖母も、ゆっくりとやってきた。
「杜眞理さん、本当にありがとうございます」
夕が改めて深々とお辞儀をする。
「ええよ。こっちもタダ働きさせるようなモンだて」
「私、実は昔からこういう仕事に興味があって。それも含めて、ありがたいです」
*
光は両親の都合により急遽転校したことになっている。
担任・片桐はその件で朝からかなり意気消沈しており、ホームルームも早々に切り上げた。
わずかばかり余裕のある空き時間。
その使い途と言えば、ゆっくりと次の時間の準備をする者、居眠りを決め込む者、雑談に興じる者と、様々である。
「辰間、あの人誰だよ!?鍔作んとこに居る眼鏡のお姉さんだよ!」
級友の男子生徒は、ホームルームが終わるや否や基のもとへやってきて質問を浴びせた。
「今朝登校する時に見たんだ。俺はこの街に居る眼鏡女性には詳しいんだぞ!」
「ええっと、新しいアルバイトの人……らしいよ?」
興奮で顔面が紅潮した級友にたじろぎながら基が当たり障り無く返答する。
基の素っ気無い答えに納得がいかないのか、男子生徒は眉間に皺を寄せた。
「お前さあ、なんかこう、誘引する成分とか出してるんじゃねえの?」
「何だよそれ」
「おかしいだろうよ!お前の周りがなぁ、日に日に充実していってるんだよ。オカルト研究会の顧問は片桐先生。謎の美少年転校生……は転校しちゃったけど、今度は近所にメガネ美女。あと鍔作だ」
「オカルト研究会じゃなくて怪奇現象調査倶楽部だよ……て言うか、そこに舞もカウントするの?」
首をかしげる基に、級友は腕組みをして説明を始める。
「鍔作、最近評判いいんだぞ。なぜならクラスの女子ン中で一番胸が……」
「基ーっ!!ちょっと来て!あ、ヨシオカくん、基もっていくね!!」
騒々しく教室の扉を開け、やってきた舞に男子生徒・ヨシオカの話は遮られた。
「舞、どうしたの!?」
「とにかく来て!大変なんだから!!」
舞は、基の片腕を強引に引き寄せ、脇に抱えるようにして引っ張る。
腕に伝わる感触が否応無しに意識され、少年は緊張。
級友の妬みの視線を背中に受けながら、そのまま屋上まで連行されていった。
「はいこれ!向こうに注目!」
野球のバットほどある望遠鏡――本来は鍔作オーパーツの売り物だ――を手渡された基は、言われるがままに彼方を見やる。
「あれは……嵐剣皇。夕さん、戦ってるんだ……」
未整備の廃墟が残る街はずれに、紅色の巨大ロボットが空を飛ぶ何かを迎え撃っていた。
「なんだろうアレ。火の鳥?」
鳶のような形をしたそれは、全身が燃えていた。炎そのものが鳥の容を為しているようである。
基がこれまで目にした魔族の中では最も小さい部類であった。
「「あれは、ふらり火という下級魔族だ」」
二人の頭の中に、礼座光の声が直接響く。
「「せいぜい空から火の粉を撒く程度の力しかない。ただの一匹、嵐剣皇なら問題ないだろう」」
「そう、なんだ……」
太鼓判を押す光に頷きながらも、舞は張り詰めた面持ちで遥か遠方で戦う嵐剣皇を見守っている。
ほどなくして、嵐剣皇は光の言葉通り、伸長させたドリルの刺突で魔族・ふらり火を串刺しにした。
反撃、抵抗の暇すら与えられず地面に落ちたふらり火が消し炭と化すのを見届け、舞はようやく安堵のため息を漏らす。
「夕さん……良かった」
「「マイ、嵐剣皇と夕は強い。よほどの事でなければ心配は要らない」」
「それは、そうかもしれない……けど。絶対ケガしないなんて、言えないし……」
舞は光の一件以来、戦いとなれば人は傷つくというシンプルな事実を実感し、恐れていた。
*
