25 (Sun) 08:00 サンタの正体



 気づいたら朝になっていた。母さんがリビングでコーヒー豆を挽いているのか、香ばしい匂いが漂ってくる。うちの朝食は普段和食が多いけど、今日はツヅラのお母さんが作ったシュトーレンがあるから洋風なのだろう。


 そんなことを考えてからようやく昨日のことを思い出して、ハッとベッドから起き上がる。


 水川はもう部屋の中にはいなかった。いつの間に出て行ったんだろう。昨日は、布団の中で二人で……思い返してみると顔が熱くなってきた。途中で寝落ちしてしまったのが惜しく思えてくる。布団に顔を押し当ててみると、ほんのりいつもと違う甘い香りがする気がした。


 それにしても……起きてから頬がじんじん痛むのは一体なぜなのだろう。






「遅いよ灰慈! さっさと朝食の準備手伝いな!」


「はいはーい」


 一階に降りると母さんが朝食の準備をしている最中だった。ばあちゃんはすでに席についていて、炭蓮はテーブルの上でシュトーレンを切っている。


「おはよう、桜庭」


「あ、おはよ」


 後ろから声をかけられ、僕は振り返った。水川はすでに着替え終わり、いつでも出かけられそうな状態になっている。あのパジャマ姿をもう見られないんだと思うと少し残念だ。


 水川が「ちょっと」と言って手招きをしてきた。僕は彼女について花屋の方に行く。水川は花屋のロッカーに置いていた自分のカバンから何か取り出した。


——あ、それは。


「やっぱりサンタさんはいたんだね。ちゃんと顔は見えなかったけど、噂通り白くてもじゃもじゃのひげだったみたい。今度はちゃんと会ってみたいな」


 水川はそう言って、嬉しげに白いマフラーを首元に巻いて顔をうずめた。うん、暖かそうだ。「白くてもじゃもじゃのひげ」というのが一瞬よくわからなかったけど、彼女の頭上を見て理解する。


「そっか、良かった。水川がそのマフラー使ってくれるんなら、サンタさんもきっと喜んでるよ」


 僕はそっと彼女の頭に乗っている我が家の飼い犬・クララの毛を取った。「何?」と水川が怪訝な顔をする。僕は首を横に振って、「なんでもないよ」とごまかした。





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