24 (Sat) 22:00 告白
いつの間にかもうこんな時間。母さんやばあちゃんはすでに寝てしまったのか、家の中は静まりかえっていて、外の雪の降る音さえ聞こえてきそうだ。
水川はもう寝てしまっただろうか。僕はベッドで横になりながら彼女に渡すつもりで買ってきた紙袋を見つめる。いっそサンタのフリして炭蓮の部屋の前にでも置いておこうか。いや、でもそれだと炭蓮が勘違いして自分のものにしてしまうかもしれない。せめて水川宛ってことがわかるように名前書いておくか……
そんな時、ドアをノックする音の後に水川の声がして僕は心臓が飛び出るかと思った。慌ててプレゼントをベッドの下に隠して姿勢を正すと、「入っていいよ」と平静を装う。
そっとドアを開けた水川の髪はもうすっかり乾いていたけど、相変わらず身長というか胸元にサイズの足りていないパジャマには目のやり場に困って、僕はなるべく彼女の方を見ないようにした。
「こんな時間にどうしたの? 炭蓮は?」
「炭蓮ちゃんはもう寝ちゃったよ」
「ああそっか、あいつ早寝早起きの規則正しいのが好きだから。水川は寝ないの?」
「うん。ちょっと……桜庭に話したいことがあって」
「え?」
思わず顔を上げる。ドアを背にするようにして立つ水川の顔は少しだけ赤くなっていて、僕と目が合うとうつむいてしまった。口をつぐんで、もじもじと指を組んではほどく。
——なんだこのシチュエーション!
僕の心臓がばくばくと音を立てて跳ね、ようやく収まったはずの興奮が再び身体の底から湧き上がってくる。
僕に話って? こんな時間にわざわざ? しかもなんで恥ずかしそうなんだ?
色んな疑問が光速で頭の中を駆け巡っていく。普段これだけ脳みそが回転していたら、学校のテストでもっと良い点取れるだろうに。
「私ね……」
「お、おう」
水川が再び口を開いたので、僕は少しだけ背筋を伸ばす。彼女は自分を勇気づけるかのようにすっと息を吸うと、視線を上げて、まっすぐに僕の顔を見てきた。大丈夫だよ水川。受け入れ態勢はバッチリだ。なんならこっちはプレゼントだって用意してる。さぁ、聞かせてくれ——
「実は……ずっとサンタさんに会ってみたいって憧れてたの!」
——はい?
あまりにも拍子抜けして僕は体勢を崩しベッドから落ちた。痛い。水川は僕に駆け寄ってきて、顔を赤らめながら言う。
「へ、変だと思ったよね? この歳になるまでサンタさんに会ったことないなんて……私、出来のいい子供じゃなかったから、今までうちにサンタさん来たことなくて」
僕は今夢でも見ているんだろうか。いや、夢なら痛くないか。だけど水川が何を言っているのか、全然頭に入ってこない。
「でも炭蓮ちゃんから聞いたよ。桜庭の家には毎年ちゃんとサンタさん来るんでしょ? だから会ってみたくて!」
僕は床から起き上がって、再びベッドに腰かける。
「……ちなみに、水川は今までどんなクリスマスを過ごしてきたの?」
「どんなって、普段よりちょっと高いご飯とかケーキ食べて……それだけ。靴下飾ったって、サンタさんが来たことは一度もなかった」
寂しげに言う水川に対して、「それは単に水川のお父さんとお母さんがそういう方針だったんだよ」なんて、言えるわけもなく。
「でもサンタさんに会うって言ったってどうするつもりだよ。うちは毎年子どもが寝てる間にしか来ないし」
なぜかと言えば大概クリスマスの日は父さんの仕事が忙しいことが多く、家に帰ってくるのは真夜中だからというわけなのだが——
「見張る!!」
「えぇ!?」
水川はそう言い切ると、いきなり僕のベッドの布団の中に潜り込んできた。「ほら早く」と言って僕も布団の中に巻き込まれ、ベッドの上に
シングルベッド用の布団の中は狭く、お互いの肩が触れ合う。水川の息遣いがすぐ隣で聞こえてきて、甘い香りが鼻をくすぐる。これは……やばい。身体中の熱が一点に集まってしまいそうで、苦しい。
「スズメが一匹、スズメが二匹、スズメが三匹……」
「何ぶつぶつ言ってんのよ、怖い」
必死に雑念をかき消そうとする僕に、布団の中からサンタを見張る水川が無慈悲に言った。
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