放課後、一目散に自宅へ向かった舞は、何事も無かったかのように店番をする夕のもとへ駆け寄る。
「大丈夫だった!?夕さん!」
ただならぬ様子の舞に目が点になる夕。ついてきた基が抱える望遠鏡に気付き、舞の胸中を察した。
「……ええ、大丈夫だったわ。心配かけてごめんね」
なお不安そうに見上げてくる少女に、夕は強いて自らの顔から笑みを消すと腰を落とし目線を合わせた。
「これから先、毎回そんな風に騒いでたらもたないわよ?」
「う、うん……」
「ひとつだけ、言っておくわ。約束してもいい。前にも言ったかもしれないけれど、私には『目的』がある。それを果たすまで死ぬつもりはないわ。何があっても……どんなことをしてでも、ね」
物静かな声に、確かな気迫が篭っていた。
舞は今度こそ充分に頷くと、気持ちを切り替えるべく明るく声を張り上げる。
「よーし!じゃあ今晩は、夕さんの勝利をお祝いしよう!」
「だ、だからそんな大げさな……」
「舞って、基本的にこんな感じなんですよ。がんばりましょう」
「夕、勝利祝いはひとまずお預けのようだ」
そう言いながら、嵐剣皇の端末メカが店の奥から夕の足元まで自走してくる。
夕はテントウムシのような形の端末を拾い上げ、外殻を手で開き中の画面を見た。
画面には、居住区画の周辺を哨戒する嵐剣皇本体が観た映像が映し出されている。
端末を覗き込む眼鏡の奥の瞳が、驚愕に見開かれた。
空を覆わんばかりの魔族・ふらり火の大群が、彼方より飛来しつつあったのだ。
*
コクピットに座った夕は、前方の火鳥の群れを睨む。頬には、冷や汗が一筋。
「何匹くらい居るのかしら」
「確認できるだけで100はある。単体であればとるに足らない相手だが、あれだけの数が揃っているなら油断はできない」
「街に辿り着く前に全部叩き落すわよ。いい?」
「心得た」
嵐剣皇の脚が荒野を蹴る。紅の装甲は一瞬にしてその場から姿を消し、遥か前方の敵陣へと踏み込んでいった。
「嵐剣皇、行っちゃった……」
閉館間際の展望台から、戦場へ赴く夕と嵐剣皇の背中を見届ける。
紅騎士の行方は、遥か彼方。舞の視力をもってしても既に影も見えない。
それでも口を噤み虚空を凝視する少女。
一方少年は、この場で最も運命を知り得る友人に問う。
「ヒカル、夕さんたちは大丈夫なのかな」
「「勝算が無いとは言わないが、かなり不利だ。彼女らの底力次第だろう」」
光の言葉はあたりまえの事実を突きつけるものに過ぎなかった。
舞の肩が震えるのを見て、基はもう一つ抱いていた疑問をぶつける。
「……ねえ、僕は何か力になれないのかな?」
「「残念ながら、無い。俺たちにできるのは嵐剣皇の勝利と生還を祈ることだけだ」」
声の主は冷徹に言い切る。
少年は、その答えに納得しなかった。
「嘘だ」
光が言葉を繕おうとする前に、基が更にたたみかける。
「君の一片を身に着けていて気付いたんだ。自分の内側から、得体の知れない力が湧いて来る。これ、君がやっていたように魔族と戦える力なんだろ」
光は、光鉄機アイエンは押し黙る。
精命力の供給を得る為に、基と舞の経絡は光と繋がっている。
それゆえに肉体を失った現在の光は、宿主である基たちと視覚や聴覚を共有するに至っている。だが同時に、光の持つ感覚も共有されているのだ。
見え透いた誤魔化しは意味をなさない。光の沈黙は、疑問を肯定するものだ。
「駄目だよ基……」
基が戦うと口にした時、舞は血の気が一気に引く思いがした。
喉の奥から一度声を絞り出すと、たちまち絶叫に似た悲痛な響きとなる。
「戦うって、ケガをするかも……死んじゃうかもしれないじゃない!そんなこと、しちゃダメだよ!基まで行っちゃったら私……」
