24 (Sat) 20:00 炭蓮は癪だが気は利かす



 本っ当に困った。こんなの想定外だ。


 水川がクリスマスイブにうちにいて、一緒に夕飯を食べて、同じ屋根の下で寝る。僕以外の家族が普通に受け入れてるのが不思議なくらいだ。


 夕飯の時なんて、水川がジュース入れて飲もうとしていたグラスが僕の普段使ってるやつだったもんだから、焦って別のやつに取り替えようとして食卓に並んでいたワインボトルを倒してしまった。母さんにはこっぴどく叱られ、炭蓮には「今日のおにい……なんかキョドッててキモい」と蔑んだ顔で言われた。


 せっかく買ってきたプレゼントも、結局タイミングを失ったまま渡せないでいる。水川は炭蓮の部屋で寝ることになったので、夕飯の後から炭蓮がずっとつきっきりで離さないのだ。お菓子とかジュースを部屋の中に大量に持ち込んでいたし、女子会でも始める気なんだろうか。水川はどうか知らないけど、炭蓮は昔からそういうのが好きだ。


(仕方ない……あいつにプレゼントのこと知られたら何言われるかわからないけど、ここは協力してもらうしか)


 僕は炭蓮の部屋をノックした。返事はない。無視かよ。僕はイラっとしてドアノブに手をかける。


「おい炭蓮、開けるよ」




——ガチャ。




 そこに妹はいなかった。いたのはドライヤーで濡れた髪を乾かしていたパジャマ姿の水川で、彼女は僕に気づいてドライヤーを止める。


「どうしたの桜庭。炭蓮ちゃんなら今お風呂に——」


「ごごごごごめん! 悪かった! なんでもないよ!」




——バタンッ!!




 扉を勢いよく閉めてしまったせいで、一階のリビングから母さんがうるさいと文句を言う声が聞こえる。


 身体中が熱かった。全速力で走った後みたいに息も上がっている。頭の中に炭蓮の部屋の中の映像が浮かんでは、首を振って無理やりかき消す。しかしまたすぐに、しかもリアルに、ふわふわと浮き上がってくる。あの一瞬の間に僕はそこまで凝視していたというのだろうか。


 濡れてつややかに光っている黒髪と、身体を温められてほんのり桃色になっている頬と、普段は妹が着ているはずの、少し窮屈そうなパジャマ……




——ああああああだめだ、部屋に戻って筋トレでもしよう。



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