2-5 きっとこれからも




「——ああ、思い出した!」



 灰慈が手をポンと叩いて言った。


ってあれだろ? タクローが僕らに花火やる時間を一時間ずらして伝えてきたって日」


「そうそう。やっと思い出したか。あれ、この公園だったよな」


「うん、ちゃんと覚えてるって! 僕が行った時には花火終わっちゃって誰もいなくてさぁ、すっげーがっかりしたんだよ。花火終わってからが僕の出番だったのに」


「ははは、それでお互い御伽術師おとぎじゅつしだってこと初めて知って」


「そうだよ! そんでその後ツヅラが水の入ったバケツにつまづいて、ケツびっしょびしょになってさぁ」


「……は?」




 そんな記憶はない。ないはずだ。




「いや、あれ本当に最高だったわ! 今思い出しても笑える……! クールイケメンのツヅラのズボンにオネショみたいな染みがついてさぁ……ぷくくくく」


「ちょっと待てよ! それ捏造ねつぞうしてないか!?」


「ツヅラこそ都合の悪いことだけ忘れてるんじゃねぇのー?」


 灰慈がニヤニヤしながら俺の方を見る。脳裏で母さんがおろおろしながらズボンを洗濯していた記憶が蘇りそうになったが、俺はそれ以上思い出さないように思考に蓋をした。


「……それを言うなら灰慈、俺だってお前の恥ずかしいエピソードならいくらでも知ってるよ。ほら、中学ん時に初恋の先輩の下駄箱にラブレター入れようとしたら、間違って剣道部のゴリマッチョな男の先輩のに入れちゃって、その気があるって勘違いされ」


「うわぁぁぁぁぁぁそれ以上は言うなぁぁぁぁぁぁぁ!」


 灰慈が顔を真っ赤にして俺の口を押さえにかかる。だが俺が立ち上がってしまえばその手は届かない。フランス人の血のせいか俺の身長は健康診断のたびにうなぎのぼりで、小柄な灰慈とは理想の男女くらいの身長差がある。小学生の頃とは随分、お互い見た目が変わったものだ。




——だけど、それでも。




「結局、俺もお前もあの時から悪いとこは全然変わってないよな。俺は相変わらず友達が少ないし、お前は相変わらずお人好しだし。おまけにその欠点を理解してるのが一人しかいない。だから……」


 灰慈は俺の口元から手を離すとフーッとため息を吐いた。


「ずっと友達、ってか? なんだよ、改めて言われると恥ずかしいな」


「ちょっと待て、それ俺のセリフだから」


 灰慈はニヤリと笑う。





——ああ、やっぱり覚えてやがったな。






〜番外編2 ロンリーボーイズ 終わり〜




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