少女の脳裏には、胴に大穴を開けられ倒れる光鉄機アイエン――友人・礼座光の姿。
鮮明に焼きついた光景を思い起こし、大きな瞳に滲んだ涙が一粒落ちる。
「僕は、行く」
泣き出した幼馴染の少女に、少年は決然と言う。
「僕は今、ヒカルと共に戦うことができる。そうだよね」
「「――ああ、そうだ」」
「それが真実なら、僕は覚悟を決めなくちゃいけないんだ!」
少年の友情は、稲妻の如く鋭い激情となる。
「「基、ならば俺も覚悟して君の思いを受け止めよう。舞、今度こそ無事に戻ってくる。基も、夕も一緒にな」」
もはや舞には、彼らの背中をも見届けるしかなかった。
「「俺の欠片と君の精命力を合わせれば、光鉄機は復活する。叫べ、
光の導きに従い、辰間基は左腕を掲げ迸る想いを言霊に乗せる。
「
少年の身体を閃光が覆い、光球と化す。
球は展望台の窓を素通りし、天辺に位置したところで数倍に膨張。
球状であった光がたちまち人型を為し、
再び顕現した光鉄機アイエンは、鋭い跳躍を繰り返し街を駆け抜ける。
沈みゆく夕陽に溶けていったその姿を、舞は暫く呆然と見つめていた。
だが、やがて少女は涙を拭うと、巨人達の戦場を目指し走り出したのである。
*
連続して飛来するふらり火の体当たりを、かわし様にドリルを一閃。
10匹からなる編隊は一瞬にして壊滅した。
力を失い灰になる仲間に怯むことなく、次の群れが嵐剣皇に殺到する。
際限のない波状攻撃に、搭乗者である夕の呼吸は徐々に乱れ始めていた。
「大丈夫か、夕!」
「ま、まだいけるわ。目の前に集中しなさい、嵐剣皇」
刹那、後方から突撃してくる火の鳥への対応が遅れ、衝撃に体勢を崩す。
僅かな隙を逃さず、連なる火球の群れが迫る。
そこへ一条の光線が追撃を遮り、同時に群れを焼き払った。
「光鉄機……もう力が戻ったの!?」
「夕さん!僕も戦います!」
光鉄機アイエンから聴こえてくるのは、辰間基の声である。
「「ハジメ。俺の思考を君に
光鉄機となった基の脳裏に光の声が響く。
基は無貌の鉄面で頷くと、空を埋め尽くすふらり火の一群の前に躍り出た。
新たな標的を認識し、まっすぐ突っ込んできた者を掌底で打ち払い、光弾の追撃で撃破。
同じ手順で数匹を葬る。
列を為して飛び来る群れには、光線を発射した右腕をなぎ払い一掃した。
魔族を迎撃する体術も光線技も、一連の動作は全て脳髄に直接流れ込む指令のままに行っている。
身体を動かしているのは紛れも無く自分なのだが、それでいて誰かに手足を操られているような不思議な感覚だ。
「光鉄機、復活したみたいね」
「今、精命力の反応をスキャンしてみたが……どうやら身体は基少年が動かしているようだ」
「それって、どういうことなの?」
光鉄機の参戦により負担が半減した嵐剣皇と夕には、同じく迎撃を続けながら会話を行うだけの余裕が出来ていた。
「完全復活しているかどうかは、疑わしいということだ」
嵐剣皇の分析は正確であった。
大群魔族に敢然と立ち回る光鉄機だが、攻撃を重ねる毎に発射される
翳りはそのまま、威力の衰えとして現れる。
一撃のもとに粉砕していたふらり火に、やがては二発、三発と打ち込まねばならぬほどに減衰していった。
(やはり、ハジメひとりの精命力では長くはもたないか)
状況を打開するには、力不足。光鉄機が勢いを失ったことで、戦線は徐々に居住区画に向け後退してゆく。
*
鍔作舞は我武者羅に走った。
走れば走るほど、その先の光景が徐々に鮮明に見えてくる。
戦いの光景だ。とんでもない数の敵に、友人達がたった二対で挑んでいる。
