24 (Sat) 14:00 変わり者の客
今日はお客さんの数が少ない。そもそも桜庭花店は店頭での販売よりも、結婚式場やコンサートホール、それに葬儀会館とか、市内での商用の注文が多いらしい。だから先週まではクリスマス飾りの発送でバタバタしていたけど、その分当日は暇だったりする。
私は店番をしながら商店街の通りを眺めていた。暖かそうなよそ行きのコートに身を包んだ少女と、彼女としっかり手を繋ぐお母さん。懐かしい——ふと、そんな想いが頭の中で首をもたげてきた。去年はお母さんは仕事だったし私も受験勉強に追われていたけど、夜遅くにお母さんがスーパーの値引きシールがついたケーキを買って帰ってきて、「こんな時間に食べたら太るね」なんて話しながら一緒に食べた気がする。
「すみませーん、ちょっといいですか?」
「あ、はい、いらっしゃいませ」
気づいたら二人連れのお客さんが店の入り口からこちらを覗き込んでいて、私は慌てて出迎えた。デザイン性の高い、この辺りでは見たことのない制服。女子高生だろうか? 二人は互いに正反対の雰囲気をまとっていた。一人はさらさらの色の薄いストレートの髪で、にっこりと人当たりよさげに私に向かって微笑んでくる。もう一人は深い黒色の髪の毛で、眼鏡の奥から自信なさそうにこちらの様子をうかがっていた。
「実は道に迷っちゃって。ここって地図だとこの場所であってます?」
この街に外から人が来るなんて珍しい。私は明るい髪の女の子のスマホの中を覗き込んだ。目的地のピンが立っているのは住宅街の中だ。誰かを訪ねてきたのだろうか。私がスマホの地図アプリを見ながら道案内をしている間、黒髪の女の子はうんうんと頷いていたけど、スマホの持ち主の方は地図よりも私の顔を見ているような気がしてなんだか落ち着かなかった。
スマホを返そうとしたとき、彼女の手との間にピリッと静電気が走る。
「あ、すみませ……」
謝ろうとしたけど、彼女の方はけろりとした様子なので声が喉の中で消えていく。
「そ、そそ、そろそろ、いい行こう」
黒髪の女の子がどもりながら言い、彼女はうんと頷く。まるで正反対な彼女たちが訪ねたい相手とはどんな人なのだろう。その人と一体どんなクリスマスを過ごすのだろう。そう思っていたとき、店を出ようとして彼女はくるりと振り返った。
「あなた本当は寂しいんでしょう。どうしたいかちゃんと自分の口で言わないと実現しないよ。都合よく心を読んでくれる人なんていないんだから」
「へ……?」
私の頭の中にひゅうと冷風が吹き込んだみたいだ。
どうしてこの人、初対面なのに私の考えてること——
聞き返そうとしたけど、彼女に口を結んで微笑みかけられると、不思議とそれ以上言葉を続ける気にならなかった。二人が街の中に消えていくと花屋の中には静けさが戻り、桜庭の家の方からはバニラエッセンスの甘い香りが漂ってくる。桜庭の妹の
そういえばアイツ……朝早くから出てったけど、今ごろ何してるんだろう。
そんなことがふと浮かんで、すぐにハッとして、かき消すように注文票の整理を始めた。
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