25 (Sun) 10:00 また来年



 昨日の夜中には雪は止み、岩城線は運転を再開してた。40分くらい電車に揺られて家に戻ると、リビングにはサンタのコスプレをしたお父さんがうなだれて座っていた。


「ど、どうしたのお父さん……」


 お父さんはただ肩を落としてため息を吐くばかり。格好の浮かれっぷりとは裏腹にずいぶん落ち込んでいる。


 するとおばあちゃんが部屋から出てきて、笑って言った。


「お父さんね、昨日夜までお仕事っていうの嘘だったらしいのよ。この格好で帰ってきて、雪乃ちゃん驚かすつもりだったそうなの。今までちゃんとクリスマスに家族サービスできなかったからって」


「はぁ? だったら先に言ってくれればよかったのに。そしたらバイト休んだし」


 私がそう言うと、お父さんはぶんぶんと首を横に振った。


「先に言ったら面白みがなくなるだろう! それに……年頃の娘を家族行事で縛るってのも申し訳ないというか……その、昨日の夜は……」


「ちゃんと電話したでしょ。バイト先のおうちに泊めてもらっただけだってば。彼氏とかじゃないから」


 そう、バイト先に泊まっただけ。桜庭の部屋でのことは……思い返すと顔が赤くなってしまいそうで、無理やり頭の隅に押し込めた。


「とにかく! また来年、楽しみにしてるからさ」


 さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいに、お父さんがぱぁっと顔を輝かせた。「そのコスプレはどうかと思う」と言おうか迷ったけど、嬉しそうな表情を見ていたらなんだか野暮な気がしてやめた。




 リビングでつけっぱなしになっているTVから、陽気なクリスマスソングが流れ出した。


 クリスマスって、そんなに好きじゃない。子どもの頃からサンタさんにプレゼントをもらっている同級生の話を聞くのが苦痛で仕方なかったし、クリスマスだからって張り切っているカップルを見ると少し引いた気持ちになる。


 だけど、今年はちょっと良いかもって思った。別に高いお金を払ったり、特別なことをする必要はないんだ。家族でも恋人でも、心を許せるのならネット上の友人でもいい。一年に一度、一緒に過ごせる人がいることの幸せを噛み締めるための日なのだとしたら。




——来年は、桜庭に何かプレゼント買ってみようかな。




 なんとなく、そう思った。




〜番外編特別版 クリスマスの過ごし方 終わり〜



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