恐怖にすくみそうになる両足を、一握りの勇気で奮い立たせ走る。
瞳から溢れていた涙は、風を切るうちに乾いていた。
舞にとって大切な二人の友人。もっと大切な、幼馴染。
彼らは皆、人々を、舞を護るため戦場に身を投じ――今、窮地に立たされている。
大切な人達が傷つき命を落とす。それだけは嫌だ。
そんな光景はもう見たくない。そんな気持ちは、もう味わいたくない。
そんな風には、絶対にさせない――
心臓が弾けそうになっても走り続け、ようやく少女は“追いついた”。
紅の騎士と銀の戦士、二人の巨人の足下へ。
*
「舞!?危ないから早く逃げて!」
「イヤ!私も……私も戦う!大事な人が居なくなっちゃって、何もできないで泣くだけなんて……もうイヤ!」
少女の胸にあるのは、今はもう写真の中でしか見ることのできない両親の笑顔。
烈しい愛が、燃えている。
少女の叫びに、胸元に提げられた指輪――光の欠片が呼応する。
「「ハジメ、マイ……力を合わせよう。俺たち皆で戦うんだ!」」
舞が胸元で輝く指輪を両手で包む。
祈りを捧げるように、決意の祝詞を口にした。
「
アイエンの身体が再び光球と化し、二つに分裂する。
その片方が、舞と重なり融け合う。
光球は並び立つ二つの影を創り、収束。大きさは人間の身の丈からおよそ三倍ほどである。
その姿は、かつての光鉄機アイエンのものではない。
巨大な爪を持つ四肢に逞しい尾を持つ蒼い龍人が、左腕の銀の篭手を構える。
「光鉄機……
辰間基が、名乗りを上げた。
肩口から伸びた翼を羽ばたかせ、朱色の翼人が空中に立つ。
龍人と対をなす右腕、銀の飾り羽が沈み行く夕陽を浴びて赤く煌いた。
「光鉄機、
鍔作舞の声が空にこだまする。
少年少女の想いを力に変え、光鉄機は新たなる姿を得たのである。
「光鉄機が二つに別れた!?」
「私のセンサーが以前とは全く別物の反応を検知している。どういう仕組みかは分からないが、あの三人は『変身』したのだろう」
「変身したってのは見ればわかるわ。つまり、あなたも知らない何者かになっているってことね」
「体はさっきより小さくなったけど、その分軽い!」
ドラグとなった基が跳躍。
空中の敵を脚の爪で掴み、大地に叩きつける。
滞空した状態から着地までに、間合いに入った相手を拳と蹴りで連打。
着地するや、次々と急降下してくる火の鳥を廻し蹴りと尾の打撃で迎え撃つ。
「「ハジメ、
脳裏に響く光の声に答え、ドラグの左腕が紫電を帯びる。
左腕を右肩の辺りから袈裟懸けに薙ぐと、精命力の紫電が鋭い槍を形成。
龍人が槍を風車の如く回転させ、ふらり火の大群に斬り込んだ。
意志を持った雷雲が瞬く間に火の鳥たちを叩き落としていく
「舞、頼んだよ!」
大群相手に互角以上に立ち回りながら、ドラグは宙を舞う比翼に伝心した。
「いつもより……すっごく遠くまで、ばっちり見える」
セイルとなった舞の眼は数十km先を鮮明に捉えている。
視線の先には魔族・ふらり火を口から吐き出し続ける巨大な顔面。
「何だろあれ。大きいおじさんがタイヤにはまってるみたい」
「「魔族・
「アイツが火の鳥の巣ってコトだね……基、夕さん、敵の親玉、発見した!!」
舞の報せを聞き、嵐剣皇が外部スピーカーで指示を出す。
「これより敵本体まで急行する。二人とも、私が目標を殲滅するまで持ちこたえていてくれ」
「ううん。行かなくってもいいよ嵐剣皇」
首を横に振ったセイルが、再び遥か彼方の敵を見据え言う。
「ここからなら全然、届くから!」
小さな盾のように右腕に折り重なる4枚の飾り羽が、手首を中心にして十文字に展開。
