番外編特別版 クリスマスの過ごし方(リアルタイム連動企画)

24 (Sat) 10:00 普段通りの土曜



 クリスマス。一年の中で一番、誰かと一緒に過ごしたくなる日。


 昔は12月に入ったら玄関にリースを飾って、イヴの夜には家族でケーキを食べて、25日の朝はドキドキしながら枕元のプレゼントを開けるなんていう過ごし方をしていた。


 けど僕はもう高校生だ。さすがにサンタの正体が誰かなんて知っているし、子どもの頃にワガママ言って買ってもらった背の高いツリーも、最近は片付けが面倒だとか言って押入れにしまわれたままだ。


 この歳になると、クリスマスを一緒に過ごしたくなるのは家族ではなくなる。家族と過ごすのは少し子どもっぽくて恥ずかしいというか、僕たちが憧れるのはケンタッキーのTVCMのようなクリスマスじゃなくて……




「あら灰慈、今から出かけるのかい? どうせツヅラくんと遊ぶんでしょ」


——そうですよ! どうせ僕にはクリスマスを一緒に過ごす彼女なんていないですよ!




 母さんは靴紐を結ぶ僕の背後で悪気もなくそう言うと、花屋の方から紙袋を持ってきて僕にそれを差し出してきた。


「帰りに鳥飼さんち寄って来て。マリーが今年もシュトーレン焼いてくれたみたいだから、お礼に渡してきなさい」


 紙袋の中にはスズメの人形が乗った正月飾りが入っていた。一通りクリスマス用のギフト対応を終えた母さんの頭の中は、すっかり年末年始に切り替わっている。


「げー、こんなん持って歩くの嫌だよ」


「文句を言わない! こないだのセールの時はゲームばっかりやって全然店を手伝わなかっただろ! 雪乃ちゃんがいたからなんとかなったものの——」


「はいはいはいはい分かったって! 持ってくよ!」


 その時、ガラッと花屋の扉が開く音がした。「おはようございます」と言って入ってきたのは水川だ。駅から商店街の中をずっと歩いてきたのだろう、寒さで鼻の先や頬がうっすら赤らんでいる。


「あれ、水川今日も出勤なの?」


「『も』って何。土日はいっつも来てるでしょ」


「いやだってせっかくお父さんと一緒に住むようになったんだし、クリスマスくらい……」


 すると水川はムッと眉をひそめた。


「お父さんは今日休日出勤で遅くまで帰れないんだって。それに、うちはクリスマスに特別なことするような家じゃないから。サンタさんだって来たことないし」


 彼女はプイと僕から視線を背けると、そそくさとコートを脱いで花屋のエプロンに着替えた。あーあ、朝からやっちゃったよ。こうして水川がうちで働くようになってもう半年くらいになるけど、僕は未だ彼女との距離を大して詰められていない気がする。


 ため息を吐いて家を出ようとすると、背後でくしゅんと小さなくしゃみが響いた。そう言えばもう真冬だっていうのに水川の格好は薄着だ。ショートカットの髪とダッフルコートの間の首元は無防備に晒されていて、見るたびに寒そうだなと思う。前に聞いた時、バイト中心の生活になって、仕事終わりに洋服を買いに行く気力なんてないとか言ってたっけ。






 待ち合わせ場所の団子屋の前まで行くと、ツヅラはもう先に着いていた。彼の首の周りには、冬に備えて羽毛を増やしたまんまるのスズメたちが何羽もとまっている。


「……ツヅラ、お前はあったかそうだな」


「え、なに?」


「いや、こっちの話」


 あちこちのお店がシャッターを上げる音が聞こえる。開店時間に合わせて商店街に流れ始めた有線放送も、今日はクリスマスソング特集らしい。僕にとってはいつも通りの土日だけど、なんとなく街の浮き足立った感じにつられて気分が上がってくるような気がした。


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