25 (Sun) 00:00 白いもじゃもじゃ



 桜庭は本当にバカだ。


 サンタさんを見張ろうって話をしたのに、急にぶつぶつスズメを数えだしたかと思うといつの間にか眠ってしまったらしい。私の隣で、お風呂上がりのワックスも何もついていないピンク色の髪が布団の中に沈んでいる。寝息は穏やかで、よくこんな姿勢で寝れるなと思う。


 とはいえ私もだんだん眠くなってきていた。まぶたが重くて、さっきから時折意識が飛んでいる。でも、今日こそサンタさんに会うんだ。それまでは寝られない。





 また少し眠りに落ちていたらしい。ハッとしたのは、ドアがキィと音を立てて開いた気がしたからだ。ついに……来た? 私は相手に気づかれないよう、布団の中から部屋の様子をうかがう。




——ガサッ。




 ベッドの下から物音がした。覗き込もうとして顔を布団の外から出した時——もふっ。柔らかい感触と共に私の視界は白いもじゃもじゃに覆われた。これがもしかして噂のサンタさんのひげ? 温かい……





 身体が冷える感覚と共に、私はまたハッと目が覚めた。白いもじゃもじゃはもうなくなっていた。部屋中を見渡してみても、眠っている桜庭以外は誰もいない。さっきのは夢だったんだろうか。


 桜庭が起きる気配はないし、そろそろ炭蓮ちゃんの部屋に戻ろう。そう思った時、床に紙袋がぽつんと置かれているのを見つけた。紙袋の中には赤いラッピングの包みが入っていて、「Merry Christmas」と書かれた金色のシールの下に私の名前が書かれていた。


——これって、もしかして……!


 私は自分の頬をつねった。痛い。夢じゃ、ない。


 胸の中がぽかぽか温かくなってくる。今年はお母さんはもういないし、お父さんも仕事だから、きっと寂しいクリスマスになるんだろうなって思ってた。だけど……! 私は昼間花屋にやってきた二人の女子高生のことを思い浮かべる。彼女が言った通り、言葉にしてみて良かったのかもしれない。


 私は部屋を出ようとして、桜庭がまだ丸まったまま寝ていることに気づいた。起こさないように身体を倒して、無理のない姿勢にさせる。一度眠ったらなかなか起きないタイプらしい。彼がそのまま寝息を立てていることに安心して、布団をかけ直そうとした時——


「……! ちょっと、桜庭」


 私の左手が捕まっていた。桜庭は男子の中では身長は低い方だけど、その手は私よりもひとまわり大きくて力が強く、しっかりと掴んで離さない。目はつむったままだし、たぶん寝ているのだろうけど……なんとか引き剥がそうとしていると、桜庭はぼそぼそと寝言のようなものを呟いた。



「うーん……ツヅラ……水川はもっと、胸が小さいと思ってた、よ……」


「さ、最低!!」


——パシンッ!!



 思わず平手で頬を叩いてしまった。それでも起きなかったけど、左手の拘束が弱まったのを見て抜け出し、紙袋を抱えて部屋を後にする。


 はぁ。思わずため息が出る。桜庭のせいで、なんだか眠れる気がしない。彼に握られた場所は未だにじんわり熱を持っていて……心臓はかつてないくらいに、慌ただしく跳ねているから。



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