翔炎セイルは右手に剣指をつくり前方へ伸ばすと、矢をつがえた弓を構えるが如く半身になる。
指先の延長線上には見据えた輪入道の口――小型魔族の“発射口”だ。
翼人の指先がストロボのように鋭く発光。
間髪入れず輪入道の口内で爆発がおきるのを、舞は確かに見届けた。
「「あれだけの大きさ、一撃では足りないか。だが、急所を狙えば必ず倒せる!」」
王手を指されたふらり火達が、セイルに殺到する。
セイルは空中で何度も身を翻し体当たりを回避するが、狙撃体勢をとることが出来ない。
「この!ジャマだってば!!」
舞は苛立ち手近なふらり火を殴りつけるが、墜落はおろか大したダメージも与えられず、一時的に追い払うことしかできない。
セイルの周囲を旋回するふらり火の群れを叩き落すのは、投擲された雷の槍と伸び来たドリルである。
「舞!こいつらは僕たちが引き受ける!」
「あなたは狙撃に集中して!」
翼人の眼が再び輪入道を捉える。
構えた右の指先が閃光を発する度、ごく僅かに切っ先を傾けていく。
単なる揺れにしか見えぬほど微細な動き。
だがそれこそが遥か遠方の標的を次々と狙う照準の動きである。
「いち!にぃ!……さんッ!!」
輪入道は遂に彼方の
主たる輪入道の消滅と共に、空を埋め尽くしていたふらり火の大群も力を失い、次々と地に落ち霧散していった。
*
「終わった……の?」
「周囲に魔族の反応は無い。敵は一層できたようだ」
夕陽の沈みゆく空を見上げ警戒するドラグに、嵐剣皇が言う。
報告を聞き、コクピットの夕、基、舞は同時に安堵。張り詰めていたものが一気に緩み、入れ替わりに疲労感が押し寄せる。
「疲れたぁ~」
萎んだ風船のように脱力し空中からへろへろと降りてくるセイル。
ドラグの傍らに着地すると、鍔作舞そのままの仕草でガッツポーズ。基も頷いてそれに応えた。
「二人とも、おつかれ様!」
嵐剣皇のコクピットから降りてきた夕が、巨大な二体の光鉄機を見上げる。
手を振りながら声を張り上げる彼女を見て、少年少女は改めて自分達が光鉄の巨人に変身していることを実感した。
「「そろそろもとの姿に戻ろうか」」
光の言葉が頭に響くと共に、ドラグとセイルの体が光球に包まれる。
元に戻った基と舞を見て、夕の目が点になる。
一瞬の静寂の後、素っ頓狂な悲鳴をあげたのは基少年である。
「え、ちょ、ちょ、ちょっと…舞!?なななな、なんでそうなるの!?」
これまでに見たことのないうろたえ方をする基を怪訝そうに見る舞。
やがて目の前の少年が上着はおろか下着すら身に着けていないことに気がついた。
「ん?基、ハダカだ……え?え?ええぇぇえ!?」
そして自らも生まれたままの姿になっていることに気付き、同じく悲鳴をあげる。
少女は、最近発育が目立ってきた自分の上半身を両腕で抱き、その場にしゃがみ込んだ。
「「……二人とも、すまん。言い忘れていた」」
少年少女の肉体に唯一身に着けられているブレスレットとペンダントから、謝罪の声が響く。
「「服まで巨大化させることはできないんだ」」
光の声も、今の二人には届いていない。
「基、み、みみみみみ見た!?」
「……大丈夫!そんなにしっかりとは見えなかったから……」
「見えちゃってるじゃないぃ!うわーん!!」
「なんと言うか、不便ねぇ。じゃなくて、不憫ねぇ」
うろたえ続ける基と泣き出した舞に苦笑と若干の同情をしながら、夕は嵐剣皇のコクピットへ毛布を取りに行くのであった。
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