第19話 まてグリーン! 騙されるなフェニ子の罠だ!

「貴方が綺麗すぎるからいけないんだよ」


「(//▽//)」


「ごめん……嫌だった?」


「い、いえ……」


「よかった……。じゃあ、これからフェニ子の家にこない? いまなら、家族誰もいないから……」


 ……いや、ここにおもいっきりいます母上。


「で、……でも」

 視線を斜め下におとし、恥じらいといった様子のグリーン。

 完全に母上のターン。


「だいじょうぶ。フェニ子のコスとか見て欲しいだけ。そうだ! いっしょに撮影もしようよ。おいしいお茶もお菓子もある。なんなら夕ご飯も……お風呂も。それ以外、なにもしないから。……………………………………………………………たぶん」

 さいごの――たぶん。の声が小さすぎる。


「やめてください母上! 眼が狩人!」


「えーすこしだけ。すこしだけだから!」


 なにがすこしだけなのかは、気になったが……。

 母上は外見がロリ美少女だから質が悪い。外見は子供で中身は大人。これは地味に強設定だ。自分の可愛さを自覚している上に、それを最大限に魅せることができる。なによりも、経験が豊富だ。


「あと、グリーンも正気に戻れ!」


「……はっ!? そういえばあたし何を。これは魔法……幻惑」


「ハッくん! 邪魔しないで! だって、こんな娘いないよ! 愛でないと絶対に損! いつ愛でるの? いまでしょ!」


「どういう価値観ですか!」


「……美を、愛する心かな」なぜか遠い目をする母上。


「犯罪者はみんなそういいます。きっとそれは、愛では無くて欲」


「べつに欲でもいいじゃん!」


「現代っ子ですか! そこは思っても否定してください! 親として大問題すぎ!」


「それにしてもハッくん! こんな素晴らしいお友達がいたなんて、なんでもっと早くフェニ子に言わないの! そっちのほうが大問題だよ!」


「お友達じゃないです」オレはきっぱりと応える。


「あ、ごめん。こんな素敵な、がいたなんて!」



「「じゃないです!!」」



「あらら……ごちそうさまでーす。二人とも完全にハモっちゃってー。そんなにムキにならないことー 仲がいいねー」


 ――なんというお約束誤解。リアルでこんな屈辱を受ける日がくることになろうとは……。


「なんか羨ましいなー。あーあ。フェニ子、ふられちゃった……」

 河原の小石を蹴るツインテール少女。そのいじけた感をだす様子はプロのいじけの所作。放ってはおけない!という感情を周囲に沸き起こさせるんだけど……横目でチラ、と。こちららの様子を伺っているのを、オレは見逃さない。


「……あ、ごめんなさい。そんな訳じゃ……ないです!」

 

「まてグリーン! 騙されるなフェニ子の罠だ!」

 オレはおもわず静止するも、その声は間に合わない。

 母上に無防備に近づくグリーン。



「フェニ子のこと嫌い?」


「……き、嫌いじゃ無いです」


「嫌いじゃないということは?」


「え……」


「じゃあフェニ子のこと好き? はっきりと、言葉で言って。言葉にださないと想いは伝わらない。人間はそういうふうに創られた生き物なんだよ」


「す、好き……」


「グリーンちゃん。声がちいさくて聞こえない」


「す、好きです!」


「誰が誰のことを?」


「あたしは、フェニ子さんのことを! 好きです!!」


「グリーンちゃん! なんていい子! フェニ子もグリーンちゃんのこと大好きだよ!」


 がっし――と、グリーンに抱きつく母上。俊敏すぎる動きが捕食者のそれ。 


「だいじょうぶ! 心配しないで! フェニ子は貴方がハッ君の彼女でも、ぜんぜん気にしないから!」


「……いや、そこは気にしていったほうがいいんじゃ?」

 ――いや、グリーンはオレの彼女じゃないんだけどね!


「これから仲良くしよ……むしろ、朝までグリブろうか」

 グリーンの耳元で甘く囁く母上。


「え、あ……」


「だいじょうぶ、グリブるだけだから、だいじょうぶ――――――やさしくする」


「……はい」


 あ、いっちゃった。

 墜ちたな……。グリーン。

 なんというグリーンの包囲攻略戦。見事すぎる。

 

 うん……。

 スマホのゲームをするのに、最期の言葉の意味がワカラナイね!




――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「じゃあフェニ子は先に帰っているね。ご飯の準備する。グリーンちゃんあとでね~ちゅ」キスを飛ばす母上。


 フェニ子母上退場。

 はー……なんかすんごい疲れた。


 河原にはオレとグリーンだけが残っている。ハクはオレの中に逃げ込んだままだ。ずっと黙っているところをみると、昼寝でもしているのだろう。


「ハクト……お母さ、いえフェニ子さん。すごいね……」


「そうだな。色んな意味でな……。おつかれグリーン」オレはグリーンのおかれた環境にはじめて同情をする。


「……あたし、これからどうしよう?」


「知らん」


「どうしよう。フェニ子さんに見つめられたら、あたしがあたしじゃなくなる……」


「じゃあ見なきゃいい。目をとじるんだ。心の目でみるんだグリーン」


「……そういう敵いたなー。サキュバスだったか吸血鬼だったか戦のとき、それやった。なにそのアドバイス? テキトーでしょ?」


「テキトーだ」


「……フェニ子さんの場合、目をとじたらそのまま何をされるかわかなないんだけど」


頬を赤くするグリーン。そのリアクションは何をされるか、わかっている者のリアクション。そして、まんざらでもないだろオマエ……。

 まぁ、あれだけ可愛い子になら何をされても許せるというか、むしろ何かをされたいというのは、人として自然の……って、論点が違う。


「で? おまえいつ帰るんだよ?」


「ん? 帰るってどこに」


「おまえの世界だ【震撃のグリーンブルーファンタジア】の中にだよ。帰ればいい。そうすれば母上の魔の手から逃れられる」


「その手があったか!」


「オレにとっても、そのほうがありがたい……」


「……ありがとうハクト。そうだね。いろいろと想定外すぎたし……いちど帰ろ」


 ……どうせ雑な想定しかしていなかったんだろう。と思ったが、口には出さないでおく。それにオレの置かれた環境が、世間の範囲でいうと想定外気味なのは認めざるをえない。ぐたいてきにはハクとか母上とか……。想定外気味というか、完全に想定フルボッコでオーバーキル。


「じゃあ、ハクトのスマホ貸して?」


「……いや、もうこの世に無い」


「!?」


「さっきに粉砕されたし。オレのスマホ。にな」


「……あ!」


「……は?」


「くっ……」


「おい? グリーン? おまえマジか? ……まさか」



「………………………………………………………………万策尽きたか」



「尽きるの! 万策はやすぎーーーー!!!!」

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